15.ゴム

「どうしたんじゃ、いきなり呼び出して……わしは研究で忙しいんじゃが……ってなんじゃそれは?」

「これでいいでしょうかマスター」

「ああ、ありがとう、ガラテア」



 クリスを送った俺はガラテアと共に研究室にいるボーマンを訪れていた。俺の指示に従って、ガラテアが切り取った木を床に置く。

 本当は外で話したかったのだが、ボーマンはずっと炉で作業をしているためここに来るしかなかったのだ。



「ボーマンに相談があってな。ハリソン商会との取引を始めたんだが、道が悪いらしくてな。馬車のための車輪を改良しようと思うんだ」

「あー、確かにあの道は獣道よりまし程度じゃからのう……木では難しいという事か……鉄で車輪は作れんことは無いが、強度はあるが重いから馬が引くには不便じゃぞ? ああ、もしや、さっさとアルミニウム合金を作れという事かの。人使いの荒い奴じゃな」



 俺の言葉にボーマンが苦笑する。たしかに金属の車輪も考えたけど、今はそっちじゃないんだよな。俺はガラテアが持ってきた木を指さして説明をする。



「いや、それもいずれは頼むが、今はこっちを優先してほしい。これを使って、新しい素材を作るんだ」

「これは……ゴムの木じゃな……これを使ってどうやって? これで車輪を作っても大していいもんはできんぞ」

「ああ、木材としてつかうんじゃないんだよ。使うのは樹液だ。これの本当の使い方を『世界図書館』が教えてくれた」



 俺は切断された部分から垂れている樹液に触れながら『世界図書館』を使用する。



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ゴムの樹液 ゴムの木からあふれ出る樹液。固まった樹液はゴムボールや、消しゴムなどに使われ、酸を加え加熱することによって、弾力性が上がり様々な品物を作り出すことができる。

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 アルミニウム合金に触れて異界理解度が上がったおかげだろう。以前にゴムの木に触れた時よりも多くの異世界の知識が『世界図書館』から得る事ができた。



「なるほど……マスターはタイヤを作るつもりですね」

「流石ガラテアだな。正解だよ。このゴムの樹液は酸を加えて熱する事によって弾力性が増すんだ。酸に関してはヴィグナに頼んでスライムを捕えてくるように言ってある」

「ふむ、準備は万端という事かの。弾力性がある素材か……中々楽しそうじゃのう。色々な事につかえそうじゃわい。さしずめ、そのゴムを車輪に巻くんじゃな?」



 俺の言葉を聞いたボーマンも楽しそうに言った。さすがというべきか、俺とガラテアの会話でタイヤがどんなものか大体の想像がついたらしい。



「これの存在で世界は変わるぞ、ゴムは他にも色々と使いようがあるからな。日用品としても様々な物が発明できるようになるだろう」

「そうかのう、確かに便利じゃが、ちょっと地味じゃないかの」



 そう言うボーマンに俺はにやりと笑って返答をする。ああ、確かにミスリル合金や魔力を回復する馬鈴薯に比べれば地味だ。

 だけど、大事なのはそこではないのだ。俺がゴムを選んだのは大きな理由がある。

 


「それは違うぞ、ボーマン。これをソウズィの炉を使わなくても、誰でも作れるようにして欲しいんだ。理論上はこの世界の技術でも作製可能なんだよ」

「誰にでも……か? いいのかのう? 我が領土のアドバンテージがなくなるぞ」

「かまわんさ、ハリソン商会には力をつけてもらわなければならないしな。それに、俺の『世界図書館』と神のような頭脳、ボーマンの製造能力があれば、ゴムよりもすごいものだって、まだまだ作れるだろうよ。それに……ゴムなら戦いには使われそうにないしな」

「ばかもんが、小僧のくせに変に気を使いおって……わしは別に構わんのじゃがな」

「マスター、ボーマン様、ヴィグナ様がお帰りになりましたよ」



 俺の言葉にボーマンが昔を思い出したらしき一瞬顔を歪める。やっべえ、つい口が滑った……そんな彼を気遣ってか、ガラテアが俺達に声をかける。ナイスアシスト、ガラテアちゃん、マジガラテア!!



「ただいまーこの箱すごいわね……本当にスライムの酸でも溶けないじゃないの」

「ミスリルは強度がすごいからな。あと、俺の正確なマッピング技術だろう? スライム達は俺の示した場所にいたはずだ。そいつらの習性とここらへんの地理を見て、当たりを付けたからな」

「はいはい、グレイスもすごいすごい、それにしても、これは何に使うのよ」



 そう言って、研究室に入ってきたのは、ミスリル合金で作成した小箱を抱えたヴィグナである。こいつに説明してわかるだろうか? まあ、仲間外れにすると拗ねるしな。



「はっはっはー、仕方ないなぁ。愚かで脳筋なお前に説明してやろう」

「あ? 切り取るわよ。いいからさっさと使いなさいよ。あんたの事だからすごい事を考えているんでしょ? どうせわからないから別にいいわよ」



 え、切り取るって何を切り取るんです? この子怖すぎない?……そしてもう、説明を聞く気もないようだ。だけど、彼女の表情から信頼されているのはわかる。だったら意地でも成功させないとな。



「材料はそろった、ボーマン、ガラテアやるぞ」

「うむ、任せろ」

「実験ですね、マスター、私も微力ながらサポートします」



 そうして俺達のゴムのタイヤの作製が始まった。

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