9.アズール商会
「ふむ、あの馬鹿王子め……また、断ってきおったか……」
「は、はい、そのようです。いつものように、今は忙しいから時間ができたらこちらから連絡をすると書いてあります……」
「ええい、それも貴様がグレイス王子が初めに商談に来た時に無下に扱ったからではないか!! あの時に商談を受けていればこんなことにはならなかったというのに……貴様はクビだ。どこにでも行くといい!!」
レイモンド=アズールは手紙の中身を伝えてくる小太りの男を怒鳴りつける。
「そんな……うちはカイル王子の派閥だから、グレイス王子がきても適当に扱えと命令をされたのはレイモンド様ではないですか!! あんまりです!!」
「うるさい!! あの馬鹿王子と、ハリソン商会のせいでうちがどれくらい大損をしているとおもっているんだ!! 冒険者どもは馬鈴薯に夢中になり、魔力回復ポーションは売れず、貴族共も、冷蔵庫や、ミスリル合金の装飾品などに夢中になって、どんどんうちよりもハリソン商会との取引を優先してきているのだぞ!! ここで何とかグレイス王子との商談を成功させねばアズール商会は破産する可能性すら出てくるのだぞ!!」
「ぎゃぁ」
すがりついてきた小太りの男を蹴飛ばすレイモンド。確かにグレイス王子がここまで成り上がってくるのは予想外だった。カイル王子への点数稼ぎのために雑に扱って、没落する様を報告する。その予定だったというのに……
実際はどうだ。あのグレイス王子と組んだハリソン商会はこれまでなかった製品をどんどん販売して力をつけてきているのだ。ここで手を打たねばまずい。幸いまだ資金力はあるのだ。
グレイス王子と何とか話をして、ハリソン商会よりも高額で取引をすることを約束し、懐柔をするなりカイル王子の名を出して、脅迫するなりして商談を成功させねばいけないのにそのチャンスすら与えられないのだ。
「それで俺を呼んだのか?」
そう言って割り込んできたのは、今まで壁に寄りかかって興味がなさそうに二人のやりとりを見ていた禍々しい赤髪の中性的な男だった。その特異な髪のとおり彼はただの人間ではない。忌子という特別な魔力を持つ人間である。その常軌を逸した魔力でスキルを使いワイバーンなどのドラゴンを従える『ドラゴンテイマー』の異名を持つ優秀なソロの冒険者である。
そんな彼にレイモンドは依頼書を渡す。
「ああ、今から指定する村を襲え、貴様の飼っている魔物たちならば、村一つ問題ではないだろう? どうせ、農民上がりの衛兵がいるだけにすぎん」
「ふーん、アスガルドか……確かグレイス王子がやってきて開拓をしていると……ああ、そういうことか……強力な近衛騎士あがりの女がいると聞いたことがあるな。厄介な敵だ。報酬は上乗せしてもらうぞ」
流石に最低限の情報収集はしているようだ。まあ、その程度の金などどうでもいい。成功すれば、もっと儲かるのだから……
「構わんよ、その代わり絶対失敗はするなよ。これで、貴様がやつの村にダメージを与えれば、あの馬鹿王子も村の警備を強化しなければいけなくなるだろうからな。その時がチャンスだ」
「当たり前だろう、ドラゴンテイマーであるこの俺が失敗をすると思っているのか? あまり気は進まんが依頼は依頼だ。受けよう。なーに、何十匹ものワイバーンで同時に攻めればたった一人強い人間がいたところで問題はない」
そう言うと赤髪の男は出て行った。これでいい。正直あの男が成功しようが失敗しようがどうでもいいのだ。いや、おそらく失敗するだろう。やつらは火竜を倒すくらいの戦力はあるようだが、強いのは近衛騎士一人だ。圧倒的に手数が足りない。やつを退ける事はできても村自体の損傷が無しとはいくまい。
あの冒険者の攻撃によって被害を受ければ、住民たちは恐怖して、戦力を補強せざるを得なくなるだろう。その時に自分の息のかかっている冒険者を派遣して内部から崩壊させるなり、掌握すればいいのだ。それに……非常時はカイル王子の力を借りればいいのだから……
レイモンドは知らない。グレイスが『世界図書館』によって他人の情報を知ることができるという事を……彼らが倒したのが火竜ではなく古火竜だったという事を……そして、ガラテアという強力な戦力が居る事を……
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