30.帰路

「じゃあ、ヴィグナ色々と頑張りなさいね!!」

「子供が出来たら言うのよ!!」

「うるさいわね!! でも、みんなありがとう!!」


 そんな言葉と共に顔を真っ赤にしたヴィグナが蒸気自動車に乗った。友達に会いに行くと言っていたが、女騎士たちと近況報告でもしていたようだ。

 でも、子供とか言ってなかったか? もしかしてのろけてくれていたのかな?



「なあ、ヴィグナ一体どんな話を……」

「これ以上聞いたらセクハラで訴えるわよ!!」

「残念でした。司法は領主である俺に権利がありますー。いや、ごめんなさい、調子に乗りました。だから無言で剣を抜かないでくれ、俺が勝てるわけないだろ!!」

「ヴィグナ様から羞恥と嬉しさを感知致しました」

「こら、ガラテア、黙って運転しなさい!!」



 クスクスとからかうガラテアにヴィグナが顔を真っ赤にして文句を言う。よっぽど恥ずかしいようだ。これ以上このネタに触れたらマジで殺されそうである。



「ヴィグナは可愛いな」

「ふん、当たり前でしょう」



 顔を真っ赤にしているヴィグナや楽しそうにしているガラテアを見つめながら改めて思う。この日常を守りたいと……だが、そのためには今回のクソ親父の依頼をこなさなければいけないだろう。

 今はまだ反抗するほどの力はないし、今回は侵略ではなく、他の国の援助だ。ここで隣の国に借りを作るのは今後の役に立つだろう。



「なあ、ヴィグナ……隣の国への遠征の準備はどれくらいかかる?」

「そうね……兵士も多少増えたとはいえ、遠征に連れていけるほどの練度を持つものは一握りだし……そんなにはかからないと思うわ。あとはグレイスの方の引継ぎよね。流石にノアじゃ決められないものあるでしょうし……」

「そうだな……ざっと、1か月と言ったところか……クソ兄貴の方は数は多いが、俺よりも早く情報を得ていただろうから事前に準備をしているだろうし、それがギリギリか……」



 今回の援軍は特にいつからという話は出ていない。あえてこうしたのはクソ親父がまるで遊びのように俺とゲオルグを競わせているのだ。早く援軍を送ったほうが有利にはなるが、あまりにも数が少なければ戦力にならないので意味はない。

 ある程度の練度の兵士とある程度の数が必要となるのだ。俺の方が不利過ぎない?



「今回の敵は鉱物アリよね? となると数が多い上に硬いから魔法使いか、高威力な武器が必要になるわね」

「だな……ドラゴンのように強力な魔物が一体ってわけじゃない上に、鉱山で戦う事になるから、ガラテアに任せるだけじゃだめなんだよな……」

 


 今回渡された資料を見ながら言うヴィグナの言葉に頷いた。



 鉱物アリとは鉱山に済む魔物で、鉱物を主食としているアリで人と同じくらいの大きさの魔物である。その体は食事をした鉱物の硬さに比例すると言われており、群れで活動するのだ。

 一般的に魔法で倒すのだが、あいにくアスガルドに魔法を使える人間は少ない。ガラテアなら素手で潰すこともできるかもしれないが、彼女は一人しかいないのだ。

 多分これの本来の担当はカイルだったんだろうな……性格は終わっているが魔法の腕は一流なあいつとその部下がいれば、楽勝だっただろう。



「とりあえず帰ったら戦闘を得意とする魔法使いの求人と、新しい武器の発明できないか聞いてみるか……」

「そうね、このご時世だし、お金を払えば冒険者も雇えると思うわ」


 あとはボーマンに故郷がピンチな事を言わないとな……そう思うと少し気が重い。そんなことを考えていると何やらアスガルドの広場が騒がしいことに気づく。



「いや、あいつら何やってんの?」


 そこには複数のゴーレムを囲んで何やら騒いでる住民たちがいたのだった。

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