17.商談

申し訳ありません、前回先のはなしを投稿してました……17話差し替えました。


気を付けます。


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「これはこれはグレイス様、わざわざご足労ありがとうございます。馬鈴薯やミスリル合金は順調に売れてきていますよ。特に馬鈴薯が冒険者や一部の職人たちの間では人気ですね」

「そうですか、それは良かったです。やはり、貴族は中々手をだしませんか……アズール商会など色々しがらみがあるでしょうし、いきなり馬鈴薯で魔力が回復すると言っても信じてはもらえないでしょうしね。ミスリル合金に関しては……これから使い方を研究していっているという感じでしょうか?」

「おっしゃる通りです。さすがはグレイス様です。馬鈴薯はアズール商会の顔を立てるためか貴族は中々手をだしていません。ただそれも、時間の問題でしょうね、口コミはどんどん広がっていますし……ミスリル合金はいくつかの鍛冶師ギルドが興味深そうに購入しています。どこかが有用な使い方を見つければもっと売れるでしょうね」

「そうですか、俺の持ってきた商品がこの街で広まりそうで嬉しいです」



 さっそく新製品を持ってきた俺はハリソン商会の応接間に通されてエドワードさんと商談をしていた。護衛のヴィグナはとある事情で外で待機をしてもらっている。

 クリス経由で聞いたのだろう。俺が好きな紅茶に焼き菓子まで準備されている。至れり尽くせりだな、それだけ、俺が売った商品に価値があったという事だろう。

 そして、俺がアズール商会の名前を出すと、それまで笑みを浮かべていたエドワードが一瞬眉をひそめたのは気のせいだっただろうか? あ、もしかして、アズール商会と因縁でもある感じ? だったらむしろ都合がいいな。エドワードさんにはアズール商会を超えてもらわなきゃいけないんだから。



「それで……グレイス様が今回お持ち頂いたのはゴムとの事ですが……これは……何に使うのでしょう? 確かに私の知っている物よりも弾力性に優れていますね」



 そう言いながら彼は俺の持ってきたゴムの板に触れる。おそらく鑑定をしているのだろうが、異世界知識が無ければすぐには何に使うかわからないだろうな。この世界では現状子供が遊ぶボールとしてくらいにしか使われてないし。



「それに関しては完成品がありますので、外へ来ていただけますか?」

「構いませんが……」



 俺の言葉に怪訝な顔をしているエドワードさんと外へと出ると、一台の馬車が止まっておりそこで二人の少女が何やら話している。ヴィグナとクリスさんだ。



「グレイス様ーー!! ヴィグナちゃんと待ってましたよ。これ本当にすごいですよね、でも、なんで専属の商人である私には話してくれないんですかー?」

「クリス、あなたはなにをやっているのですか……」



 クリスさんはやたらとテンション高めに話しかけてくる。てか、いつの間にかヴィグナと仲良くなったんだろう。あと、別にクリスさんは専属じゃないよな……何か言おうか悩んでいると隣のエドワードさんも頭を抱えていた。



「まあ、クリスさんにも見て欲しかったんでちょうどいいです。彼女はうちの交通状況を知っていますしね、この馬車の車輪をみていただけますか?」

「これは車輪に先ほどのゴムを巻いているんですか?」

「はい、これを巻くことによって車輪のダメージを減らし、ショックも吸収するため乗り心地も良くなります。百聞は一見に如かずと言いますし、乗ってみてもらってもいいでしょうか?」

「ほう……それは素晴らしいですね、お言葉に甘えましょう」



 そうして俺達が馬車に乗り込むとヴィグナの運転によって走り出す。しかもあえて街道ではなく、少し外れた道を走らせる。



「これは……あのゴムが衝撃を殺しているのですか? すごい……」

「ええ、車輪の保護もできるので、長持ちもします。うちまでの道が荒くてご迷惑をかけたようなのでさっそく作成させていただきました」

「確かにあの道はスピードを出すと、お尻痛くなりますし、振動が激しいしで最悪ですからね。エドワード様が、グレイス様には馬車の修理代までは請求できないって頭を抱えていたのでちょうどいいですね」

「クリス!! あなたはヴィグナさんとお話でもしていなさい。ですが、これは中々いいですね、馬車の強度の問題と乗り心地の改善ですか……これなら貴族相手にも売れそうですね。これを切り口にして馬鈴薯も押せば色々と見えてきそうですね」



 俺の言葉にエドワードさんが早速どう売ろうか、考えているようだ。だけど、馬鈴薯や、ミスリル合金の時のような驚きはない。そりゃあそうだよ、あれらは画期的なアイテムだったが、これはあくまで便利なだけだ。

 すごいけど予想の範囲内だったのだろう。だけど、甘いなエドワードさん、本番はこれからだ。



「それではグレイスさん、後でこれをいくらで売ってくださるか決めましょうか」

「いえ、今回俺が売るのは品物ではなく、これの作り方です。このゴムの……『スライムラバー』の製法をあなたの商会に売りたい」

「は? これ自体を売るのではなく、これの作り方を売るのですか?」

「ああ、これはタイヤというんですが、あくまで『スライムラバー』の使い方の一つに過ぎません。あなたならもっと面白いものに使えると信じています」



 俺の言葉に彼は信じられないというように目を見開いた。まあ、そりゃあそうだろう、最初の商談の時に作り方は秘密と言ってあったし、ましてや、製造方法を教えれば俺のアドバンテージはなくなるからな。だが、今回はそれでいい。そのために俺は今のこの世界でも作れる方法で作成したのだ。



