14.ボーマン
グレイスが銃を作ってくれと言った時に思った事はようやく覚悟が決まったのだなという気持ちだった。
一度じっくりと見せてもらったこともあり、銃の構造自体は大体わかっていた。だからこそ、自分の持つ知識と今までの経験を活かしてヴィグナ用の魔法銃剣を作成することはできたのだ。
そして、ヴィグナが今それまで使っていたミスリルの剣ではなく、儂の作った魔法銃剣を使っているのを見て、彼女もまた覚悟を決めたのだなと安堵する。
まあ、いきなりグレイスの小僧に甘えているのを見てすこしにやけたのはここだけの話だが……
ヴィグナが悩んでいたことは実のところ知っていた。自分が死ぬほど努力して手に入れた力よりも圧倒的な強さを持っているガラテアが現れたことによって彼女の自信は砕かれたのだろう。
だからこそ、彼女は魔法で慣れない土壁を作ったり、他の人間に戦い方を教えたりなどと、ガラテアではできない方法でこの村のために色々とがんばっていたのだ。
きっと意地とか嫉妬とか色々な感情が渦巻いていたのだろう。彼女はミスリルの剣に固執をしすぎていた。それこそ、儂が彼女のために作った強力な武器である、『魔法銃剣』を使うのを拒否するくらいに……
「おい、小娘。その武器はどうじゃ」
「ええ、流石ボーマンね。これさえあれば並みの敵なら相手じゃないわ」
そう言って愛おしそうに『魔法銃剣』に触れる彼女を見て儂は安堵する。彼女は自分が近衛騎士だったから、グレイスの近くにいられたのではなく、彼女が彼女だからこそ、グレイスの傍にいられたという事にようやく気づいてくれたようだ。
実のところ儂とグレイスがいれば銃という武器を作ることはそう難しいことではない。おそらく、ガラテアを領民にして、ソウズィの炉を手に入れてから一週間もするころには作成をする事は可能だっただろう。
だが、グレイスは武器などの発明を指示することは決してしなかった。ミスリル合金が完成したときも、彼はあくまで、クワや守護者の鎖など日用品などの作成だけを指示した。それで武器や防具を作ればより強力なものができるとなどという事はあの小僧ならばわかっていただろうに……
それを別に責めるつもりはない。グレイスはなんだかんだ人生経験が少ないし、人の命を奪ったりするものをつくるのを無意識のうちに避ける傾向にあった。だから……もしも、武器が必要な場面になったらこちらから提案するつもりだった。
だから、彼が覚悟を決めて武器を作ると言った時は驚きと成長を喜ぶ気持ちがごちゃまぜになった。
「とりあえず基本の構造はわかっているよな。あとはどう発射するかだよな。異世界では火薬を使用してその反動を利用して発射するんだが……」
「うむ、そうじゃな……安定した品質の火薬の作成が課題かのう……
「ああ、それもおいおいだな。とりあえずは、古火竜やワイバーンが火を吐く際に使用する発火剤になる素材があるからそれを試そう。あとはヴィグナ、このマジックストーンに火系の魔法をこめてみてくれ。銃に使えるか試す。結構な量だがいけるか?」
「当たり前でしょう、私を誰だと思っているのよ。任せなさいな」
グレイスはどんどん指示を出す。ここに来た時と比べてすっかり大人になって頼りになる男になったものだ。儂がグレイスの成長を好ましく思っていると、こちらを見ながら何やら気まずそうに彼は口を開いた。
「悪いな、ボーマン……その……武器を作らせちゃってさ……あんたはそういうのを作るのはあんまりすきじゃないだろ」
「何を言っているんじゃ。儂は武器だけを作らされるのが嫌いなだけなんじゃよ、大体何かを守るために武器は必要じゃろが、それに本当に嫌なら断っているし、そこの小娘にも武器を作ったりなんかせんわい」
「そうか、よかった……じゃあ、なんとか形にするぞ!! 敵がいつくるかわからないからな」
彼はどうやら自分が城にいた時に愚痴っていたことを覚えてくれていたらしい。確かにあの時は戦争ばかりで、誰かのために武器を作っては、その相手がどんどん死んでいく様子に嫌になったものだ。
でも、今は違う。この武器は彼らを守る力になるだろう。それに……グレイスならば、強い力を持っても暴走しないだろうという安心感がある。
「ふむ、何とか訓練が少ない時間でも使いこなせるようにしたいのう。あとは、銃には何種類かタイプもあるんじゃろ。作れそうなものは作っておくぞ。それとこのアルミニウムとやらも実用化をすればいいんじゃろ」
「そうだな、可能ならば魔法を使えない人間でも、魔法使いに対抗できる武器が欲しいな。魔法の届かない範囲から狙ったりとか……それと、アルミニウムは硬くて軽いからな。完成すれば色々と使えると思うんだが……同時進行になるが大丈夫か?」
「ふん、儂を誰だとおもっているんじゃ。こっちの事よりもお前さんはもっと心配することがあるじゃろ」
生意気にも心配をしてくるグレイスに儂は威勢よく返事をする。そうして、儂は小さかった二人の成長を実感しながら作業をはじめるのだった。
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