30.VSカイル3
「手加減していた僕の魔法を防いだくらいで調子になるなよ!! 降伏しなかったことを後悔させてやるよぉぉぉぉぉ!!」
「私はグレイスの盾であり、剣ですもの、これくらい当り前よ。それに……後悔をするのはあなたの方よ」
ヴィグナが俺を庇うように前に出て、『魔法銃剣』を構えると、それを見たカイルが馬鹿にしたような笑みを浮かべる。
「なんだ、その武器は!! 近衛騎士としての誇りを捨てたのかな?」
「ええ、言ったでしょう。今の私は近衛騎士ではないわ。グレイスのヴィグナよ」
そう言って、ヴィグナがカイルに斬りかかろうとするが、カイルもそうはさせまいと距離を取る。やっべえ、二対一なのにレベルが高すぎて全然わりこめないんだが……
魔法の撃ち合いならば、自分に分があると思っているのだろう。確かに単純な魔法勝負ならばカイルの方が『魔聖』のスキルを持っている分有利だ。
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魔聖
魔法に関する理解度及び、攻撃力、詠唱速度があがる。理論上は全ての魔法を最高率で使用可能になるスキル
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『世界図書館』で調べて改めて厄介なスキルだと再認識する。しかも、カイルはヴィグナに負けて以来腕を磨き続けていたのだ。かなりの強敵である。まともに戦ったら勝てはしないだろう。だけど……それは彼女が新しい武器を手に入れる前の話だ。
「お前にこれはできないだろう? それに……グレイスの武器はもう知っているんだよぉぉぉぉぉぉ!!炎神の息吹よ、矢となりて我が敵を射抜け!! 風の精霊よ、我をまもりたまえ!!」
「同時に魔法を撃てるのかよぉぉぉぉ」
「伊達に王国最強の魔法使いとは呼ばれていないようね……風の精霊よ、我をまもりたまえ!!」
「すごいだろぉぉぉぉ!! 誰もできなかった技術だよ!! これが僕の『魔聖』の……未来の王の力だ!!
カイルが攻撃魔法を使った瞬間を狙って打ち抜いてやろうとした俺の弾丸は、カイルの作った風の結界に止められ、襲い掛かってくる何本もの火の矢をヴィグナも風の結界で防ごうとするが、爆風の衝撃を防ぎきれずに痛みで顔を歪める。
「ヴィグナ!!」
心配した俺の言葉に彼女はいつのもように涼しい顔でウインクをした。まるで、私を信じろといわんばかりに……
「さすがね、でも、それだけよ。私たちは別に魔法勝負なんてしてないもの。火よ、私に力を」
「残念だけど、それは通じないっていってるじゃないかぁぁぁ!! 風の精霊よ、我をまもりたまえ!! 炎神の息吹よ、矢となりて我が敵を射抜け!!」
「うおおおおおお」
『魔法銃剣』から弾を放つヴィグナを相手にカイルが魔法で応戦をする。カイルの風の結界によって弾丸は止められ、反撃とばかりに火の矢が放たれる。
しかし、ヴィグナは涼しい顔で向かってきた火の矢をミスリルの銃剣で切り裂いて、火傷を負いつつも涼しい顔をしているのを見て、カイルが怪訝な顔をする。
「お前何を笑って……うわぁぁぁぁぁぁぁ」
その時だった。風の結界で受け止められていた弾丸が爆発し炎の渦を発生させたのだ。弾丸内に込められていた魔法が解き放たれたのだろう。結界の内部で発生した猛火によってカイルは絶叫と共に炎に包まれる。
予想以上にやばいな、あの武器……俺がそんな事を思っている間にもヴィグナが次弾を発射する。
「僕の力をなめるなぁぁぁぁぁ!!」
「さすがに簡単にはいかないわね。もう一度くらいなさいな。火よ、私に力を!!」
その言葉と共に、詠唱と共に空中に現れた水がカイルの身体を覆い消火し、そのまま水が凍り付くと弾丸から身を守る盾となる。氷の中で止まった弾丸から炎が魔法が放たれるも、今度はすさまじい音をたてた爆発は氷の盾によって止められる。
