26.奇襲

「戦況はどうだ、ガラテア?」

「今の所順調です。ただ一か所だけ、土壁に魔法が放たれてしまい、破損しました。そこのサポートは必要かもしれません」

「一か所か、ニールたち作戦通り魔法使いを射抜いたみたいね。終わったら褒めてあげないといけないわね」



 戦闘がはじまり俺達は村の中心部に陣取っていた。遠くを見ることのできるガラテアが戦況を報告し、指示はヴィグナの魔法を空中に上げて指示をするのだ。

 相手の作戦は四方を囲んで魔法使いが遠距離から土壁を破壊して、一気に攻め入るという作戦だったようだが、甘い。

 シルバに流させた情報によって、俺達の未知の武器は乱戦用のハンドガンだけだと思い油断をしたのだろう、魔法よりも射程距離が長いライフルの攻撃に面白いように当たってくれたようだ。魔法を放つときは結構目立つからな。いい的だったろうよ。

 しかし、これでこちらの手はばれた。本番はここからだ。



「次はどう来ると思う? シルバの情報ではカイルの近衛兵たちは少人数しかいないようだが……」

「そうね……一旦魔法による壁の破壊はあきらめるんじゃないかしら。おそらく空いている土壁に敵は集中するはずよ、そこを狙って、ライフルで狙撃して、接近戦になったら、乱戦ね。ゴブリン達を撃退した時の作戦でいいと思うわ。そろそろ私達も戦場にでましょう」

「ああ、そうだな。その時は護衛を頼むぞ。二人とも。カイルを生け捕りにすれば俺達の完勝だ」



 俺の言葉に二人がうなづいた。相手がまとまってくれた方が、ヴィグナとガラテアを集中できる分楽だ。

 アズール商会の商人はともかく、プライドが高く、自分の手で物事を進めたいカイルはその性格上必ず戦場に出てくるはずだ。そこを捕えて、アズール商会に突き返せば俺達の勝利である。部下は切り捨てるかもしれないが、王族であるカイルまで切り捨てたりはしないだろう。

 状況が膠着状態になったしガラテアに周囲を警戒してもらいつつ、俺達もつっこむとしようか。そう思った時だった、ガラテアが空を睨みつける。



「マスター、大変です。空から……」

「あれは……この前の冒険者でしょうね。まだあんなにテイムしていたなんて……」

「やっぱりか……」



 俺は空を眺めながら思わず舌打ちをする。そこには何体かのワイバーンと、大きな火竜がいた。しかも遠目だから、誰かまではわからないがワイバーンや火竜には人も乗っているようだ。



「マスター、ワイバーンの一体にマスターと顔の似た人が乗っています。あれがカイル王子かもしれません」

「空から登場とは目立ちたがり屋なのは相変わらずだな……」



 ガラテアの言葉を聞いた時にわずかに高ぶりをみせた俺の感情はなんだろう。兄を見返せるという歪んだ復讐心だろうか、いよいよ決戦の時が来たという高揚感か……

 もしくは強力な魔物であるドラゴンと、強力な兵士である魔法使いを俺達が開発した武器で圧倒できるという事への期待か……

 どうも、好戦的になってしまっているな。頭に血が上っているのだろうか? それとも、俺にも流れている戦闘狂の父の血が影響しているのかもしれない。でもさ、そうじゃないよな。俺が目指す道は父や兄とは違うのだ。



「ヴィグナ……ちょっと戦場の空気に当てられて変になっているみたいだ。頭をはたいてくれないか? 手加減しろよ、全力でお前に叩かれたら多分死ぬからな」

「ん? いいわよ」



 そう言うと、彼女の手が動いて俺の頭を撫でる。愛おしそうに、大切なものを守るように撫でられて俺は困惑をする。え、なにしてんの?



「心配しないで……あんたが本当に暴走したらちゃんと止めてあげるわ」

「ヴィグナ……ありがとうよ。おそらくワイバーンによる空からの奇襲だ。合図を頼む」



 俺の言葉と共に対空用の作戦に切り替える合図として火の玉が空に放たれた。

 仲間に信頼されている。そう改めて実感したおかげで、少し冷静になれた。そうだよ。俺が第一に思うべき事は領民たちの身の安全だ。ドラゴンたちもそろそろ、ライフルの射程範囲に入るころだろう。万が一の事を考えてワイバーンの奇襲の対策を考えていたがやはり正解だったようだ。



「いくぞ、!!カイル=ヴァーミリオンを捕えるぞ」



 そうして、俺達は戦いの中心地へと向かう。上空からの奇襲はたしかに厄介だが、俺達にはライフルを持った仲間とヴィグナ、ガラテアがいるのだ。負けてたまるかよ。

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