28.VSカイル

俺はガラテアにおんぶをされながら戦場へと向かう。くっそ情けないが、こっちのが早いんだよな……。そして、その横を涼しい顔をしたヴィグナが並走している。

 ワイバーンをけしかけてきた冒険者対策に、布に巻いて見えないように守護者の鎖を設置したり、ライフルで射抜くように指示をしていたのは中々効果があったようで、そこらかしこにワイバーンがもだえ苦しんでいる。

 だけど、今の武器ではどうしようもないやつもいる。俺はいまだ空からこちらを見降ろしている強大な火竜を見上げる。おそらくあいつが敵の隠し玉なのだろう。



「マスター、私があいつをやります。あの竜には以前アズール商会にいた冒険者が乗っているようです。あいつを倒せば、ワイバーン達も去っていくでしょう」

「ああ、頼んだ。無茶はするなよ」

「もちろんです、倒したらご褒美をくださいね」



 そう言い残すと、ガラテアは俺をまるで宝物を扱うように丁寧に地面におろすと、全力で地面を蹴飛ばしてジャンプをして、空にいる火竜の方へと向かっていった。やっぱりガラテア凄すぎるな……彼女に任せておけば、火竜は大丈夫だろう。

 そして、俺達もやらないといけないことがある。こちらの攻撃を避けつつ降りてきたであろう敵兵を倒しつつカイルを潰すのだ。

 


「ヴィグナ、敵の位置とかわかるか? カイルの居場所がわかればいいんだが……」

「うーん、こっちかしら。聞き覚えのある声だったわ。それに……さっきまで鳴っていた銃声が止んだのよね。嫌な予感がするわ。急ぎましょう」



 風の魔法によって周囲の音を聞いていたヴィグナはそういうと走り始める。そんな彼女に必死で俺はついていく。くっそ早いなこいつ!! 

 しかし、銃声が消えていたというのが俺の胸をざわつかせる。相手を倒したとかならいいんだが……そして、俺のイヤな予感は的中する。



「ニール大丈夫か!!」

「大丈夫よ、まだ生きているわ」

「ああ、久しぶりだね、グレイス……それにヴィグナまでいるなんて……はは、本当に神様は僕を愛してくれているようだ」



 ヴィグナについていった先で見たものは、超ミスリル製の盾を持って、興味深そうに見つめているカイルと、その少し先で頭から血を流し壁に寄りかかっているニールだった。

 流石は『魔聖』とまで呼ばれた男だ。ライフルを持ったニールがあっさり倒されるなんて……俺は懐にある銃を手に取りながら、戦闘態勢を取る。



「グレイス、すごいじゃないか……魔法も使えない平民たちがワイバーンを倒すようになるなんて…… あんなくだらないクワを作っていた時とは比べ物にならないくらい成長したねぇ……それともそれがお前の『世界図書館』真の力って事かな? 僕たちには本当の力を隠してたのかなぁ」

「隠していただと? 何を言っている!! 俺はこのアスガルドでみんなに助けられて、『世界図書館』の本当の使い方を知り、成長させたんだ。ズルをしたみたいに言うんじゃねえよ。それにあのクワはすごいんだよ、農業の大変さも知らない癖に何を言ってやがる!!」

「はっ、まあ、クワなんてどうでもいいさ。どのみちこの力は僕がもらう。お前の知識と、僕の魔法があればゲオルグ兄さんはおろか、父さんだってこわくない!! 最強の兵士達ができるからねぇ!!」



 久々に会ったカイルはそう言って高笑いをした。すでに勝利をした気でいるようだ。いつまでも俺を見下してやがる。いいぜ、その高慢な鼻をへし折ってやる。



「カイル……その前に、その子を救助させなさい。それとも……人質がないと私達に勝てないのかしら?」

「相変わらず、生意気だな、ヴィグナ!! 安い挑発だが乗ったよ。たかが近衛騎士と、ザコ王子ごときが勝てると思うなよ。まあ、安心してよ、お前らの命を奪う気はないからさ。その代わりといってはなんだが、お前達が負けたら、僕の目の前でヴィグナにはメイド服を着せて「にゃん」って言ってもらおうかなぁ」

「……この男つくづくきもいわね……」



 意気揚々と語るカイルにヴィグナが冷たい視線を送る。ああ、でも普段気が強いヴィグナにメイド服を着せて「にゃん」は確かにやばいな……てか、こいつメイド好きだったのか……でも、俺はバニーガールの方が好きなんだよな。こいつとはつくづく合わないな。

 それにだ……



「あいにくだが、ヴィグナは俺の彼女なんでな、死んでもそんなことをさせねえよ」

「は……? え……? あ……? ふーん、グレイスとヴィグナがね……まあいいさ、欲しいものは力で奪えばいいんだよ。子供の頃なんて僕のファイアーアローに撃たれて泣いていたくせに、言うようになったじゃないか。また泣かしてやるよ」



 俺の言葉にカイルの顔が歪む。無茶苦茶動揺しているんだが? こいつまさかヴィグナの事を……? いや、さすがにそれはないだろう。それに、そんなことはどうでもいい事だ。

 ヴィグナは俺の彼女で……そして、俺も、もうあの時のなにもできなかった俺ではないのだ。だから、俺はなるべく相手を馬鹿にするように笑いながら言ってやった。



「いつまでも昔の話をしているんだよ。俺はもう昔の俺じゃないんだ。今の俺はアスガルド領の領主グレイス=ヴァーミリオンだ!! ファイアーアロー? うるせえ、こっちはライフルだ!!」



 そうして、俺達はついにカイルと対決をするのだった。

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