「その代わり条件が二つあります。一つはこの『スライムラバー』製品で儲けた利益の一割を我が領土に収めていただきたい。そして、もう一つは、我が領土が街として形になったらあなたの商会の支社を立てていただきたい。今後取引が増えた場合直接その場でお話などをできる方がいた方がこちらもやりやすいですからね」



 俺はクリスさんがヴィグナと談笑しつつも聞き耳を立てているのを確認して大きな声で言う。これで布石にはなっただろうか? 

 俺は、物に関しての知識はあっても、商売の経験はほとんどないからな。いつでも自領の事を相談ができる商社が欲しかったのだ。



「その程度の条件でいいのですか? もちろん構いませんが……ですが、私があなたからゴムの『スライムラバー』の知識を得たら裏切る可能性は考えないのですか?」

「言ったはずです。俺はあなたを信用すると。これはその証明だと思っていただきたい。そして、あなたは一時の儲けにくらんで、それ以上のもうけ話を失うような愚かな真似はしないと思っています」



 俺の言葉に彼は楽しそうににやりと笑う。それはいつもの温厚そうな笑みではなく、まるで目の前に宝物を見つけた冒険者のようなギラギラとした目だ。

 そして、俺達は握手を交わす。そしてその握手で俺は確信した。彼は裏切らないと。



「その条件で承りました。ただ一つお願いが……今度信頼できる中小の商社での交流会があります。その際にグレイス様も来てはいただけないでしょうか? 紹介したい方々がいるのです。みんな顔は広いのであなた様の役に立てるかと思います」

「ええ、もちろんです、その時はお邪魔させていただきます」



 俺は平静を装ってうなづきながらも、よっしゃーーーと脳内で叫ぶ。どうやら彼は自分の信頼できる仲間を紹介してくれるらしい。これがうまくいけば俺の人脈も広がるし、活動範囲も増える。それにソウジィの遺物が手に入る可能性もあがるだろう。

 そして、商談を終えた俺達はハリソン商会へと戻って別れの挨拶をする。



「今回は興味深いお話を色々ありがとうございます。これは必ず役立てさせていただきます」

「いえいえ、私の方こそ、エドワードさんにはよくしていただいておりますので……」

「ああ、そういえば、グレイス様の領地で住民を集めているという話は街に流しています。いつの日か移民がくるかもしれません。素性を知りたい場合は私共にお声をかけていただければ、私たちの方で調べさせていただきます」

「ああ、ありがとうございます」



 馬車に乗ってしばらくたった俺は周囲に、ヴィグナ以外の人がいないことを確認して絶叫した。



「よっしゃーーーーーーー!!」

「よっぽどうまくいったのね。おめでとう」

「ああ、これでハリソン商会は力をつけるし地位もあがるだろう。そして俺はそこの商会長の信頼を得た。完璧すぎてこわいぜ」

「はいはい……でも裏切られるかもしれないわよ」

「いやー、あの人はそこまで馬鹿じゃないし、仮に裏切られてもその時はその時だ。知識はまだまだ手に入るだろうしな。最悪その時は新しい商会をみつけるさ……まあ、『世界図書館』を使った感じそうはならんと思うが……そういや、ヴィグナはクリスさんとなにを話していたんだ?」

「べ、別にあんたには関係ないでしょう」

「ああ、女子会ってやつか……わるかったな、踏み込んで」



 なぜか俺の言葉に顔を真っ赤にするヴィグナ。俺はそれを見てなんか秘密の話だったのかと察する。



「ねえ、あんたは焼き菓子は甘い奴と甘さ控えめどっちが好き?」

「え。そりゃあ、甘い奴のが好きだけど……」

「ふーん、じゃあ、今度つくってあげるわ」

「え?」



 こいつ料理できなかったんじゃ? と言ったら殺されそうなので押し黙る。どういう風の吹き回しだろうね。と思っていると、「おーい」と何やら叫び声が聞こえた。



「グレイス、人よ」

「ん? お客さんか?」


 

 先ほどまでの緩い雰囲気が嘘だったのかの様に彼女の周囲がピリッとして、腰の剣に手をかける。俺もつられるようにして、懐の銃に手をかける。



「おーい、あんた、グレイス様の関係者か? ここで住民を募集しているって聞いたんだが……」

「あ、そっちか。良かった」



 俺がひょっこりと顔を出すと、そこには質素な服をきた五人の男女がいた。中には俺よりも年下の子供もいるようだ。どうやら移民のようだ……エドワードさんの呼びかけは効果があったようだな。



「俺がそのグレイスだ。話を聞かせてもらおうか」

「え?」



 俺が馬車から降りて声をかけると彼らは信じられないというような声をあげた。俺ってそんなに王族っぽくない? ひどくない?

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