14.新しい発明
「ううー、腰が痛いですー」
「大丈夫か? 薬草ならあるから取ってこようか?」
「いえ、そんなの悪いですよ、それに荷物運びなんて私の方でやりますから!! グレイス様は座ってくださっていればいいんですよ」
「そうはいかないだろう、わざわざこんな辺鄙なところに来てもらっているんだしな。俺のほうでもできる事は手伝うさ」
そう言って俺はこの前会ったクリスという名の商人と一緒に荷物を運ぶ。流石にロボットであるガラテアはまだ顔を出させるわけにはいかないし、ボーマンは相変わらず研究室に籠っており、ヴィグナは近くにいる魔物退治をしてもらっている。
暇なのは農作業が落ち着いている俺くらいしかいないのだ。決して俺だけやる事がないわけではないからな!! むしろ有能だからこそ暇なのだ。
「それにしても、エドワードさんも中々人使いが荒いな、俺が頼んだとはいえ。女性一人をこんな辺境に行商に送るなんて……護衛をつけてもいいと思うんだが……」
「ああ、違いますよ、私のスキルが『魔物除け』なんです。だから、護衛とかいないほうが返って楽なんですよ。それに……そっちの方が護衛代も浮きますからね!! あ、これはエドワード様には秘密ですよ!!」
「ああ、そういう感じか……冒険者とか雇うのも結構お金かかるしな……」
俺の言葉に彼女は得意げに答える。この子は初対面では気づかなかったが結構な守銭奴なようだ。まあ、そうでなければ商人は難しいという事だろう。金をどう稼ぐかは自由である。エドワードさんも多分だが、そこは理解しながら彼女に任せているのだろう。
俺がそう思っていると少し言いにくそうにもじもじとした。
「それと……ヴィグナさんに後でお会いできますか? その……この前の事を謝りたくて……」
「ああ、あいつは別に怒っていないけど……そう言ってくれたら嬉しいと思うよ。会話をする時間を作るよ」
「ありがとうございますー。それにしてもあいつですか……もしかして、ヴィグナさんとグレイス様はそういう関係なんですか? この前も私の失言にすごい渋い顔をしてましたし……軟弱な主と女騎士のカップリングいいですねぇ」
クリスさんが予想外に食いついて、目を輝かせていた。やはり、女性だからかそういう恋バナが好きなんだろうか? てか、俺友達がいなかったからこういう恋バナてやつを他人としたことないんだよな。
「へぇー、クリスさんはそういう話に興味があるのか?」
「いえ、全然。ただ、儲け話になるかなと思いまして……どうです? 今なら私が作ったアクセサリーとかを格安で売るんでプレゼントをしてみては?」
「あ、そっすか……」
結局商売かよ……クリスの言葉に俺は少し呆れる。でも、プレゼントっていうのはいいかもしれないな。ボーマンには炉を渡したけれど、ヴィグナには言葉でしか感謝を示していないしな。幸い魔物の素材や、馬鈴薯などを売った金があるので、余裕ができはじめてる。
「でも、あいつはアクセサリーとか喜ぶかな? 武器とかあげたほうが喜ぶ気がするんだが……」
「お、乗り気ですね。ご安心を。意中の男性にアクセサリーをもらって喜ばない女の子はいませんよ」
「意中って……別に俺とあいつはそういう関係じゃないんだが……じゃあ、二つ貰おうかな。一つはヴィグナの蒼い髪に似合いそうな奴で、もう一つは銀髪の女の子に似合いそうなやつを頼む」
「まいどありー!! では、今度もってきますね。しかし、二人の女性にプレゼントとは意外とやりますねぇ。でも、女の子を泣かせたらダメですよ」
何が楽しいのかクリスさんはにやにやと笑いながら俺をつついてくる。この子距離が近すぎない? ヴィグナの時も感じたが、思ったことをつい言ってしまうんだろうな。
そして、くだらない話をしながら荷下ろしを終えた俺達は最後に納品されたものを確認する。
「それで初めての取引だったが、何か気になった点はあるか? できる限り改善するぞ」
「へぇー、エドワードさんが言った通り私達のような商人にもお優しいですね。そういう所は素晴らしいと思いますよ」
俺の言葉にクリスさんは先ほどまでのおちゃらけた様子を引っ込めて、穏やかな笑みを浮かべてほほ笑む。その姿はなんというかとても大人びていて、まるでこちらが本当の彼女であるかのようだ。
俺が怪訝そうな顔をしているとまたにへらと笑う。
「ではお言葉に甘えて言わせてもらいますね……やはり、魔物がまだ現れるというのもありますが地面がデコボコしていて不便ですね、スピードも出せませんし、今回もうちの馬車で一番頑丈な馬車で来たんですが結構痛んでいるんですよ……」
そう言って彼女が指を指した馬車の車輪を見ると確かに傷ついている。やっぱりかぁ。今使ってもらっている道は、全然整備されていないからな。かつて道だったところの木や岩などをガラテアが引っこ抜いたり、投げ飛ばしたりしたのを雑に補強しただけに過ぎない。
道の整備に関しては圧倒的に人が足りないんだよなぁ……ヴィグナに頼むにしても彼女は土魔法は専門ではないからな。おそらく今より少しマシになるくらいだろう。
「職人を呼んで地面の整備をするしかないのか……」
「いやぁ、結構大変だと思いますよ、作業は時間かかりますし、まだ魔物も出ますからね……」
「となると……こっちを何とかするしかないな」
俺は馬車に触りながら『世界図書館』を使う。何らかの方法で馬車を強化するほうがいいかもしれない。例えば車輪をもっと質のいいものにするとか……
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トレントの車輪 木の魔物であるトレントを材料として使用した車輪。頑丈さは普通のものよりもはるかに高く衝撃を吸収する力も強い。
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「え、これ、魔物を使ってるのかよ」
「おお。グレイス様は博識ですね。一目で素材がわかるんですね、すごいです。うちにも一台しかないこの馬車はトレントを使用した最高級品なんですよ」
そう言うと彼女はどや顔をする。それにしてもわざわざ一台しかない馬車をうちに使ってくれているとは嬉しくなるな。それだけエドワードさんはこちらに期待をしてくれているのだろう。俺もその気持ちに答えたいと思うのだが、ここら辺に生えている木は大した強度はないしな……
俺が何気なく生えているゴムの木に触れると、以前よりも異界理解度があがったおかげだろうか、新しい異世界の情報が入ってきた。へぇー、ゴムってこんな風に異世界では使っていたのか……
「その件、なんとかなるかもしれんぞ」
「え? 本当ですか?」
「ああ、任せておけ」
俺は怪訝そうな顔をしているクリスさんに不敵な笑みを浮かべて答える。そうして俺はさっそくみんなに相談をしに行くのだった。
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