キャンピングカーを買いに行こう

 真夏日となった今日。

 ヒートアイランド現象とせみの合唱によって、外は灼熱しゃくねつ地獄じごく。その為、リビングにある冷房をフルパワーにして、冷気をガンガンに送っていた。

 快適な空間の中で俺は、50インチテレビの大画面でヨーチューブを楽しむ。もちろん、動画は車中泊。テルちゃんTV先生で癒されていると、玄関へ行っていた歩花が戻ってきた。


「お兄ちゃん、郵便が届いていたよ~」


 歩花の手にはA4の茶封筒。


 ネットで注文した覚えはない。

 どこから送られてきた?


 確認してみると『穂住ほずみ銀行』からだった。……穂住? ――って、まさか!! 宝くじの結果が出たんだ。


 俺はあわてて封筒を開封する。すると『その日から読む本』がポロリと落ちてきた。それと一枚の紙がハラリとテーブルの上に落ちる。それを手に取り、書かれている内容に目を通す。


「これは結果内容か」

「え、宝くじの? お兄ちゃん。読んでみて」



「……『宝くじを鑑定した結果、本物である事が確認されましたので、ご指定されたネット銀行宛てに当選金額・六億円をお振り込みさせて戴きました。

 また『その日から読む本』も同封させて頂きましたので、せてご確認下さいませ』……」



 最後まで読み終え、俺は手が震えてきた。……手続きが終わったんだ。あとは本当に振り込まれているかネット銀行の口座を確認するだけ。


 ちょうどテーブルの上にあるスマホに手を伸ばす。画面をタップし、ネットバンクアプリを起動。指紋認証を終えて直ぐに現れる残高。



 そこには――



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  PoyPoy銀行 - Welcome Page

  前回ログイン日時 2022年/7月29日


  普通残高預金【600,002,030円】

  ケロケロ支店/XXX-XXXXXXX

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「「…………うわぁ!!」」



 その異常な桁を視界にいれた瞬間、俺も歩花も石化した。……な、なんだこれ! ゲームのチートあるいはバグのような桁数になっている。


 これが六億円・・・か……。


 なんて破壊力。今は、ただの数字の羅列でしかないけれど、すげぇ額だ。これを現金にしたら、とんでもない束になるんだろうな。ていうか、銀行口座に六億円預けられるんだ……知らなかった。



「や、やったな、歩花」

「う、うん……。本当に当たったんだね。わたしは、今やっと実感が沸いた……」



 へにゃへにゃっとその場で腰を抜かす歩花。気持ちは分かる。この額を前にしたら、誰でもあせるし、ビビる。まだ夢と現実の狭間はざまのようだった。


 ――さて、こうなると、このお金をどう分けたものか。



「歩花、いくら欲しい?」

「……え、えっと……一万円くらい、かな」


「しょ、しょぼっ! せっかく六億円なんて大金があるんだぞ。もっと貪欲どんよくになれって」


「で、でもぉ……わたし、そんな大金を持った事ないもん。あ、でも、お兄ちゃんに車を買ってあげたいから、そのお金は欲しい。あと、これから旅行へ行くなら色々そろえたいかな」



 一万円と言った時は、いくらなんでも遠慮えんりょしすぎだと思ったけど、徐々じょじょに具体的な使い道を示してくれた。――となると、この金額・・・・かな。



「歩花、PoyPoyは登録しているよな?」

「うん。PoyPoy銀行との連携もしてあるよ」

「じゃあ、銀行に送金すればいいか」


 登録してある歩花の名前をタップ。そこへ【20,000,000円】を打ち込む。まずは、税金が掛からない程度で送った。


「あ、入金がありましたって通知きた」

「おう、今送ったからな。確認してみな」

「うん……って、何この金額! いち、じゅう、ひゃく……二千万円!?」


「ああ、少なく思えるかもだけど大金にしちゃうと、贈与税・・・が掛かっちゃうんだ。でも、二千万は気持ちだ。元々は俺の金とはいえ、宝くじを買ったのは歩花だ。だから、これは自由に使ってくれ」


