6.接待
「さあさあ、グレイス様飲んでください!! 今日はこのエドワードのおごりですよ。ではこれからの我々の未来を祝福して!!」
「ええ……ありがとうございます」
「あらあらいい飲みっぷりー!! 私はサラよ、今日は楽しんでいってね」
パーティーの後、エドワードさんに連れていかれたお店で俺は酒を飲んでいた。どうやら俺を接待してくれるそうだ。エドワードさんの他にパーティーで紹介された二人の商人もいる。なぜか、他の人間には内緒と言われていたがお店についてその理由がわかった。
コップを空にすると同時にお酒が注がれる。俺はつい緊張気味にお礼とばかりに、注いでくれた女性に会釈をする。挙動不審だが、許して欲しい。
だって、この子露出がやばいんだよぉぉぉぉーーーー!!
谷間を強調したレースのついたワンピース型の服にスカート部分から見えそうで見えない生足!! しかも、甘えた声で話しかけてくるものだからついにやけてしまう。
てか、お酒を注ぐときに胸を押し付けましたよね。童貞の俺には刺激が強すぎるんだが!!
「今日は貸し切りなのでご安心を……こういうのも乙でしょう。彼女たちは口も堅いですし、気分転換にはちょうどいいと思いますよ。たまにははめを外すのもいいと思います。それともヴィグナ殿とはそう言う関係だったのでしょうか? だったら差し出がましい真似をしてしまいました」
「いえ、あいつとはただの部下と主人ですよ。しかし、みんな楽しそうに飲んでるなぁ……」
俺はエドワードさんに返事をしながら楽しそうに女性たちと酒を飲んでいる商人たちを見つめる。彼らも色々と抱えているのだろうな。俺もあんな風に騒げればと思うが、どうもさっき一緒に踊ったヴィグナの姿がよぎって楽しむことができない。
あいつはただの幼馴染で部下なのにな……
「お客さんはこういうところは慣れてない感じかしら? だったら、普通にお話でもする? 愚痴でもなんでも聞くわよ。気分転換にでもこれを食べてくださいな。私が作ったのよ」
「あ、ああ……ありがとう。てか本当にうまいな!!」
俺はさしだされた料理を食べる。ガラテアやノエルが作るものとは違うどこか家庭的な味で美味しい。あれだ、城にいた時にボーマンの買い物についていって時々おごってくれた食堂の飯の味に似ているんだよなぁ。
「ふふ、ありがとう。料理には自信があるのよ。それで何に悩んでいるのかしら?」
「これは友人の話なんだが……」
俺の態度があまり楽しそうに見えなかったからだろう、彼女はそんな風に言ってきた。少し気をつかわせてしまったなと後悔をしながらも、俺はつい今感じた事を話す。
酒の勢いか、彼女の話術が上手いのか、俺はヴィグナの事をついつい話していまう。
「それは恋ね!! あなたはその子に恋をしてるのよ。話を聞く限り相手の子もあなたの事を嫌ってはいないと思うわ」
「いやだって、子供の頃から一緒だった幼馴染だぞ、それにあいつは暴力的だし……でも、俺が弱っている時は優しんだよなぁ……俺がへこんでるといつも優しい言葉をかけてくれてさ。がんばらなきゃって燃えるんだよな」
俺が父たちに外れスキルと言われた『世界図書館』に目覚めた時もあいつが俺ならこのスキルを使いこなせると言ってくれたから頑張れたのだ。あいつにはかっこ悪いところをみせられないと頑張ることができたのだ。
「じゃあ、想像してみて。その子が他の男の人と歩いていたらどう思うかしら?」
「いやぁ……何かもやもやするな……」
ヴィグナが他の男とデートか……想像したことだけでなんか胸が重くなるな。なんというかあいつが俺の近くにいるのは当たり前のことで……それが他の人に元に行くというのが今まで想像すらできなかったのだ。
ということは俺は本当に彼女が好きなのか。いますぐあいつに会って確かめたい気持ちになってしまう。
「その……ありがとう。色々助かった。ちょっとこの事は真剣に考えてみようと思う」
「あらあら友達の話じゃなかったのかしら?」
