19.救う命、捨てる命
「マスター、そろそろ皆さんが落ち着いたとの事です……何をやってらっしゃるのですか?」
俺はあの後みんなに馬鈴薯をメインとした料理をごちそうした後、少し席を外すと言って一人部屋に籠っていた。領主である俺がいるとリラックスできないだろうからな。
とは言え何かあるとまずいので、一応ヴィグナが監視はしている。ああ見えてヴィグナは弱い者や敵意の無いものには結構優しいのだ。俺にももっと優しくしてくれればいいのになと思いながら作業をしていた。
「ああ、今日来た難民たちの情報をまとめていたんだ。俺も今行くよ。そろそろ、話を聞ける状態になっただろうしな。ガラテアの紹介もしたいし」
さっきまでの状況を思い出して俺は苦笑する。馬鈴薯を出したら、みんながみんなお礼を言った後にひたすら食べ始めたのだ。よっぽど飢えていたのだろう。
固形物を食べられないほど弱っていた者がいた時はどうしようと思ったが、ガラテアがすりつぶしたり、スープにしてくれた。さすが、家事は完璧である。
「お気遣いありがとうございます。マスター。いきなり私が出たらみんなびっくりしてしまいますもんね」
「それでさ……その時に俺はソウズィの後継者を名乗ってもいいかな? ガラテアの事とか、ここでの発明品の事とか、色々説明して納得してもらえるだろうし、そっちの方が箔がつくんだよな」
「もちろん、構いませんよ、マスター。むしろ、後継者を名乗るものがいるならばマスター以外には考えられません」
恐る恐る言った言葉だったが思いのほか強い返事が返ってきて俺は驚く。そんな俺の顔がおかしかったのか、ガラテアは「えへへ」と笑いながら少し照れくさそうに言葉を繋げた。
「マスターはすごいです。父の異世界の知識とマスターがもつこちらの知識を組み合わせて、新しいものを作ろうとしています。そして、私の父が諦めていたこちらの世界の産業のレベルを上げるという事もはじめています。そうすることによって、やがて、マスターの周りはマスターが面倒を見なくても成長していく事でしょう。それは我が父も成し得なかった事です」
「いや、それはさすがに褒めすぎだろ……まだまだ、色々と試行錯誤の段階だし……」
「そうですね……確かにマスターには足りないものがあります。甘く優しいところがありますからね。ですが、そのために私たちがいるのですよ。というわけでさっそくお聞きしたいのですが、難民たちの中に真面目に働かなかったり反抗的な人間が現れたら、マスターはどうするのですか?」
ガラテアは微笑みを浮かべたまま、まっすぐに俺に問う。彼女からそんな事を聞かれるのは予想外だった。いつも俺に対して肯定的だったからね。もしかしたら、ソウズィが国を治めている時に何かあって悩んだのかもな。彼はきっと悩んだのだろう。でも、俺は違う、仮にも王族だ。そんな事はとっくに考えている。
「ああ、その時は俺が俺の名で追放し、場合によっては処刑をするよ。もちろん、事情は聴くし、できる限り客観的にさばく。俺が作りたいのは、みんなが笑顔なにぎやかな街だ。みんなの笑顔を壊すやつは敵だからな。この回答は過激か、ガラテア?」
そりゃあ、理想はみんなを導くことだけどさ、所詮俺は人間だ。全知全能ではないのだ。できることとできないことがある。そして、人間にも善人も悪人もいる。俺は自分の敵や悪人まで助ける余裕はない。だから俺は『世界図書館』を使用して害がないかどうかを調べたのだ。
「いえ、理解しました。マスター。その覚悟があるならば難民を受け入れても問題はないと思います。さすがですね」
そういうと彼女は満足そうに微笑んだ。
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