26.謁見の間

再びここに戻ってくるとことになるとはな……俺はかつて追放をされた時の事を思い出しながら一歩一歩足を進める。

 あの時とは違うのは俺の横にはヴィグナや、ガラテアがおり、背中にはアスガルドの領民たちの命や生活を背負っているのだ。そして、俺の自信も多く変わった。かつての口だけの無能王子と呼ばれた時とは違い、立派な領主として築き上げてきた地位と自信がある。



「マスター、誰かに見られている気がします。きをつけてください」


 俺の耳元でガラテアがこっそりと囁く。ヴィグナを見ると彼女は怪訝な顔をして、首を横に振った。彼女には気づかせないほどの手練れか、もしくは身を潜めるのに特化した暗殺者か……



「グレイス=ヴァーミリオン様がいらっしゃいました」



 王直属の近衛兵の言葉と共に扉が開かれ、俺達は謁見の間に足を踏み入れる。好奇や、驚きなどの視線が飛び交うも意に介せず、俺はそのままクソ親父の前へと進み口を開く。

 


「アスガルド領主、グレイス=ヴァーミリオンです。ただいま、王都へと帰還致しました」

「おお、久しぶりだな。最近の活躍はここにも伝わっているぞ。あの辺境であるアスガルド領の開拓に成功し、相当発展させたそうだな」

「ええ、俺は王都にいた時と違い理解のある仲間に恵まれたようでして……王都でこの才能が発揮できなかったのが本当に残念です」



 俺の皮肉めいた言葉に、周囲の貴族がざわっとする。中には敵意に満ちた視線を向けてくる人物までいる。そんな中、クソ親父は楽しそうに笑っていた。

 ああ、そうだよ、あんたはそういうやつだな。こいつは自分の中で有能だと認めた人物には寛大なのだ。どうでもいいが、俺はようやく彼のお眼鏡にかなったらしい。昔は必死に彼に認めてもらおうとしていたが、いまとなってはどうでもいいことだ。



「はっはっは、言うようになったな、グレイスよ。話によるとドラゴンを連れた賊に襲われたが見事撃退をしたようだな。素晴らしい力を手に入れたじゃないか、褒めて遣わそう」



 不遜な俺の言葉を彼は笑い飛ばす。やっぱりか……ここに俺を呼んだのは銃が目当てなのだろう。それにしても、カイルがいた事も知っているだろうに、触れもしないとはな……

 少しだけど、同情してしまう。



「それで……その銃とやらを王都で量産する気はないか? もちろん、お前には褒美として、それ相応の地位と領地をやろう。もちろん、アスガルドのような僻地ではないぞ」



 その言葉に俺は反吐を吐きそうになる。正直ふざけるなと怒鳴り返してもいいが、それは最終手段である。俺達だけならばさっさとどこかへ逃げることもできるが、アスガルドには俺の領民がいるのだ。そうはいかない。交渉が決裂するにしても、ちゃんと話して筋を通してからの方が周辺諸国に協力を得るための説得力があるからな。



「お言葉ですが、銃は我が領土が開発した力です。王は俺が得た力を、他人に譲渡せと言うのでしょうか? 力が全てのこの国で、力を得たと言うのに、王は同じ国の人間からもその力を奪うのですか? それでは、この国で生きる意味がなくなってしまいます。そうとなれば俺も色々と考えなければいけません」

「ほう……」


 

 俺の言葉に王はなぜか興味深そうにこちらを見つめた。あんまり文句を言うなら、他の国に技術を売って逃げるぞという事であり、失礼極まりない事を言ったというのにこの反応はちょっと予想外である。

 そして、王の代わりというわけではないが、先ほどからこちらを睨んでいる人物が口を開いた。

 


「グレイス、調子に乗るな!! 父上に対して失礼だろう。それに、アスガルドの発展は貴様の力ではないだろう。たまたまソウズィの力を得たからだろうが!! 知っているぞ、貴様が手に入れた銃という武器はソウズィの遺物を元に作成したのだろう」

「あなたね、グレイスがどれだけ苦労をしたと……」

「落ち着け、ヴィグナ、大丈夫だからさ」



 俺はさっきから敵意をぶつけてくる相手、兄であるゲオルグ=ヴァーミリオンに斬りかかりそうな表情をしているヴィグナを制止する。

 こいつが絡んでくることは予想がついていた。カイルが行方不明な今王位継承者は俺とこいつだけである。そして、クソ親父が追放をしたというのに、わざわざ呼び戻したという事に焦りを覚えているのだろう。



「だいたい偉そうにしていますが、グレイス自体が力を得た訳ではないでしょう? こいつが作った銃を俺の兵が使えばもっとより強くなれます。こいつはただ武器を発明しただけです。力を全てとするこの国の方針にこいつはふさわしくありません。グレイス、貴様が作った銃を俺に寄こして、再び田舎に戻るといい!! 」

「なるほど……兄上は俺の力を貸してくれとおっしゃるのですね……、では、代わりと言ってはなんですが、兄上の自慢の剣を振るうその両腕を貸していただけますか? 等価交換というやつですよ。俺の力を貸すんです。あなたの力とやらも貸してもらわないと困ります。安心してください、用がなくなったらちゃんと返すしますよ。ふたたびくっつくかは知りませんがね」

「貴様……」



 俺の言葉にゲオルグが怒りをあらわにして、睨みつけてくる。こわ!! せっかくの色男が台無しだぜ。だけど、俺も負けじと睨み返す。



「なるほど……確かにグレイスの言う事ももっともだな。ゲオルグよ、こいつの要求を叶えることが無理ならば、銃を手にいれることはあきらめるのだな」

「父上!?」

「は?」



 俺は予想外の援護に耳を疑った。クソ親父が俺を庇っただと? 驚きながら彼を見るとにやりと笑った。



「とはいえ、ゲオルグにグレイスよ。お前ら二人を呼んだのはほかでもない。一つやってほしい事があるのだよ。そうだな、私の依頼を成功させた方が相手に命令できるというのはどうだろうか?」



 そう言うと親父はにやりと笑った。つまりあれか? 俺はカイルの代わりに後継者候補になったという事だろうか? 何事もなかったかのように接してくる親父に俺は嫌悪感を隠せずにはいられなかった。

 まあいい、無茶苦茶な用件でも、ガラテアとヴィグナ、そして、アスガルドの皆の力があれば対処することができるだろう

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