29.宝物庫

「くれぐれも中の物は壊さないように気を付けてくださいね。お連れの方はここでお待ちを」

「ああ、わかった。ガラテア……中に危険はないよな?」



 一人っきりにならねばならないという事もあり、俺は念のためにガラテアに安全を確認する。ゲオルグのクソ兄貴が余計な事をしている可能性もあるしな。

 もしも、暗殺者でもいたら俺一人ではちょっとやばい。



「はい、中に人の気配はありません、目の前の男も『落ちこぼれの王子が成り上がってきたぞ。すげえな』って感情くらいで、悪意はないですね。ですが、ちょっとムカつくので熱光線で髪を焼き切ってハゲにするのはどうでしょうか?」

「いや、熱光線って何? てか、確かにむかつくけど、こいつ気持ちはわかるからなんもしないでいいぞ」

「うふふ、ロボジョークです。いってらっしゃいマスター」



 そう言うとガラテアはクスクスと笑って俺を送り出した。怪訝な顔をしている見張りに会釈をして、俺は宝物庫へと入る。感謝しろよ、俺のおかげでお前の髪は守られたんだぜ。

 やたらと重厚な扉を開けて、中を覗いた俺は思わず感嘆の吐息を漏らす。そこには金銀財宝はもちろんのこと、優れた技術で作られた武器や防具が並べられていた。

 ボーマンが作っているのを幼いころから見ていたから、これらを作るのに、どれだけの努力や、技術があるのかわかるつもりだ。



「すげえ、こまかく砕いたミスリルを纏わせて、より魔法を纏いやすくしているのか……」



 様々な工夫がされている武器を見て俺は感動する。まあ、これもどっかから奪ったモノなんだろうが……そうして、見ていると、俺は見慣れた意外なものが目に入った。



「これは……銃だと……」



 ソウズィの遺物だろうか? それとも、誰かが作ったのか……? 俺が手に触れようとした瞬間だった。物音とも共に、服の布ずれの音が耳に入る。

 人がいたのか……だが、ガラテアは誰もいないと……



「それは……ソウズィの技術を模倣し、ドワーフが作った哀れなニセモノにすぎないわよ。本来はこんなところに置くほどの価値はないのだけれど……」

「あなたは何者ですか? ここは王の許可がなければ入れないはずですよ」



 俺が振り向くとローブを纏った人物がこちらへと歩いてくるのが見えた。その顔はフードのせいで影になって見えない。

 うわー、無茶苦茶怪しんだが……



「そうね……私は『宝物庫の管理人』よ。もちろん、王からの許可は得てるわ。安心しなさい。それで……何を探しているのかしら? グレイス=ヴァーミリオン」



 そう言うとローブを纏った女? はクスクスと笑った。この女……俺の事を知っていやがった。それに銃に関しても知識があるようだ。

 何者だ? 俺はいつでも銃を取り出せるように懐に手を当てながら会話を続ける。



「ちょうどよかったです。ソウズィの遺物に興味がありまして……管理人なら、置いてある場所も知っていますよね? 案内をしてくれませんか?」

「ええ、いいわよ、こっちに来なさい」


 

 そういうと彼女は一切の迷いもなく歩いて行く。カマをかけたつもりだったが、本当に管理人だったのだろうか? 

 そして、巨大な車輪が連鎖的につながっている不思議なものが置いてある場所だった。



「ほら、これよ。かつてアスガルドで開発途中だったもののパーツよ。これが本当に開発されていれば世界の物流は変わったかもしれないわね……」



 そういうと彼女はどこか寂しそうに言った。まさか、ソウズィのファンかなにかなのだろうか? いや、それにしてはなんだろう。感情移入をしすぎている気が……

 俺見つめていると、彼女はフードをさらに深くかぶる。



「悪いわね、私の顏は……気にしないで。ちょっと病気で人には見せられないのよ」

「ああ、失礼しました。ちょっとこれに触っても大丈夫でしょうか?」

「ええ、壊れるものでもないしね」



 俺は彼女に断りを入れて触れる。そして、ソウズィの遺物に触れると同時に俺に知識が入ってくる。



『異世界の知識に触れました。知識の一部を解禁致します』



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蒸気機関車の車輪


 蒸気機関車を動かすための車輪であり、馬車などに比べてその構造は複雑である。


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 また蒸気系か……それにしても、今度は蒸気機関車か……いったいどんなものなのだろうか? これだけ巨大な車輪を使っているのだ。相当大きな乗り物なのだろう? 

 俺が世界図書館が回答が来ない。ということは、まだ異世界理解度が足りないという事か……



「これでいいのかしら? 持って帰るなら運んでおくけど……」

「え? これをあなたが運べるんですか?」



 無茶苦茶重そうなんだけど……ゴーレムでもいるのだろうか? 俺の質問に彼女はなにも答えない。



「また手柄を得たらここに来なさい。あなたが必要としてそうな、他のソウズィの遺物のも探しておくわ」

「いや、他のもくれとはいわないので、見せてもらえたら嬉しいんですが……」

「だめよ。それだとあなたはこの国のために働かなくなるでしょう」


 俺の提案はぴしゃりと断られた。

 他の遺物も見たかったのだが、これ以上案内をする気はなさそうだ。俺は残念に思いながら出口へと向かう。そして、扉を開いた時だった。



「なるほど……あなたの『世界図書館』は、そのものを見るか、触れるかするのが発動条件なのね……おもしろい力ね。あなたのアスガルドの発展を祈っているわ」

「え?」



 俺が何かを聞く前に扉が閉まってしまう。あわてて再度開けようとしたが、鍵でもかかっているのか開くことは無かった。



 一体なんなんだ? そして、なんであいつは俺のスキルをしっている?



 色々試すが扉は開かない。俺があきらめて外に出るとガラテアが待っていた。



「おかえりなさい、マスター。どうしましたか、」

「なあ、ガラテア……中には誰もいないんだよな?」

「はい、そうですが……」



 じゃあ、さっきの女は何者だったんだよ……ちなみに見張りの男に聞いても同様の返事しか返ってこなかった。

 この宝物庫を出入りしたのはここ最近では俺だけらしい。いまいちすっきりしないものをかんじつつ俺は宝物庫をあとにするのだった

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