8.鉱山へ行こう

「というわけで鉱山に行ってみようと思う。ソウズィの残した地図と『世界図書館』で調べた結果、ミスリルの原石があるようなんだ。ガラテア、ソウズィも、鉱山に手を出していたんだろう?」

「はい、マスター。わが父はミスリルの原石などを掘ってそれで商いもやっていました。ただ昔のことですし、私はそっちには関わっていなかったので、大体の場所しかわからないのですが……そして、近くに古火竜の巣があるので気をつけろと部下に言ってた事を記憶しています。マスターたちと初めてお会いした時に撃退したあいつですね」

「ああ、だから、鉱山の開拓はソウズィがいなくなった後は放置されていたのか……まあ、古火竜ならまた出てきても、ガラテアがいれば大丈夫だろう、それに鉱山で発生しそうな毒とかもガラテアなら感知できるんだろう? 頼むぜ」

「はい、頼りにしてもらえてうれしいです。マスター。私にお任せください」



 そう言って嬉しそうにどや顔をするガラテアの頭を撫でると、彼女は幸せそうに顔をにやつかせる。本当に癒されるな……



「ほう、ミスリルの原石か、質がいいと良いのう、ここいらで流通しているミスリルはどうも質がよくないからちょうどいいわい」



 領主の執務室で、俺はみんなにこれからの計画を説明していた。俺の推測をガラテアの記憶が補強してくれる。幸いボーマンも乗り気なようだ。とりあえず試す価値はあるだろう。だが一つだけ気になることがあった。

 俺はさっきから黙っているヴィグナにも声をかける。



「というわけだ。ヴィグナはどう思う」

「確かに、村の方でも人員を割くだけの余裕が出てきているし、新しい事に手を出すタイミングとしては今だと思うわ。それで一つ聞きたいんだけど、鉱山には誰を連れて行くの?」

「ああ、鉱石に詳しいボーマンに、護衛兼案内としてガラテアを連れて行こうと思う。その間はこの村の事をヴィグナにお願いしたいんだが大丈夫か?」

「まあ、普通はそうなるわよね……わかってたけど……」



 快諾をしてくれるかと思ったがなぜか渋い顔をするヴィグナ。俺が予想外の反応に戸惑っていると、彼女はガラテアに真剣な顔をして聞く。



「ねえ、ガラテア、私が戦ってあなたに勝てる可能性はどれくらいかしら」

「おい、ヴィグナ何を言って……」



 いきなりわけのわからない事を言い始めたヴィグナを止めようとしたが、ボーマンに口を塞がれた。何しやがる。このクソじじい。しかし、貧弱な俺ではボーマンには力で勝てない。



「申し訳ありませんが、私はこの世界のすべての魔法や斬撃に耐えうるように作成されています。ヴィグナ様が勝てる可能性は少ないかと……」

「そう、あなたが言うなら正しいんでしょうね。グレイス安心して、この村は私が絶対守るわ。あとボーマン、例の物を使わせてもらうわね」

 


 そう言うと、彼女は出て行ってしまった。いつものようにツンツンとしていたが何か様子が違う気がする。



「なあ、ヴィグナはどうしたんだ?」

「お前さんは本当にこういうことはからっきしじゃのう……ヴィグナはずっとお前さんの護衛をやっておったんじゃぞ。それなのに、護衛をあの子ではなく、ガラテアに頼んだ。複雑な思いをしているんじゃろうよ」

「そんな……俺はそんなつもりじゃ……」

「ヴィグナ様から悔しさと、嫉妬心を感じました。ですが今は放っておいた方がいいと思います」



 俺が追いかけようとすると、ボーマンだけでなく、ガラテアにまで止められた。ああ、でも、そうだよな。確かにそうだ。

 あいつは城にいたときからずっと俺の護衛をしていてくれたんだ。アスガルドに追放された時だってついてきてくれた。それなのに、俺はなんであいつの事を考えられなかったんだ。自分が自分で嫌になる。



「じゃが、儂はおまえさんの判断は間違っていないと思う。ここの地理に詳しく、戦闘力も高く鉱山の毒にも対応できる。この場合はガラテアの方が護衛にふさわしい。そして、あの小娘も頭ではわかっているんじゃよ。だから、ああして引き下がったのだ」

「そうだよな……」

「まあ、頭ではわかっていでも感情では納得できんのじゃろうな。帰ってきたら、あの子も冷静になってるじゃろうし、お前さんがあの小娘をどれだけ大事に想っているか、語ってやれ。ついでにプレゼントにでもなりそうなものを作っておいてやろう、それをきっかけにでも話しかければいいじゃろ」

「別に俺はあいつのことをそんな風に……いや、思っているよ。そうするさ」



 俺は反射的に否定しそうになった自分の言葉を取り消す。こういう風に誤魔化した結果が今につながったのかもしれない。俺はヴィグナがついてきてくれて本当に嬉しかったのだ。それをちゃんと言葉にしたことはあまりない気がする。

 サラにも相談したときに自分の気持ちなんて決まっているのだ。だったらいつまでも逃げてはいけないだろう。とりあえず鉱山の探索が終わったら彼女とじっくり話そう。そう思うのだった。



「じゃあ、鉱山に行くぞ!! みんな準備を頼む」



 そうして俺達は鉱山へと向かうのだった。

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