20.領民への割り振り

 難民達が食事をしている部屋を挨拶しに行くと、視線が集まった。



「みんな食事は楽しんでくれたかな? あれ、なんか元気になりすぎてない?」

「あんたの馬鈴薯の力でしょ、魔力が回復するんだし体調も回復するんじゃない?」

「いや、そうはならんだろ……」



 俺がヴィグナに耳打ちをすると何をいまさらと言ったように返された。

 でもさ、なんかさっきまでみんな餓死寸前だったのにむっちゃ元気になってるんだけど。アグニとかムキムキじゃん。骸骨からオークに進化してんじゃん。



「この馬鈴薯は素晴らしいな、元気が出てきて、体も昔の様に戻ったんだ。これは、もしかして特殊な馬鈴薯だったのでは? 私達のためにこんな貴重なものをありがとう!!」


 

 嬉々とした表情でアグニが俺に感謝の言葉を言う。いやいや、知らねーよ。何だよ、その効果。こわ!!

 いや、元気が出るかなって思って一番いい古火竜の肥料でつくったやつにしたけどさぁ……なんかもう、こわくなってきたな……

 気を取り直して俺は難民たちに声をかける。



「気に入ってもらえて何よりだ。それじゃあ、まずは土地の割り振りと、職業を決めるとしようか? お前たちは俺の領地で何をやりたい? それを教えてくれ。可能な限りは願いを叶えてやるぞ」

「え? 職業を俺達が決めていいんですか。あなたが指示をするんじゃなくて?」

「待ってください、土地を下さるのですか? 私達に? 小作農ではなく自作農だというのですか?」



 俺の言葉に難民たちが信じられないとばかりに声を上げる。中には夢ではないかと言うように頬をつねっている者もいる。俺は予想以上の反響に思わずニヤリと笑みをこぼす。手っ取り早く忠誠心を得るための方法だったが予想以上に効果的だったようだ。これなら今の所は反逆の心配はないかな。



「ねえ、そんなにすごい事なの? 土地っていってもこんな辺鄙な所なのよ」

「すごい事ですよ、ヴィグナ様!! 住むのを許されるだけでなく、土地までもらえるなんて信じられません!! 夢の様だ」

「土地っていうのは本来ならば高い金を払って買うか、ここよりももっとやばい辺境の地を何代にも渡って開拓して手にいれることができるものなんです。グレイス様、本当にありがとうございます!!」


 

 ヴィグナの言葉に答えたのはジョニーとアルフレッドと言う二人の青年だ。『世界図書館』で調べたところ彼らは二人とも前の村では農夫をやっていたからだろう、土地をもらえるという大事さがわかっているようだ。彼らは感激のあまりか、涙を流している。

 はっはっは、もっと感謝して敬うがいい。正直俺一人では土地を余らすだけだし、うちの領土に来れば土地がもらえるという噂が流れればもっと、領民も増えると思うんだよな。そして……その中には有能なものだっているだろう。そのための布石である。



「じゃあ、職業も自由に選べないものなの……? 例えば孤児院から拾われた子供が近衛騎士になったりとかは……」

「普通はできないぞ、それは英雄譚などでの話だろう。一般的には農家の長男は農家を継いで次男以下は小作農になるんだ。好きな仕事なんかにはつけないものだよ。ちなみに、孤児院から拾われたり、貴族でもない一般人が貴族に雇われる場合は、せいぜい奴隷に近い召使になるか、慰みモノだろうな。騎士って言うのは貴族の子供か、戦いで武勲を認められたものが騎士になるものだから、近衛騎士になるなんてよっぽど、すごい貴族様に推薦されない限り無理だろうな」

「ふーん、そうなのね……ありがとう」



 怪訝な顔をして答えるアグニにお礼を言うと、ヴィグナはすっごい何か言いたそうな顔でこちらを見つめてきた。

 やっべえ、貸しになると思われるのが嫌でずっと隠してたのがばれた……この話が終わったら適当にワインを飲んで酔いつぶれたふりをしてごまかそう。



「それでお前らの希望は何だ? さすがに向いていないと思ったら、変更はさせてもらうけどな。希望を言うがいい」

「それじゃあ、俺は大工をやらせてもらってもいいだろうか? 以前の村ではずっと師匠の元で修業をしていたんだ。腕はそこそこあると思う」

「俺達は農家がいい!! 自分の土地をもらえるんだ、一生懸命頑張るぞ」

「ああ、俺達の一族は代々農業をやっていたんです、土地をもらえるっていうなら一生懸命やらせてもらいます」

「ああ、アグニは我が領土で大工になるといい、少し先に村の跡地があるんだ、しばらくはその補修をやってもらう、ジョニーとアルフレッドは後で土地を決めよう。ただうちの農業はちょっと特殊なものを使うから後で説明をするから聞いてくれ。後は……ニールとノエルは何がしたい? 希望はなるべく聞くぞ」


 

 俺は難しい顔をして押し黙っている残りの俺より若い二人に声をかける。彼らの本当にやりたい事はわかっている。だが、言い出しにくいのだろう。



「俺も……農業をしたいです。ノエルの分も喰いぶちを稼ぎたいですし」

「お兄ちゃん……」


 

 口を開いたのはニールだった。ふむ、妹のためを思って安定した農業を選んだか……どっかのクソ兄貴たちに見習わせたいな。でも、お前の本当の希望は妹を守れる戦士だよな。だからというわけではないが彼の希望を後押ししてやる。



「わかった。ただ、農業もいいがニールにはそれとは別にうちで衛兵もやってもらいたい。合間を見て、ヴィグナに剣を習っておいてくれ。」

「え、いいんですか……? 俺はただの平民ですよ、衛兵なんて……」

「その表情……やはり本当は剣を習いたかったんだな」



 俺の言葉に彼は目を見開いた。彼は本来の自分の希望ではなく妹のために安定した職業である農家を選んだのだ。適性があるかはヴィグナに判断してもらおう。



「当たり前だろう、お前たちは真実か嘘かもわからないのにこんなところまで来たんだ。俺の記念すべき初の外部からの領民だからな。やりたいことがあったらやらせるくらいの余裕はあるさ。それに、それくらいの得があってもバチはあたらないだろう」

「わかりました、頑張ります!!」



 そう言うとニールは、強くうなづいた。やる気があがったようで何よりだ。あとはノエルだが……彼女は確か料理人だったな。兄が農家と言った手前自分の希望を言いにくいのかもしれない。ならば俺の方からいってやろう。



「そして、ノエル、君はうちでメイドをしてもらう。後で紹介するが、一人メイドがいるが手が足りないんでな」

「え……?」



 俺の言葉に、ノエルはなぜか信じられないとばかりに、困惑した表情でこちらを見つめてきた。ヴィグナの方を見るとなぜか溜息をついて頭をかかえている。

 なにこの雰囲気 あれ? 俺なんかやっちゃいました?

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