7.新しい領民

エドワードさんのパーティーから一月ほどたった。あの後屋敷へ帰った俺はさっそく、ゴムで作った避妊具を発明し、『スラドーム』と名付けて、エドワードさんに見せた所、量産されることが決まった。その時に普及率を上げるために、ちょっとしたお願いをしておいたのだが効果があるといいなと思う。

 いつか俺も使う時が来るのかななんて思いながら赤面しつつ効果を説明したものだ。




 そして、あのパーティーで俺の名前が売れたからか、もしくは、アグニ達が他の難民たちに手紙を出してしてくれたおかげか、また新しい難民が20人ほどやってきた。まとまってきたのはどうやらエドワードさんが、俺の領土への馬車の便を準備してくれたようだ。正直バラバラに来られるよりも対応が楽なので助かる。

 俺が村の広場に集まった難民たちに挨拶をしにいくとアグニがガタイの良い男と話していた。



「アグニ……ここでは俺達の土地がもらえたり好きな仕事につけるっていうのは本当か?」

「ああ、本当だ。それもすべてはグレイス様のおかげだ。グレイス様、こいつはドノバンっていって俺達がいた街で炭鉱夫をやっていたんだ。俺の親戚だから身元も保証するぞ」

「あなたが、領主様だったのか、すまねえ、頭も下げないで!!」

「なあ、俺ってそんなに領主っぽくないか?」

「そうね……特に今のあんたは農作業帰りだから薄汚れているし、農家のクソガキって感じね」



 言い方ーー!! 俺がちょっと不安になって護衛としてきたヴィグナに聞くといつも通りの返しがきた。くっそ、この前ちょっといい雰囲気になったが、やっぱりこいつに恋をしているとかないな!! 



「いや、違うんだよ、領主様がわざわざ俺達の様子を見に来るなんて思わなかったから……」

「いやいや、気にしないでくれ、領主と言っても領民もまだまだいないんだ。それよりもこれからうちで頑張ってくれるんだろう。友好の握手をしよう」



 慌てて頭を下げようとするドノバンに微笑みかけて、握手をする。それと同時に『世界図書館』を使用する。

 

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村人


ドノバン

年齢:35歳

得意分野:炭鉱夫、リーダー

スキル:ピッケルユーザー

情報:開拓村では炭鉱夫として、働いていた。ピッケル堀の名人として村では有名。真面目だが融通の利かないところもあるが、基本的には善人で責任感が強い。

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 へぇ、スキル持ちか……それに鉱山で炭鉱夫の経験ありか……確か領地にはソウズィが開拓したミスリルの鉱山があったな……今までは人がいなかったから手を付けられなかったが、落ち着いたら鉱山に手を出すのもありだろう。まあ、長年放置されていたのだ。魔物の巣になっていたり、崩壊している可能性もあるので事前の調査は必要だけどな。



「ああ、基本的には希望の職種につけるし、住む場所も提供するぞ。詳しくはアグニに聞いてくれ。アグニ、難民たちへの指示と歓迎所への誘導を頼む」

「ああ、ドノバン喜べ、ここの飯はうまいぞ!! しかもたらふく食べていいんだ」



 アグニのその言葉にドノバンだけでなく、他の難民たちも歓声を上げる。よし、つかみは上出来かな。やはり知り合いの言葉は信用できるのだろう。それにガラテアやノエルの料理は彼らの胃袋をつかんでくれるはずだ。

 そして、改めて難民を見回すとその中に見知った顔があった。



「久しぶりだな。サラ。こんなところでどうしたんだ、お店は良いのか?」



 俺が話しかけると彼女は満面の笑みを浮かべる。今日の彼女はお店で会った時とは違い質素なワンピースである。ぱっと見はああいう店で働いているようには見えない。女の子ってすごいな……



「ああ、グレイス、あなたのおかげで助かったわ。その……あなたでしょう、最初に娼館や夜の店に無料で避妊具のサンプルを配るように言ったのは……おかげで仲間もみんな喜んでいたわ」

