25.アスガルドを侵略するもの

俺の名はルーザー、元は冒険者だったが、その腕っぷしを買われてアズール商会に雇われて荒事を担当している。大きな商会ともなればきれいごとではやっていけない。場合によっては、競争相手に不幸な事故にあってもらう必要だってあるのだ。

 元々口より手が先に出る自分にとってこの仕事は性に合っていたし、冒険者をやっていた時のように危険なダンジョンに行く事も少なく、むしろ相手は自分より弱い人間な事が多いのだ。天職と言えよう。

 今回の相手だって、元近衛騎士がいるらしいが、そいつ以外はほぼ素人らしいし、何よりもカイルとかいう王族が連れてきた魔法使い達がいる。俺は近くにいるローブを着た男に声をかける。



「へへ、なんかあった時は頼むぜ」

「ふん、気安く話しかけるな。私の魔法の邪魔をするなよ」



 俺は親しみを込めて話しかけるが相手は鼻をならしてあしらうだけだった。少しカチンときたが、まあ、こいつらは貴族らしいし、お高くとまっているのはしかたないだろう。

 冒険者時代に魔法を見たことがあるがあれはすごかった。あっという間に魔物達を焼き払う姿には感動したものだ。ましてやこいつは王族の近衛兵である。冒険者時代の魔法使いよりも優秀だろう。

 相手は何やら銃とか言う弓よりも強力な武器を持っているらしいが、最悪近くにいるやつを盾にでもすればいいだろう。

 そして、何よりも……



「グレイスとヴィグナ、ボーマン以外は自由にしていいか……」



 その命令に俺はにやりとする。 あそこには珍しい品々もあるから拾ってちょろまかせばいい金になるだろうし、若い女もいるらしい……つまり捕えたら自由にしていいというわけだ。あまり派手にやりすぎるわけにはいかないが、一人くらいならばどんなふうにしても問題はないだろう。



「ようやく見えてきたぞ!! あんな土壁で囲っていやがる。生意気だな」

「ははは、確かに野盗や魔物には有効だろうよ。だが俺達には魔法使いがいるんだ」



 仲間の声のいう通り、ようやくたどり着いた先には土壁で囲われた村があった。道中魔物に襲われるかと思ったが、あいつらが退治をしてくれていたおかげで、遭遇する数は少なく済んだ。自分で自分の首をしめたな。

 これからのお楽しみに俺は舌なめずりをしながら魔法使いに声をかける。



「さあ、魔法で壁をぶっ壊してくれ」

「ふん、今やってやる。待ってろ。炎神の息吹よ、矢となりて……」



 魔法使いの詠唱によって、火の塊が生まれる。土壁には小さな穴があり、時々矢がとんでくるが、ここまでは届かない。

 後はこの魔法で空いた壁に俺たちがつっ込んで蹂躙するだけ……そう思った瞬間だった。乾いた音と共に悲鳴が聞こえ何かが飛び散った。



「ひぶっ」



 何が起こったのだろう? 混乱しながらも自分の頬に着いたどろりとしたものをさわると真っ赤な何かだった。



 これは……血なのか? 



 でも誰のだ? と嫌な予感がして、横を振り返ると先ほどまで魔法を詠唱していた魔法使いが眉間に穴をあけて悶えていて……制御を失った魔法が爆発する。



「うおおおおお」



 それは奇跡だったと言えよう。とっさに盾を構えたのと魔法の詠唱が中途半端だったため致命傷を免れたのだ。

 俺は衝撃で吹っ飛んだ体を起き上がらせて様子を見る。他にも数人生きているようだ。



「お前ら、一旦他の連中と合流を……」



 再び乾いた音が響き、隣で呻いていた男が吹っ飛び息絶える。なんだ? なにがおきているんだ。俺は恐怖と共に土壁のある村を見る。

 あそこから何かが飛んできているのか? 三度目の乾いた音がして……

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