16.ゴムから始まる産業革命

「無理だぁ……もう寝たいんだが……」

「お主は、本当にヘタレじゃのう……若いんだからしっかりとせんか」

「いや、むしろボーマンこそいつ寝てんの? いい年なんだからあんまり無理するとぽっくり行くぞ」



 俺とボーマンが作業をしながら軽口を叩いていると、ガラテアとヴィグナがやってきた。ヴィグナは俺と目が合うとなぜかすぐ逸らしやがった。え? なんなの? もしかして俺クサいかな? 作業してんだけどしかたなくない。てか、ボーマンのが臭いだろ。こいつ水浴びもしないでずっと作業してるぞ。



「マスターから嘘を感知致しました。実はまだまだやる気ですね」

「ガラテア、頼むから感情を読むのやめてくれない?」



 一応みんなが休みやすいように言ったんだけど……あれから俺達は酸の比率だったり、温度などを色々と調整していた。いや、マジで難しいんだけど……ソウズィの炉を使って最適な温度などを調べているのだが、中々うまくいかないのだ。

 まあ、でも、新しいものの発明ってこういうもんだよな。一朝一夕でできるようなもんじゃない。ボーマンなら金属だったらすぐ対応しそうだが、ゴムを扱うのは初めてだからな。



「そんなマスターに朗報です。差し入れを持ってきました。マスターの大好物の馬鈴薯ですよ。さっそく購入してくださった塩とバターをつかってみました」

「おー、ありがとう……ってこれがじゃがバタか」

「はい、異世界の料理です。シンプルですが、素材の質が良い事もあり美味しいですよ」



 そう言うと彼女は皿の上にある料理の説明をしてくる。皮のついたじゃがいもを四つ切にして、バターと塩がまぶしてあるようだ。ホクホクのジャガイモから湯気が出ており、バターが溶けて香ばしい匂いが鼻孔をくすぐる。

 あれ、でもいくつか歪な形のやつがあるんだが……俺はふと気になってヴィグナを見ると彼女は傷ついた指先をさっと隠して、俺を睨みつけてきた。



「何よ、どうせ、私はガラテアみたいにうまくはできないわよ。みんながんばっているのに私だけなんにもしないのが嫌だったから作っただけだし……私が食べるからいいわよ」

「いや、不慣れなヴィグナが俺達のためにがんばってくれたっていうのも嬉しいし、ようやく俺様の部下って言う意識が出たんだなって感動したぞ。うまいうまい、ボーマンも食ってみろよ」

「いや、これは儂は食えんじゃろ……坊主が全部食べるんじゃ」



 俺はさっそく歪なじゃがバタに手を付けながら、ボーマンにも食べるように言うが彼はなぜか微笑ましいものを見るように、苦笑して形の綺麗なやつに手を付けた。別にそこまで味は変わらないと思うんだけどな……



「で……どうかしら?」

「ああ、中々うまいぞ……あれ? 疲労が回復してる気がするな」

「ん? 知らんのか? 魔物の肥料を使った作物を食べると何か元気になるんじゃ。まあ、魔物の強さによって効果の量はかわるようじゃがな。火竜のやつは一日寝ないでも大丈夫じゃが、ゴブリンのは少し気が楽になる程度じゃな。じゃなきゃ儂だってずっとは研究なんかやっとれんわい」

「確かになんか元気が出てきたし、頭がさえてきたな」



 びっくりしている俺にボーマンが言った。いや、この馬鈴薯マジでなんなんだよ。魔力が回復するからか、精神がちょっとハイになって疲れを忘れてるのだろうか?

 


「ヴィグナやガラテアも応援してくれてるし、もうちょいがんばるかーー!!」

「いや、私は別にそんな応援はしてないけど……まあ、なんかあったら言いなさいな、できる限りの事はするわよ」

「ツンデレを感知しました。先ほどまで私も何か力になりたいのにと悔しそうな顔をしていたので、料理を教えてよかったと自画自賛します」

「ちょっと、それは秘密って言ったでしょ……グレイス勘違いしないでほしいんだけど……」

「おい、ボーマン、このタイミングで酸を加えて加熱してみるぞ」

「おお、強度が増しとるな、これらならいける気がするぞい」

「このタイミングとこの温度ですね、記録しておきます。マスター。それにしても異世界の知識を使いこなし、この世界でも作成可能なレベルに落とし込むとは流石ですマスター」

「はっはっはー、このグレイス=ヴァーミリオン様とボーマンが協力すれば不可能はないんだよ、ってヴィグナ何で不機嫌そうな顔をしているんだ?」

「なんでもないわよ、バカ王子!!」



 そんな風に騒ぎながら、疲れたら馬鈴薯を食べ、実験を繰り返し朝日も昇ったころ、実験室に俺とボーマンの歓喜の声が響きわたるのだった。



「できたぞーーー!!!」



 俺はようやく完成したものを掲げて大声で叫び声をあげる。これでこの世界にゴムが広まれば産業の革命が始まるのだ。

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