「勘違いするなっての。あれはただ、普及率を上げるための手段に過ぎないんだよ。今は避妊は薬や魔法が主流だが、娼館とかで話題になれば知名度があがるからな。庶民だって使いやすくなるだろ」

「ふふふ、そういう事にしておいてあげるわね。あんたって結構いい男よね」

「当たり前だろう、俺は世界を制する男、グレイス=ヴァーミリオン様だからな。最高にいい男だ!!」

「ずいぶん、親しそうね。私は席を外したほうがいいかしら」



 俺がサラと会話をしていると、ちょっと不機嫌そうなヴィグナが口をはさんできた。あ、この表情は怒っているというよりも拗ねているな。



「ああ、あなたが例の……へぇー、この子もまんざらでもないみたいね」



 サラがヴィグナを見てにやりと楽しそうに笑うと、怪訝な顔をしているヴィグナに耳打ちをする。そうすると、ヴィグナはこっちを見て顔を真っ赤にした。

 ちょっと待って、何を言ったんだよぉぉぉぉぉ!!



「ここにはまだ食堂がないんでしょう。私は実家の食堂で働いていたのよ、料理には自信があるから任せてもらっていいかしら」

「ああ、別に構わないが……」



 まあ、確かに店で食べた料理は結構うまかったな。人も増えたし、ガラテアとは違い、家庭料理を得意とする彼女が来てくれるのは助かる。

 いや……まさか、彼女はそうなるのを予想してわざわざ来てくれたのか? 



「まあ、また困ったことがあったらお姉さんに頼りなさいな」



 俺が何かを聞く前にそう言って、ウィンクすると彼女はさっさと歩いて行ってしまった。



「とりあえず、館へ戻るか」

「ええ……」



 何を言われたのか、ヴィグナはやたらと素直に従うのだった。会話はなかったけれど、その沈黙が不思議と心地よかった。





 そして、新しい住民たちが来て数日が立った。彼らはこの街の一員として順調に活動をしているようだ。住居に関してはアグニとボーマンが急いで整えてくれたし、食料もヴィグナが指導しているニールを筆頭とした数人の領民による討伐隊が魔物を狩ってきてくれているおかげで肥料にも困らず、農作業もジョニーとアルフレッドが率先して作業を指導をしてくれているおかげで食べるのには困らない。


 とはいえ、このままでは難民が増えてきたら働く仕事のない人間も現れてしまうだろう。だから新しい産業が必要なのだが……



「ご主人様、ハリソン商会からお手紙が来ましたよー。あと、またアズール商会からも来ています……」

「うげぇ……返事を書かなきゃいけないからめんどくさいんだよなぁ……」



 そう、ここ最近、というかパーティーの直後から、アズール商会から、食事の誘いが何度も来るようになったのだ。

 馬鈴薯や、ミスリル合金などが貴族達にも浸透しはじめたからな……うちにも売れという話をするつもりだろう。今更遅いんだよ、くそが!! とはいえ、そんな風には書けないので、丁寧にお断りの手紙を返信する。こんなんでも時間稼ぎにはなるだろう。



「ノエルよ、ボーマンとヴィグナ、ガラテアを呼んできてくれ。そろそろ新しい開拓を始めようと思う」

「わかりました、ご主人様。何をされるつもりですか?」

「人にも余裕が出てきた。せっかくボーマンという金属のスペシャリストがいるし、優秀な炭鉱夫もやってきた。鉱山を開拓するぞ!!」



 そうして、アスガルドの新しい開拓計画がスタートするのだった。


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領地情報

 領民:28名(20名追加)

 

異界理解度 レベル3

(触れたものがどのようなものか、またどのように扱うか、及び、原材料に触れた際に低レベルならばどのように使用できるかを理解できる)

 


技術:異世界の鋳鉄技術

  :銃の存在認知→銃の基礎的な構造理解

  :ロボットの存在認知

  :肥料に関しての知識

  :アルミニウムに関しての知識

  :合金の作り方

  :ミスリル合金

  :ゴムの作り方、加工方法


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