31.久々のアスガルド

俺がアスガルドに帰ると、待っていたのは二体ほどのゴーレムと蒸気自動車だった。一体は足を六本足の異形、もう一体は犬のように四つん這いになっている。二体とも同じような大きさだが一体何だというのだろう。

 俺が唖然とした表情で蒸気自動車から降りると、こちらに気づいたノエルが駆け寄ってきた。



「グレイス様おかえりなさい!! ご無事で何よりです」

「ああ、ただいま……それよりこれはなんだ?」

「ああ……これはですね……」



 ノエルが何かを言いたそうにしていたが、サラの大声でかき消される。



「それでは今からゴーレムレースを始めるわよ!! みんなどれが勝つか賭けなさい!!」

「ゴーレム……」

「レース?」

「はい……、仕事の合間にノア様が作っていたゴーレムを遊ばせておくのももったいないとサラさんが言い出してはじまったんです。そうしたら、ボーマン様もノリノリで蒸気自動車で参加すると言い出してしまって……」


 俺とヴィグナが聞きなれない言葉に聞き返すとノエルが頭を抱えながら言った。ああ、失敗した……俺とヴィグナがいないと誰もこいつらの暴走を止められないんだよなぁ……



「でもさ……ノアは怒らなかったのか? 大事なゴーレムをあんなふうに使われてさ……」

「それがサラさんが今度ガラテア様とのお風呂をセッティングすると言ったら即座にオッケーが出たようです」

「うわぁ……」

「マスター……私の貞操が勝手に売られているのですが……」



 珍しく焦った様子でツッコミをいれるガラテア。まあ、本気で嫌がっていればノアも止まってくれるよな……



「とりあえず、ボーマンとノアを呼んでくれるか。ちょっと会議をしなくちゃいけないんだ」

「わかりました。少々お待ちを……会議室の準備もしておきますね」

「ああ、助かるよ。しかし、ノエルも元気そうでよかった」

「えへへ、やはりグレイス様の顔を見ると何か嬉しい気持ちになるんです。実はちょっと寂しかったので……」



 そう言うとノエルが少し恥ずかしそうにして走り去っていった。何あれ可愛いな、おい。そんなことを思っているとヴィグナがじとーっとした目でぼそりと言った。



「ロリコン」

「いや、これはちげえよ!! 今のは別にデレデレしていたわけじゃ……」

「触らないでくれるかしら、ロリコンがうつるでしょう。なーんてね」



 そう言ってヴィグナがクスクスと笑った。そんな自然体な彼女を見て、やっとアスガルドに帰ってきたんだなと実感する。なんだかんだ、俺達は気を張っていたからな。



「ただいま、アスガルド」



 俺はもはや故郷ともいえるアスガルドに向けてそう言った。




 領主というのはなんだかんだ忙しい。ましてや、これから一か月後には隣の国へ援軍を送らねばならないというのもあるから余計忙しいのだ。



「ガラテア様、会いたかったですーー!! 相変わらず美しいフォルムに、ミスリルよりも輝かしい素材、最高です!!」

「マスター、ノア様から過度の興奮と、歓喜を感知致しました。身の危険を感じます」

「ノア……寂しかったのはわかるが今はちょっと至急話し合う事があるんだ。後で好きにしていいからさ」

「言質を取りましたよ、グレイス様!! 一緒にお風呂に入りましょう。洗いっこしましょう、洗いっこ!!」

「マスター!?」



 裏切者を見るような目のガラテアに頭を下げる。ノアは俺達がいない中頑張ってくれたからな。少しは褒美があってもいいと思ったのだ。さすがに危害は加えないと思うし……

 そして、会議室に集まった、ヴィグナ、ガラテア、ボーマン、ノアの順に見つめる。

 


「それで……俺がいない間に何か変わったことはあったかな?」

「そうじゃのう……蒸気自動車の二号機の開発に成功したぞい、今度は速度重視型じゃ」



 ボーマンが得意げに言う。それってさっきゴーレムレースで使っていた奴だよな。ゴーレムにアタックされて壊れてなかった?



「特に問題は起きていませんが、気になることがいくつか……鉱山の中にワイバーンの目撃情報がありました。ひょっとしたら、この前の戦いで生きのこったドラゴンの一部が逃げているのかもしれません」

「なるほど……鉱山か……」



 今度の魔物との戦いの舞台も鉱山になりそうだし、ちょうどいいかもしれないな。ワイバーン達で狭い所での戦い方を学ぶチャンスになるかもしれない。



「ボーマンは狭い所でも使えて、破壊力のある銃を作れるか試してもらえるか? あとノアは、魔法を使える人間の求人を頼む。ちょっと厄介な事に巻き込まれてな……また、ここを離れることになりそうなんだ」

「王都で何かあったのですか?」

「ああ、ドウェル王国の救援を頼まれたんだよ」

「ドウェルじゃと……」



 俺の言葉にボーマンが珍しく険しい顔をした。当たり前だ。だって、ドウェルは彼の故郷なのだから……

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