「いいの? 全部お兄ちゃんが管理してもいいんだよ?」

「いいんだ。歩花には幸せになって欲しいから」


 そう気持ちを伝えると、歩花は目尻に涙を溜めた。じわっと泣き出し、飛びついてくる。


「ありがとね! 世界で一番大好きだよ、お兄ちゃん♡」

「こちらこそ、宝くじを当ててくれてありがとう。歩花がいなければ、俺の人生はここまで変わらなかった。これから、車で旅をしまくろうぜ」


「うん♪ いっぱい楽しい事しようねっ」



 そうだ。六億円をゲットして終わりではない。これからが肝心かんじんなんだ。ただお金を浪費して終わりたくはない。可愛い妹と沢山の思い出を作りたい。歩花もそれを望んでいる。


 だから、目標はハッキリしている。



「よし、まずは歩花のプレゼントに期待する。とはいえ……俺の知識も必要だろ?」

「そ、そうだね。わたし一人じゃ、車の事なんて分からない。同行して貰ってもいいかな」

「もちろんだよ。一緒に決めよう」

「うん。それでなんだけど『キャンピングカー』をお兄ちゃんに贈ろうと思っていたんだ」


 なるほどな。キャンピングカーか。軽自動車や普通自動車ではなく、えてキャンピングカーを選択するとは。俺的も、それはアリだった。


 軽や普通自動車の車中泊も、そりゃ魅力満載。けれど、キャンピングカーは更に快適になるし、冷房を使えるというメリットもあった。


 百聞ひゃくぶん一見いっけんかず。

 まずは実際に見に行く方がいいな。



「それなら、販売店へ向かうか。実物を確かめながらの方が歩花も分かりやすいだろう?」

「それ名案。じゃあ、今日もカーシェアリングで!」

「任せろ。金ならいくらでも使えるし、たまにはスポーツカーでも借りてみるか」

「賛成~!」



 決まったところでソファから立ち上がる。準備を整え、家を出た。



「なんて暑さだ……」



 忘れていたけど、外気温が恐ろしい事になっていた……。太陽が容赦ようしゃなく照り付け、肌をがす。あぁ、そうだ。家の中はエアコンで快適だったけど、外は四十度近い。ついに地球がおかしくなり始めているな。


「あ、暑いねえ。お兄ちゃん、日焼け止め塗った?」

「バッチリさ。歩花こそ、大丈夫か」


 可愛らしい日傘を差す、歩花。

 その手があったか。

 俺は日射病対策に帽子を被った。



 さあ、まずは車を借りに駅前だ。

 猛暑の中を歩き続け、汗をにじませながらようやくカーシェアリング専用の駐車場へ。借りる前に自販機でキンキンに冷えたお茶を購入。喉をうるおした。


「――ふぅ。さすがに八月にもなると、歩くのもしんどいな」

「そ、そうだね。お兄ちゃん……」


 さすがの歩花も舌を出して疲れている。このままでは木乃伊ミイラになってしまう。早く車を借りてエアコンをガンガンにしよう。


 今日は、スポーツカーの『RX』を借りようと思ったのだが――既に予約されていた。……終わった。仕方なく空車の『X-VAN』にした。何かと縁があるな。いっそ、サブ車に買おうかな。


 X-VANへ乗り込み、さっそくエアコンをマックスに。冷気が社内を包み、直ぐに涼しくなっていく。軽自動車とはいえ、最近発売されたモデル。エアコンの性能もかなり良い。



「キャンピングカー販売店へ向かう。歩花、シートベルトを」

「おっけー! ……いつも思うんだけど、なんかお兄ちゃんって出発する時に歩花の胸、見てない?」


 ――あっ、ついクセで凝視していた。仕方ないさ、あの大きな胸がシートベルトで押さえつけられ、激しく主張してくるんだから……!



「……自分でやって分からないのか」

「あ……!」



 やっと気づいた歩花は、顔を真っ赤にして手で胸を覆っていた。もう今更だよ……。散々、目の保養になっていた。


「す、すまん。どうしても視界に入るんだ」

「そ、そうだよねぇ。歩花のおっぱいデカいもんね。うぅ……どうして、歩花の胸ってこんなに大きいんだろう」



 悩ましそうに溜息ためいきを吐く。いやいや、それは贅沢ってモンですよ、歩花さん。十分に魅力的だし、形もいいから困る――って、何をまじまじ観察しているんだ俺は!


 変に興奮してしまった。

 それを誤魔化すように、俺はエンジンを吹かして出発する――。

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