21.これからについて
「うおおおおお、すげええ!! 馬がいないのに本当に走っているぅぅぅぅ!!」
「全く子供みたいに騒がないの」
「いや、お前も最初は絶対騒いだろ」
「べ、別に騒いでなんかいないわよ。ノエルったら余計な事を言っていないでしょうね……」
俺はヴィグナが操縦している蒸気自動車に乗って、テンションが高ぶるあまり大声をあげてしまった。蒸気自動車の存在は知識で知っていたが、実際乗ると違うものだ。感動がやばい。魔法よりも魔法みたいだよ。
白い煙をまき散らしながら、走る蒸気自動車は村の連中も物珍しいのか、よく目が合う。
「グレイス様ーー。また、新しい発明ですかぁ?」
「ああ、これがあれば荷物を運ぶのが楽になるからな。完成を楽しみにしていてくれ!!」
「はーい、楽しみにしてます。あ、あとで、今日とれた新鮮な野菜を持っていきますね!! 美味しくできたと思うんで是非とも食べてください」
「ああ、楽しみにしているぞ」
俺が手を振りながら、そんな会話をしているとヴィグナが隣で嬉しそうに微笑んでいる。その目は俺を見守っているようで少しくすぐったい。
「うふふ、すっかり領主が様になってきたわね。それでこの蒸気自動車はどうかしら? 実際使えそうなの?」
「うーん、振動が激しいから山道とかには向きそうにないな……その代わり、荷物を運ぶ力は結構あるみたいだし、そっちの運用で考えてみようかと思う。ただ……壊れやすいものはまだ任せられそうにないな」
俺は蒸気自動車に乗った率直な感想を語る。パワーは馬車よりもあるかもしれないが、その分振動がやべえ。まあ、こんな事はボーマンやノエルならわかっていると思うので、何らかの手段を考えてはくれているだろう。
それに俺が『世界図書館』の知識を使えば何らかの役に立てるかもしれないな。
「確かにこの振動だと、デートには不向きね。あ……」
「うおおおお!!」
「あら、ずいぶんと積極的じゃないの。でも、公共の場でこういうことはセクハラよ」
車輪が石にでも乗り上げたのか、がくんと揺れる。俺は思わずヴィグナに抱き着いてしまったが、彼女はびくりともしていない。どんだけ体幹鍛えてんだよ……
そして、ふらついた俺を受け止めながらぼそりという。
「それで……わざわざ二人っきりになりたがった理由を教えてくれるかしら……まあ、その単に会いたかったってだけでも嬉しいけど、公私混同はどうかと思うわよ」
そう言ってちょっと顔を赤らめる彼女は何とも可愛らしい。しばらく眺めていたいがそういうわけにもいかないだろう。俺は本題に入るために今朝受け取った手紙を彼女に渡す。
「これは……王家の紋章ね。まさか……」
「ああ。クソ親父からだよ。読んでみてくれ」
ヴィグナは不快そうな顔をしていたが手紙を読み進めるにつれて、怒りに染まっていく。ねえ、手紙に集中しているけど、運転だいじょうぶ? よそ見は危ないんだが……
「舐めているわね……今更、アスガルドの開拓の労をねぎらうから話を聞かせてくれですって……どうせ、グレイスが発明したものが目的でしょうに!!」
「どうどう……落ち着けって」
「私は馬じゃないわよ!! あんたはムカつかないの? ガラテアと一緒に王都に忍び込んで暗殺してやろうかしら?」
「そりゃあ、むかつくけどさ……こういうことになるのは予想がついていたし、俺以上に俺のために怒ってくれた人がいたから少し冷静になれたかな」
「グレイス……」
俺の言葉に彼女は何とも言えない顔をする。カイルを倒して、注目を浴び始めた時から、その覚悟はできていた。そして、今はこの招集に応じるしかないだろう。戦力ではまだ絶対勝てないのだから……それよりもだ。
俺は彼女にもう一つの目的に関して訊ねる。
「それで……あいつの動きはどうだ? 何か怪しい事をしていないか?」
「今の所はしっかりしているわよ。今の所はね……さっきの手紙といい、リチャードといいあんたの家族は本当にロクなやつがいないわね」
「そりゃあ、俺の領地にスパイを送るくらいだからな。素晴らしい家族愛だろ」
俺の言葉で何のことかわかったヴィグナが大きなため息を漏らす。最近来た難民にリチャードの手の者がいたのだ。俺が『世界図書館』で人物を調べることを知らないクソ兄貴が送り込んだのだろう。
それもあって銃に関する情報を早めにレメクさんに流したのだ。それに、これはチャンスである。
「リチャードのクソ兄貴は俺がスパイに気づいていることを知らないだろう。偽の情報を掴ませれば……ふふふ……地獄に落としてやるよ」
「まあ、へこんでいないならいいんだけど……あと、もう一つニュースよ。近いうちに近所で争いが起きるかもしれないわ。エドワードさんに物流の流れの変化について聞いておきなさい」
「へぇー、それはなんでまた?」
「隣の国が1年前にうちの国に戦争で負けたでしょう? 戦後復興と賠償金の支払いのために税をあげていたのだけれど……それでも足りないと、さらに重税を課したのよ。それで今ピリピリとしているの。この前街に行った時に冒険者ギルドをのぞいたんだけど、だいぶ冒険者達がそっちへと流れて行っているみたいよ」
冒険者はそういった空気に敏感だ。彼らは主に戦いでお金を稼ぐからな。話を聞く限り、不満がたまった市民や貴族の反乱が起きる可能性が高そうだ……そうなると、住処を失った難民が流れてくるかもしれないし、やけくそになった隣国がこちらを攻めてくるかもしれない。
「ありがとう。戦力の増加の準備をしよう」
「これから忙しくなりそうね……」
「今でもかなりやばいんだけどなぁ……」
気分転換のつもりが何か仕事が増えてきた気がするな……そんな風に思い溜息をすると、手が握られる。彼女の気持ちに感謝しながら俺は手を握り返し……その後、無茶苦茶セック……ではなく死にかけた。
蒸気自動車の運転中によそ見はダメという法律を作ることを決めたのだった。
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領地情報
領民:50名(パーティー後に移住してきた人間26名追加)
異界理解度 レベル4
(触れたものがどのようなものか、またどのように扱うか、及び、原材料に触れた際に中レベルならばどのように使用できるかを理解できる)
技術:異世界の鋳鉄技術
:銃の存在認知→銃の基礎的な構造理解→簡易的な物ならば作成可能
:ロボットの存在認知
:肥料に関しての知識
:アルミニウムに関しての知識→アルミニウムの作成及び加工の可能
:合金の作り方
:ミスリル合金→超ミスリル合金の作成可能
:ゴムの作り方、加工方法
:蒸気ポンプの存在認知
:蒸気の存在を理解
:赤飯の存在を理解
;お風呂の作成方法を発明
NEW:蒸気機関の機能を理解
NEW:蒸気自動車(試作機)の発明
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また、この作品のコミカライズがはじまりました。
水曜日のシリウスさんにて連載開始です。
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