「どうせわかってるだろ……お礼と言ってはなんだが、サラさんの方で何か悩んでいることはないか? 俺の領地では色々と発明をしていてな、もしかしたら力になれるかもしれないし、こっちとしても商売のヒントになるかもしれないしな」
「発明……? あなたがまさかソウズィの後継者のグレイス=ヴァーミリオン様なの? 滅多に他人をほめないエドワードが褒めていたからその……もっと大人なものだと……先ほどまでは色々と失礼をしました。まさか、王族の方とは思わず……」
「思春期のクソガキみたいな質問をしてて悪かったな。口調はさっきのままでいいよ。俺は王族としてここにきているわけじゃないしな。まあ、感謝しているのは本当なんだ。何かあれば力になるぞ」
俺は慌てて口調を変えるサラにそのままでいいと伝える。正直敬語よりもさっきの方が話しやすいしな。それに……なんか年上に相談にのってもらえるというのが、新鮮でちょっと嬉しかったのだ。ボーマンにこういうことは相談しづらかったしな……
「そう……じゃあ、こんなことを聞くのはあれだけど、避妊薬とか安く作れないかしら? うちの店ではあまりないんだけど、こういう商売をしていると、お客さんとそう言う関係になったりする子もいるのよ、それで、その……望まない妊娠とかもあるのよね……友人の所でもそう言う子がいて、途方にくれているって話も結構聞くのよ。そう言う薬を使えってはなしなんだけど、かなり高価なのよ」
「なるほどな……そう言う場合は魔法でって言うのも聞いたことはあるが、貴族でもなければそうそう魔法は使えないし、薬も高いものな……」
彼女の店はわからないが、他の店ならばもっと激しいスキンシップをしていたり、元々そういう目的でお酒を一緒に飲むこともあるのだろう。
とはいえ、薬は専門外だ。他の方法で避妊をする事は出来ないだろうか? 俺がそう思った瞬間だった。
世界図書館に聞くと即座に返事が返ってくる。なるほど……ゴムはそう言う使い方もあるのか……
「その件だが何とかなるかもしれない」
「本当!! 助かるわ。さすが、グレイス=ヴァーミリオンね。期待しているわ」
俺の言葉にサラは満面の笑みを浮かべる。そして、俺はちょっと酔いが回ったのと思考をクリアにするためにちょっと外す旨を伝え、外に出る。
異世界ではゴムを使うようだ……ならばなんとか作れないだろうか?
「あっ」
「ヴィグナ……? なんでここにいるんだ」
扉を開けるとそこにはなぜかヴィグナがいた。当たり前だが先ほどのドレスではなく、戦闘用の軽装で武器まで持っている。
何この子こわいんだけど……
「おーい、何でこんなところにいるんだ?」
「その……私は護衛だから……あんたが外へ出て行くのが見えて……万が一があったらまずいなって思ったんだけど……少し覗いたら……その楽しそうに女性と話していたから邪魔しちゃわるいなって思ったのよ。まさかこんなところに来ているなんて思わなくて……かといって帰るのもあれだし……」
俺の言葉に彼女は罰が悪そうに目を逸らしてモゴモゴと小声で言っている。ああ、こいつは俺を心配してわざわざこんなところまで来てくれたのか……そう思うと先ほどまでのサラさんの言葉がよみがえり、俺は胸が熱くなるのを感じた。
「よかったら二人で一緒に飲まないか? 最近二人で話せなかったしさ」
「別にいいけど……あんたは楽しんでたんじゃないの?」
「いや、今はヴィグナと話したい気分なんだ。嫌か?」
「ふーん……仕方ないわね。付き合ってあげる」
そう言うと彼女は満面の笑みを浮かべた。それを見るだけで俺は胸がポカポカするのを感じた。そして、俺はサラさんとエドワードさんに迎えが来たと伝えて、ヴィグナと一緒に宿へと戻る。サラさんがちゃんと説明をしてくれているといいんだが……変に誤解をされて盛り上がっていそうだ。
「ねえ……外にずっといたからか手が冷えちゃったんだけど……」
「え、今は夏だが……」
「いいから!! 手をつなごうって言ってるのよ!!」
そして、久々にゆっくりとヴィグナと過ごす時間はとても幸せだった。
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