24.

 何か言いたそうな衛兵に愛想笑いをしながら、俺達は蒸気自動車にのって山道を走って行く。しばらくすると、硬いものがぶつかりあう音と共に、怒声や魔物の泣き声が鳴り響く。



「おー、やってるやってる。案の定苦戦してるな」

「そりゃあ、空を飛ぶ相手には近衛騎士だけでは不利ですもの、仕方ないわよ」

『騎士達から焦りの感情を感知しました。結構まずい状況のようですね』



 予想通りというべきか、彼らは空を飛ぶワイバーン相手に苦戦を強いられているようだ。これは別に近衛騎士達が弱いわけではない。単純に相性が悪いのだ。本来ならばバリスタや、魔法使いを引き連れて戦うような相手だからな。

 それは彼らもわかっているにも関わらず先を急ぐ理由も実は見当がついている。内通者におれが王都に行く事がばれるように大々的に出発したからな。

 おそらく、俺の動向を監視していて、その事を伝えに戻るのだろう。あとは……俺があえて内通者に持たせた旧式の銃を王都に持っていくつもりだったのか……

 


「それでどうするのかしら? このまま無様な姿を見ているのもいいけど……」

『お茶とお菓子を用意しましょうか? マスター』

「いやいや、流石に死人が出るだろ!! 二人とも怖いっての!! ここは俺がかっこよく救ってやるとしよう。二人ともサポートを頼む。」



 この二人はなんでこんなに騎士達に対して辛辣なの? いや、俺を侮辱したやつらに対して怒ってくれているのだろう。それは嬉しい。だけど、死人まで出たら目覚めは悪い。それに……



「ふぅん、ずいぶんとお優しいのね」

「ふははははは、見下されていた俺に助けられる滑稽な姿が目の前で見れるんだぞ。最高だろうが!!」

「そうよね……あんたはそういうやつだったわね……」

『どっちもどっちというやつですね、ヴィグナ様、マスターから歓喜の感情を感知致しました』



 からかうようなヴィグナの言葉に意地の悪い笑みを浮かべるて返すと二人にドンびいた顔をされた。いや、お前らも見殺しにしようとしたじゃねーかよ!!

 そんな事を思いつつ俺は余裕があるように見えるように堂々と歩く。ヴィグナとガラテアがきっと守ってくれるはずだ。



「お前はグレイス一体何をしに……」

「何って決まってるだろ、我が国の近衛騎士様がずいぶんと情けないから助けに来てやったんだよ。感謝しろよな」



 俺はできるだけ意地の悪い笑みを浮かべながら、銃を構えて撃つ。パァンと乾いた音と共に空を飛ぶ一匹のワイバーンが眉間に穴をあけて落下してくる。



「なん……だと……」



 呆然とした表情の騎士達に俺は不敵な笑みを返す。実は隣のワイバーンを狙ったんのはここだけの話である。飛んでいる敵に弾を当てるのって結構難しいんだよぉぉぉぉ。

 俺の存在に気づいたワイバーン達が、標的を騎士からこちらに切り替えようとするがもう遅い。ガラテアがこちらに噛みついて来ようとしたワイバーンの攻撃を受け止めると同時に顔面に蹴りをくらわして絶命させる。空にいたワイバーンは……轟音と共にワイバーンが体内から爆発した。ヴィグナの『魔法銃剣』である。

 次々と打ち抜かれていく 仲間を見て何を思ったのか、ワイバーン達は去っていった。



「なんだその力は……その武器は……」



 ワイバーンを圧倒する俺達に騎士達は信じられないものを見たとでも言いたげに呻く。まあ、気持ちはわからないでもない。自分たちが苦戦していた相手をかつて見くびっていた俺達が圧倒したのだ。今頃悔しさと混乱でぐちゃぐちゃになっているだろう。



「これが俺の……俺達アスガルド領の力だよ。お前らが馬鹿にしていた知識の力ってやつだな」

「く……だが、その人数ではこの岩はどける事は出来まい!! こういうのは障害を解決したものが優先するものだろう。先に行くのは俺達の方だ!!」

「あんたらね……」

「どうどう」



 魔法銃剣を構えて騎士達を睨みつけるヴィグナを俺は制止する。馬を宥めるようにして言われたヴィグナがこちらを睨んでくる。こわいよぉぉぉ。恋人に対する視線じゃねえだろ……

 それはともかくだ。騎士のいう事は、いわば暗黙の了解なのだが、魔物を追い払ったのは俺達なわけで、本来ならばこんな事を言われる事は本来ないのだが……



「ガラテア」

『わかっていますよ、マスター。これがグレイス様のお力です。よいしょっと』



 ガラテアはハイキングにでもいくかのようにスキップをして、可愛らしい声をあげて巨大な岩をもちあげてそのまま放り投げた。

 巨大な岩はドッスンとすさまじい音を立てて道のわきに追いやられる。これで馬車が通れるようになったな。



「な……たった一人で……そのゴーレムは一体……それにヴィグナ、その力は……」

「イザク、ついていく人間を間違えたわね。これがグレイスが私にくれた力よ。かつては互角だったけど……今やったらどうなるかしらね?」



 ヴィグナが挑発するように俺達に絡んできた騎士にすれ違いざま笑いかける。彼は悔しそうに顔を歪めるが何も言い返せないようだった。

 まあ、実際今戦ったらヴィグナの方がイザクよりも圧倒的に強いだろう。武器もそうだが、ガラテアと時々模擬戦をしているのだ。もはや城にいた時とはレベルが違う。



「これで、俺達が先に通っても問題はないな。いくぞ、二人とも」

『了解です。マスター。頑張ったのであとで頭を撫でていただけると嬉しいです』

「あ、ずるいわよ、その……私も撫でなさい」



 そう言って俺達は蒸気自動車のほうへともどるのだった。

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