27.カイル=ヴァーミリオン

「へぇー、ドラゴンって結構乗り心地が良いんだねぇ」



 僕はワイバーンに乗って空から敵を見る。周囲を囲っていた部隊はほとんど撃退されたようだ。こちらの知らない武器があるという事だろう。ということは……



 あの男が裏切者ということはばれちゃったみたいだねぇ……そうなると送られてきた情報は全て噓だったって事かな。



 正直その可能性は考えていた。だから、冒険者の力を借りて、空から奇襲という本命の作戦は教えなかったのだから。魔法を使えない相手にとって空からの奇襲は恐怖以外の何物でもない。そして、ワイバーンのような固い鱗をもつ魔物にとって矢はそこまでの脅威ではないのだ。

 この戦争、僕らの勝ちは決まっているんだよ。魔法とドラゴン、それに対抗できる人間はそうそういないのだ。ましてや、魔法をつかえなければ話になるまい。



「急降下するぞ!! 手を放して振り落とされるなよ!!」



 火竜にのった冒険者の一言でワイバーン達が一斉に急降下を始める。だけど、その時に何かが光った気がした。それと同時に僕の右手の薬指の指輪が光るのを見て僕は咄嗟に魔法を放つ。



「風の精霊よ、我をまもりたまえ」



 僕の目の前に風の結界が張られ、そこに飛んできたであろう黒いものが止まる。これは小さい鉄の塊か……なんだこれは? こんなものを飛ばしているっていうのか? 僕が作った危険察知の魔法がかかった指輪がなかったら危なかった。

 正直信じられないが、これがグレイスの新兵器なのだろう。現に他のワイバーン達はこの鉄の塊に射抜かれたのか、鱗を貫かれ悲鳴をあげている。そりゃあ、こんなものを高速で飛ばされたら、ワイバーンの鱗だってたまったものではないだろう。手紙では近距離用に飛び道具があると書いてあったが、こっちが本命ということか。

 そして、予想外なのはそれだけではなかった。相手の攻撃を避け、それでもなんとか地上に降下したワイバーンも数匹いるが、ブレスはミスリルでも混じっているのか不思議な金属の盾に防がれ、建物に突っ込んだドラゴンは蜘蛛の巣のように、細い金属の縄のようなものに絡まれて苦しんでそのまま落下していく。そして……村の中心にあるグレイスに似た石像が鼻からも同様に鉄の塊を放っているらしくワイバーンや兵士が打ち抜かれていく。、

 なんの冗談だ……地上はまさに地獄絵図だった。だけど……戦況って言うのは一人の魔法使いでかわるんだよ。



「お前ら!! 攻撃はいつくるかわからないぞ。風の結界をまとっておけ!! そして邪魔者にはこうしてやれ!! 風の王よ、その息吹にて全てを引き裂け!!」

「うわぁぁぁぁぁ」



 僕の魔法によって、細い金属の網は切り裂かれワイバーンが自由になる。そして、金属の盾を切り……裂けないだって? この僕の魔法を防いだのか。『魔聖』である僕の魔法を!? ただの人間が!?



「はっはっはー、予想以上じゃないか!! グレイスぅぅぅぅぅ!!」



 思わずにやけてしまう。だって、彼らは英雄でもないただの人だ。それがこんな……ドラゴンに対抗する力を手に入れるなんて……なんてすばらしい技術だろうか。

 そして、その技術を奪えば、もう僕は兄にだって負けない。この戦いに勝ちグレイスを生け捕りにして、この知識とアズール商会の資金力を使えば僕が王になれる道は格段に近づくだろう。

 だが、僕が明るい未来に笑みを浮かべていると乾いた音によって邪魔をされる。



「なんだよ、こいつ……ライフルが通じない……」

「ふふ、それが新兵器の正体か……その武器は中々いいじゃないか、僕にも見せてくれよ」



 完全なる不意打ちで勝利を確信していたのだろう。金属の筒のようなものを持った少年が呆然とした表情をしながら僕を見つめる。

 確かにこれは……僕じゃなかったら防げなかったかもしれないな。風の結界によって止められた先ほどよりも近距離で放たれた鉄の塊をみながら冷や汗を流す。



「あいにくだけど、僕にそれは通じないよ、命が欲しければ投降してその武器の事を詳しく教えるんだ。そうすれば命だけは助けてあげるよ」

「ふざけるな!! 俺がグレイス様を裏切るわけがないだろう」

「じゃあ、いいや。炎神の息吹よ、矢となりて我が敵を射抜け」



 僕の詠唱共に現れた火の矢が目の前の少年を吹き飛ばす。案の定不思議な金属製の盾で、防がれたが衝撃までは殺せなかったのだろう、受け止めた盾が爆発して吹き飛ばされた時の衝撃で壁に頭をぶつけたのか醜い声をあげて、頭から血を流している。



「全く、死なないように手加減をしたとはいえ、僕のファイヤーアローがあっさりと盾で防がれるなんてちょっとショックだなぁ」



 僕は傷ひとつついていない盾を拾いながらぼやく。しかし、これ頑丈なのに無茶苦茶軽いな。多分ミスリルも混じっていると思うんだけど、一体何でできているのだろうか?



「う……う……」

「最後の警告だ。もしも、気が変わって、僕に色々教えてくれるなら命は助けてあげるよ」

「何も言うものか……グレイス様だけじゃない……俺に色々教えてくれたヴィグナ様にも顔向けできなくなる……」

「ヴィグナ……ヴィグナだって!! そうか、そうだよねえ!! 小さな村なんだ、彼女の事を君が知っていてもおかしくはないよねぇぇぇ!! 気が変わった君は生かしておいてあげるよ。君をいたぶっていればヴィグナが来るだろうしねぇぇぇぇぇぇ」



 ずっと固執していた相手の名前を聞いて、僕は思わず心の高ぶりを抑えられなくなる。あの女にプライドを傷つけられたことは今でも忘れていない。あの時の屈辱を糧に僕はより魔法に鍛錬に励んだんだから……そして、僕は誰にも負けない魔法の技術を手に入れたのだ。

 ようやく屈辱を晴らすときが来たのだ。



「あの女を魔法で倒し、生け捕りにしてやるよ。そして、屈辱にまみれた表情をするであろうあの女にメイド服を着せて「にゃん」って言わせてやるんだ。はっはっはっーーー」



 やはり僕には神がいるようだ。僕に捕らえられ悔しそうな顔をするであろうヴィグナの顔を想像して、思わず笑いが溢れてくる。

 それに……作戦的にもタイミングがちょうどいい。僕がこいつを罠にしてヴィグナをおびき出せば、その間に、火竜がこの村を蹂躙してくれるだろう。この戦争勝ったね。

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