25.王都にて

その後の道はスムーズなものだった。てか、スムーズすぎて心の準備ができていないんだが……俺は王都が近づくにつれてテンションが下がっていくのを感じる。



「マスターから極度の緊張感を感知致しました。大丈夫ですよ、マスター。あなたがアスガルドであげた成果は本物です。それでも馬鹿にする人間がいたらそいつの頭が悪いのです。だから自信をもってくださいね」



 そう言うとガラテアは俺の手を握って、やさしく微笑む。なにこれすっごい癒されるんだけど!! そうだよな。俺は俺のできる限りの事をやって、アスガルドを発展させたのだ。だからこそ、追放されたはずの俺が王都に呼ばれたのだから……

 仮に馬鹿にするようなやつがいても相手をしなければいいのだ。昔とは違いちゃんとした実績があるのだから。



「ううーーー」



 そう思っていると運転席の方から獣の泣き声のような音が聞こえる。ヴィグナがチラチラとこっちを見ている。なにやっているんだあいつ、よそ見運転は危ないんだが?



「ヴィグナ様からすさまじい嫉妬の感情を感知致しました。『私が慰めたかったのに、運転しているせいでなんにもできなくて悔しい!!』という感じですね。あとでフォローをした方が良いと思いますよ」

「ずいぶんと具体的だな!! てか、ガラテア……この状況を楽しんでいるだろ……」



 俺はちょっと楽しそうに、耳打ちをするガラテアを見ながらつっこみを入れる。ならばお言葉に甘えて、あとでヴィグナにたっぷり甘えるとしよう。それにしても……二人がいるのだとおもうと不思議と心が落ち着いてきた。

 もしかして、彼女はこのために? ちらりと見るとガラテアはくすくすと笑っている。いや、絶対楽しんでいるだけだな……



 しばらくすると、蒸気自動車が停止する。なにがあったのだろうと、窓をみると驚いた顔をした衛兵がこちらに槍を向けている。一体なにが……



「その奇怪な乗り物は……? あなた方は一体何者ですか?」

「ああ、悪い、初めて見るよな。これは我が領土アスガルドで開発した蒸気自動車というものだ。怪しいものじゃないから安心してくれ」

「あなたね……あんだけしごいてあげたっていうのに私の顔を忘れたのかしら」

「ひっ、ヴィグナ様!? 大変失礼しました。この見慣れない紋章はアスガルド領のものだったのですね……という事は……あなたがグレイス王子ですか。失礼いたしました。お通りください」

「最初からそうしなさい、大体、自分の所の第三王子の顔くらいは覚えていないって何を考えているのよ。それで衛兵が務まるのかしら」

「その……大変申し訳ございません」



 ヴィグナに言われて衛兵は気まずそうに目を背けた。確かにスキルが判明してから図書館かボーマンの所に引きこもっていたとはいえ、ここまでの存在感とはなぁ……

 あらためて自分の扱いがひどかったのだと認識する。アスガルド領ではみんな挨拶をしてくれるどころか、野菜をくれたり、あそびに誘ってくれるもんな……

 そうして、城についた俺達は応接間へと通された。蒸気自動車から降りている最中も城内にいる貴族や、使用人たちが奇異の視線で見つめてくる。まあ、追放されたはずの王子が再び戻ってきたのだ。わからなくもない。



「なんかすごい疲れたな……」

「本当に相変わらずね、私たちは呼ばれたって言うのに……」



 俺とヴィグナは気疲れをしたとばかりにソファーに座る。実家に帰ったっていうのに全然気が休まらないな……まあ、元から居場所はなかったのだからしかたのないことだろう。



「ふふ、これがVIP待遇ってやつですね、皆さんから、興味と驚き、そして物珍しさの感情を感知致しました。そして……王に対する強い恐怖の感情を感知致しました。追放された人間が帰ってくるということはこれまでなかったのでは? おそらくみんな困惑しているのではないでしょうか?」

「まあ、力が全てって考えの独裁者だからな。追放もくそ親父の思うがままだし、その逆もまたしかりってやつだな」

「まったくよくこれで国としてやっていけるわよね……」



 ヴィグナの言葉に俺はうなづく。そう、この国のトップは最強の戦士であり、王である父なのだ。彼には誰も逆らう事は許されず、父の機嫌を損ねれば貴族だってただでは済まない。だからこそ、俺が追放された時も誰も庇わなかったというのもあるのかもしれない。いや、俺の人望がないだけって可能性もあるが……


 しかし、ここは本当に変わらないな……



 窓から訓練をしている兵士たちを見て思う。彼らは立派な武器や防具を身に纏い一生懸命訓練をしている。兵士たちは優遇されているが、文官たちはぞんざいなあつかいをされているだろう。本当に追放されて良かったと改めて思う。

 そして、アスガルドで領地を運営して思ったことがある。この国はなんでうまくいっているんだ? そりゃあ、他国から奪うってのはわかる。守るにも攻めるにも戦力も大事だ。だけど、奪った後や政治だって大事なはずなのだ。それなのに文官をこれだけ冷遇してなんでこの国はずっと栄えているのだろうか? いくらクソ親父が強いからって、ガラテアと戦えば瞬殺だろう。そのレベルなのに……



「グレイス様、謁見の準備ができたそうです」

「ああ、わかった。いくよ」



 ノックの音と共に使用人やってきて、ガラテアと話す。どうやら準備ができたようだ。久々に父との再会だがどうなることだろうな。

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