29.VSカイル2

カイル=ヴァーミリオンはこの国一の魔法使いである。『魔聖』というスキルの通り、圧倒的な魔法の才能に恵まれ実戦経験も豊富な天才魔法使いで……俺の兄だ。

 彼との戦いはヴィグナの『魔法銃剣』がどれだけ通用するかと、俺の銃でいかに意表をつけるかがキーになるだろう。



「まあ、僕は優しいからねぇ……ヴィグナが治療を終えるのを待ってあげるよ」



 先ほどの言葉で俺を殺意に満ちた目で見ていた彼だったが、一瞬空を見ると、ニヤニヤと余裕のある笑みを浮かべる。ヴィグナがニールを治療しているのを見つめているだけで、本当に手を出さないようだ。

 俺は不審に思いながらもその間にニールが落としたライフルを拾う。よく手入れがされており、ノエルの名前が彫られている。それだけで彼がどんな思いでこの武器を手に取って戦っていたかがかよくわかる。



「それにしても、魔法も使えない、剣も使えないお前がずいぶんと頑張るじゃないか。ソウズィの遺物……想像以上に便利なようだね。お前が今からでも降伏するなら、僕の傘下にいれてやってもいいんだよ。僕に技術を教えれば、お前らの命だけは見逃がしてやろうじゃないか」

「……その技術で何をするつもりだ?」

「決まっているだろう!! その銃という武器と、その金属を使えば、最強の軍隊ができる。平民たちには銃を!! 僕らのような魔法使いに軽い防具を持たせれば、兄の軍隊だって、敵じゃない!! カイル=ヴァーミリオンの栄光が始まるんだ!!」

「その技術は別に武器や防具だけじゃない。人々の生活を豊かにすることにも使えるんだぞ」

「は、それに何の意味があるっていうんだ? 父さんも言っているじゃないか、力があればなんとかなるってさ。現にお前らは僕らの力によって窮地にたたされているんだぜ」



 俺の質問に彼は狂気的な笑みを浮かべて高笑いをする。ああ、わかっていたさ、わかっていたよ、結局こいつも父と同じなのだ。自分の権力や力をあげる事しか考えていないのだ。彼らの目には平民たちの生活なんて入っていない。

 もしも、こいつに負けたら、銃による周辺諸国への侵略がはじまるだけじゃない。俺が領土を守るために作った守護者の鎖も兵器として使われ、馬鈴薯も魔法使い達の兵站として、扱われるだろう。ゴムや超ミスリル合金だって、戦争の道具としてつかわれるに違いない。それこそ、人々の生活のためだけではなく、武器や防具の材料とだけ使われるのだ。

 そりゃあ、俺だって銃という武器や鎧という防具を作ったよ。だけど、守るための力と侵略するためだけに作るのじゃあ違うだろ。俺はボーマンが言っていた言葉を思い出しながら思う。

 そして何でカイルが無駄に話かけてきたかもわかった。俺は空を眺めて、火竜とワイバーンを踏み台にしてガラテアらしきものが向かい合っているのが見えた。

 そして、今度は俺が余裕に満ちた笑みを浮かべる。



「そうか、わかったよ」

「へぇ、降伏するっていうのか? 冗談だったんだけどな……じゃあ、まずはヴィグナにはメイド服を……」

「あんたとはやっぱり相容れないって言う事がな!! それに俺はメイド服よりもバニーガール派だ!! ヴィグナ!!」

「ええ、準備は整っているわよ。あとメイド服もバニーガールも着るつもりはないからね」



 そう言って、ニールを避難させたヴィグナが戻ってきて俺の横に立つ。やっべえ、聞かれていた。二対一だというのにカイルは相も変わらず余裕な態度を崩さない。

 彼は両手を掲げてこちらを見下すような目で言った。



「なあ、グレイス、なんで僕が無駄話をしたと思う? お前らの戦力はその鉄の塊を放つ武器とヴィグナだろ。そのヴィグナなしにワイバーンはともかく、火竜に勝てると思っているのかな? 今頃、お前の領民は焼かれているはず……ってなんだあれぇぇぇぇぇ」



 そう言って、得意げに空を指さしていたカイルが間の抜けた声をあげる。まあ、無理もないだろう。今まさに誇らしげに語っていた火竜が何者かによって蹴飛ばされて、墜落していったのだから……そしてあんなことをできるのは俺は一人しか知らない。



 ガラテア……やってくれたんだな。だったら今度は俺達が頑張る番だ。



「火竜がなんだって? お前が降伏して俺の傘下にいれてやってもいいんだぜ、カイル!! そうしたら……そうだな、クワをもって、農作業でもやってもらおうかな」

「はっ!! 近衛騎士とザコ王子が僕に勝てると思うなよ。炎神の息吹よ、矢となりて我が敵を射抜けぇぇぇぇ!!」

「グレイス、身を守っておきなさい!!  風の精霊よ、我をまもりたまえ!!」



 先ほどまでの余裕はどこにいったのか、カイルは問答無用で魔法を放ってきやがった。いるよな、自分の優位が崩れると、途端に手段を選ばなくなる奴ってさ!!

 カイルの放った火の矢をヴィグナの唱えた詠唱と共に現れた風の盾が俺を守る。それでも完全には防ぎきれなかったが、威力の弱まった火の矢の攻撃をボーマンが作った鎧が俺を守ってくれる。

 そして、お返しとばかりに俺が銃を撃つ。



「うわぁぁぁぁぁ、僕の美しい顏に傷がぁぁ、お前……お前ぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「ふーん、さっきよりは男前になったんじゃないかしら? グレイス行くわよ」

「ああ、俺達の力をみせてやろうぜ」



 咄嗟に風で弾道をそらされて彼の頬をかする程度だったが効果はあったようだ。頬から出る血に狼狽しているカイルをヴィグナが煽ると彼は憤怒に顔を染める。

 そして、俺達の銃声と、カイルの魔法が戦場で暴れるのだった。

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