「くっそ、一回態勢をたてなおして……」
「ばかね、そんな事をさせるわけないでしょう」
「え?」
その一言と共に振るわれた一撃によって、カイルの左腕が切り裂かれ流血と共に地面に落ちる。何のことはないカイルが氷の魔法で爆発を受け止めている間に、ヴィグナが接近していたのだ。
すげえけど容赦ないな……絶対ヴィグナを怒らせないようにしようと誓うのだった。
「魔法だけだったら確かにあなたに勝てなかったかもしれないわね。でも……私はここに来て新しい力を手に入れたのよ。その怪我じゃ痛みで集中何てできなくて、もう魔法もつかえないでしょう? 降伏しなさい」
「ひぎゃぁぁぁぁ!! 僕の腕がぁぁぁぁぁぁぁ」
「会話にならないわね……氷の蔓よ、拘束を……」
口からよだれを垂らし、泣き叫びながら痛みに悶えるカイルを見下ろしながら、ヴィグナが魔法を詠唱し、捕えようとした瞬間だった。
それまでの様子が嘘であるかのように、鋭い目をしたカイルの右腕に火の玉が現れ……
「この状況で魔法を!?」
「炎神の息吹よ、矢となりて……」
「させるかよ」
乾いた音と共に、カイルの腹部から血が溢れ、作りかけの魔法がそのまま暴発する。あっぶねーー、間に合った……俺は冷や汗を流しながら、構えていた銃をしまう。
「くそ……この僕がよりによってお前ごときにだって……ありえない……誰か、僕を助けろよぉぉぉぉぉぉ、僕はカイル=ヴァーミリオンだ。次期の王になる男なんだよぉぉぉぉ!!」
最後の力だったのか、そう叫ぶと、血を流しすぎたせいか、ダメージを負いすぎたからか、カイルは俺を睨みながらも地面にうつ伏せて、完全に沈黙する。
俺達は警戒をしながらも、彼を睨んでいたが微動だにしない。今度こそもう、魔法も使えないだろう。
「グレイス……カイルは生け捕りにするんじゃないの? あんな魔法私なら防げたわよ。私なんかのためにせっかくのチャンスを……」
「うるせえ、交渉が有利になるかなんかより、お前の方が大事なんだよ、悪いかよ」
「別に悪くはないけど……」
俺の言葉に彼女は顔を赤くして黙る。カイルを生け捕りにするのはアズール商会から賠償金を取るための交渉の手札にすぎない。守るべきものを犠牲にしてまで、こだわる気はない。
「グレイス!!」
「うおおお」
「邪魔だ、貴様ら!! このままなんの手土産も無しに戻れるかよ」
俺達が油断をしたところに急スピードで飛んできたワイバーンがブレスをはいてきた。ヴィグナに押し倒されて、何とか直撃は避ける。なんて速さだよ、そして、そのワイバーンには随分とボロボロになったドラゴンテイマーらしき赤髪の冒険者が乗っている。ガラテアに火竜を倒された時に負傷したのだろう。
俺達を奇襲したワイバーンは、そのままカイルを咥えて飛び去って行こうとするが……
「逃がすわけないでしょう、火よ、私に力を」
ヴィグナが放った魔弾が当たり、俺達から逃げて空を飛んでいるワイバーンの身体が空中で爆散した。うわ、えっぐいな……これではさすがに赤髪の冒険者もカイルも生きてはいないだろう。
「ワイバーン達が去っていくわね」
「ドラゴンテイマーの冒険者がいなくなったからだろうな」
冒険者を倒したからだろう。正気に戻ったワイバーン達が自分の巣へと戻っていく。あとはもはや敵ではなかった。元々冒険者崩れのアズール商会の私兵は不利を悟ると、武器を捨てて、捕虜になっていった。
そして、最後の抵抗をしていた近衛兵たちもカイルの死を告げると戦意を喪失して降伏をしたのだ。
こうして戦いは俺達の勝利で終わった。
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