28.残されたもの達
「本当にこんなにもらっていいのか?」
「はい、どうぞ、持って行ってください。それより……ボーマン殿が元気そうで何よりです」
俺が鍛冶屋達の作業場へと行き、ボーマンの使っていた道具を回収すると共に近況を話すと彼らは嬉しそうに、そして、自分の事のように喜んでくれた。
まあ、あいつは俺と違って、人望があったからな。それに……アスガルドにいったのだ。まさか俺達全員が生きているとは思わなかったのだろう。
「ああ、皆がボーマンの事を心配していたって事は伝えておくよ、それにしても忙しそうだな……ミスリルの剣を大量に作っているのか?」
「ありがとうございます。まあ、仕事ですからね……ですが、ボーマン殿は好きなものが作れて今は楽しんでいるでしょうね……」
そう言うと彼らは少し暗い顔をする。相も変わらず武器や防具ばかり作らされているようだ。光り輝くミスリルがあちらこちらで加工されている。
そして、奥では……外からは見えないように布が張られている作業場があった。
「あれは……ゲオルグの依頼か……」
「はい、近いうちの戦いがあるそうで……奥を覗こうとしないでくださいね、その……部外者はいれてはいけないと言われているので……」
「ああ、君たちに迷惑をかけるような事はしないよ。安心してくれ」
「ありがとうございます……あと、隣の国に行くのなら……ボーマン様も連れて行ってはもらえないでしょうか? あの人の故郷なのです」
「考えておくよ……邪魔したな」
俺はお礼を言って鍛冶場を後にする。そうなんだよな……ドゥエルはボーマンの故郷である。自分の故郷がピンチだとなったらやはり駆け付けたいものだろうか?
だが、戦場につれていけば死ぬ可能性があがるのだ。ボーマンは別に戦闘力が高い訳ではないしな。俺が悩んでいると声をかけられる。
「マスター……罪悪感と、強い悲しみと、わずかな期待……そして、ほんのわずかな憎しみという複雑な感情を持っている女性が近づいてきています。お気をつけてください」
「複雑な感情か……わかった」
離れたところで俺と鍛冶師たちのやり取りを見守ってきたガラテアと合流すると彼女は、俺の耳にささやくように言った。
いったい誰だろうか……その答えはすぐに出ることになる。
「お久しぶりです、グレイス様お元気そうでなによりです」
「久しぶりだな、ティア……」
そう言って、俺に礼儀正しくお辞儀をしてくれたのはティアという使用人だ。彼女はカイルの専属のメイドであり、俺に対しても、王族として接してくれた数少ない人間である。特に親しい訳はないが、悪い感情は抱いていなかった。だが、わざわざ会いに来るような関係ではない。
となると……彼女は何か用があるのだろう。少し気が重い。
「グレイス様……カイル様がどうなったのか知らないでしょうか? 王都を出て少し視察に行ってくると言って以来帰ってこられないのです」
そう言って彼女は服の裾を強く握る。ああ、やっぱりな……王城にいるのだ。俺が彼と戦い撃退したという事はもちろん知っているのだろう。別にカイルを殺したことは間違ったことはしていないとは思うがわずかに罪悪感を感じてしまう。
「よくは知らないが……カイルと似た冒険者が俺の領地を襲ったって言う報告は受けたよ。最後はワイバーンに乗って逃げようとしたが、うちの兵士が倒したそうだ。そいつの遺体は見つからなかった……」
「そうですか……ありがとうございます。それでは失礼します」
そう言うと彼女は一瞬顔を悲しみにゆがめた後に、すぐに先ほどの笑顔を浮かべて去っていった。彼女が歩いていった方からすすり泣きが聞こえたのは聞き間違いではないのだろう。
カイルと彼女の間にどんな物語はあったかは知らない。俺にとってカイルはいつも見下してくるクソ野郎だったが、彼女にとっては違ったという事だろう。
だけど……俺はヴィグナや、ボーマン、そしてアスガルドの領民たちを守るために戦ったのだ。
「マスター……あなたのしたことは間違っていませんよ」
「わかっているさ……それよりも本命に行くとしようか、ようやくうちの宝物庫への出入りが解禁されたからな。もしかしたらソウズィの遺物もあるかもしれないからさ」
そう、王の依頼を受ける条件というわけではないが、宝物庫への出入りが可能になったのだ。もちろん、中身を持っていくことはできないが、俺なら振れるうだけでいいのだ。
くそ親父の力は強大だ。だったら反撃するためにスキルを強化するチャンスをのがすわけにはいかないだろう?
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