15.領民たちの意思

「うーん、朝か……」



 あの後ボーマンやヴィグナと一緒に銃を作っていたのだが、二日の徹夜の結果、ようやく試作機が完成したのだ。馬鈴薯まじやべえな。徹夜してても全然眠くならなかったんだが!! 努力の甲斐があってソウズィが残した銃に比べたら流石に質は落ちるが一応実戦レベルになったと思う。

 俺はミスリル合金で作られた筒状のライフルとハンドガンを眺めながら、感嘆の吐息を漏らす。これは俺の知識に、ボーマンの技術、そしてヴィグナの魔力が籠ったアスガルド領が量産した初の武器だ。この武器が領民を守り……そして、敵を殺すだろう。



「本当は俺が全部責任を持つって言ったのにさ」



 彼らが強く主張したのだ。これは三人で作ったものだからこれが引き起こす栄光も、罪だって三人のものだってさ……俺はもう覚悟はすんでいるっていうのに……

 力尽きて眠っている二人を眺めながら俺は感謝する。そして、誰かがかけてくれた毛布を俺はヴィグナにかけてやる。ボーマンは……まあ、頑丈そうだし、風邪もひかないだろう。

 俺はライフルを持って外へと向かおうとする。



「私も行く……」

「寝てろよ、結構疲れてるんだろ」

「それはあんたもでしょ……それに私もそれの性能とか見たいし」



 外に出ようとしたら、ヴィグナに服の裾を掴まれてしまった。寝ぼけまなこだというのにどうしてもついていくらしい。

 てか、力やば!! 振り払おうにも微動だにしないんだが? 俺は観念して彼女と一緒に外に出る。



「それで……そのライフルはどんな仕組みなのかしら?」

「はっはっはー、仕方ないなぁ。愚かで脳筋なお前に説明してやろう」

「ふふふ、なんだかそれも久しぶりね、続けてグレイス」

「え、何その反応こわっ!! 変なもんでも食った?」

「はっ、潰すわよ」



 いつものがきたーーー、言い方はあれだけど罵られた方が落ち着くな。俺はいつものテンションで説明をする。



「調子にのってすいませんでしたヴィグナ様!! このライフルって言う武器はですね、この引き金を引くことによって、中のマジックストーンに込められた火の魔法が爆発をおこしてミスリル製の弾丸を飛ばすんですよ。俺の持っているのものと違い、一発一発弾を込めなきゃいけないんですが、速度は弓矢に比べものにならないし、なによりも力を使わないんですよ。まあ、反動はそれなりにあるんですけど……こんな風に」

 


 俺が手に持ったライフルを撃つと反動と共に、弾丸が発射されて、土壁を貫いた。よし、この威力なら使えるな。後は何発も撃って不具合がおきるかなど様々な実験をしていけばいいだろう。



「確かに……これがあれば戦況は多少はましになるわね……でも、わかってるでしょうけど……」

「ああ、使うのは領民だ。だから彼らの意思を確認しないとな。俺は話すことを考えとくから、皆を集めておいてくれないか?」

「ええ……グレイス言っておくけどそんな顔をしなくても、大丈夫よ、みんなはきっとあなたについてきてくれると思うわ」




 だといいんだけどなぁ……俺が不安に思っていると彼女は元気づけるつもりか手を握ってきた。うおおおお、なにこれぇ……こいつこんなに優しかったっけ?



「少しは自分のやってきたことを信じなさいな」

「ありがとう……」



 彼女の温もりに元気をもらいながら、俺は人が集まるのを待つのだった。





「というわけで……先日のワイバーンの襲撃はこの領を狙った者による人為的な襲撃だという可能性が高い。これ以後もこの領は何者かに襲われる可能性が高いだろう」



 俺の言葉にざわざわと集めたメンバー、アグニやニールなどを含めた初期の領民たちがざわめく。そりゃあそうだよな、魔物に襲われたばかりで、しかも、これからもおなじような事が起きる可能性があるといったのだ。驚くのも無理はない。俺も勘弁してほしいっての。



「そこでだ。俺はこの街を守るために色々な武器を作ることにした。ヴィグナや、ガラテアでは手が足りないだろう。戦えそうなやつらには通常の仕事以外にも戦闘の訓練をしてもらう。ノエルのような非戦闘員にも看護などをお願いすることになるだろう。そこでだ……」



 俺の言葉に彼らは一語一句逃すまいと、集中している。彼らの視線を一身に受けながら俺は意を決して言葉を続ける。




「もしも、戦闘に巻き込まれたくないってやつがいたら遠慮なく言ってくれ。さすがにここで得た知識は内密にしてもらうが、多少の金と食糧を与えるから……」

「そりゃあないぜ、グレイス様!! ここはもう、俺達の村でもあるんだ。今更逃げねえよ。それに……居場所がなくて難民をやっていた俺達に手を差し伸べてくれたお礼もまだ終わってないんだ。なぁ、みんな」

「そうですよ、俺達に土地や農具までくれて、そのお礼をまだしていないんだ。非常時は俺だってクワで戦いますよ」

「それにね、農業に興味を持ってくれる領主なんて滅多にいないんだ。俺はあんたが一生懸命農作物を育ててるのを見るのも好きなんだよ、だからそんな寂しい事を言わないでください」

「そうですよ、ご主人様!! ただの平民にすぎない私に色々な知識を教えてくださったお礼をまだ返しておりません。それに……私にも発明を手伝わさせてくれるんですよね?」

「そうです、俺だってまだまだ剣の練習をしたいんだ。それに妹だって世話になっているし……ヴィグナさんにもご褒美……じゃなかった。色々教わっている最中なんですよ」

「みんな……」



 俺は予想外の言葉に何も言えなくなっていた。マジかよ……俺はただこの領を発展させるために領主をやっていただけなんだぜ……なのにさ……ここまで言ってもらえるなんてさ……



「だから言ったでしょう、みんなはね、あなたの事が……そして、この領が好きなのよ」

「そうだな……ヴィグナ……よし、わかった。これから戦闘訓練や看護なども含めたスケジュールを決める。あと、お前らはそう言ってくれたがここから出たいやつがいたら遠慮なく言え!!」

「おおーー、俺達の村は俺達が守るんだーーー!!」



 俺の言葉にみんなが歓声をかえす。予想以上にいいやつらだな……だからこそ守りたいと思う。それにはさっさと銃の量産化と、軍備の拡張と戦闘訓練をやらねば……



「マスター、ただいま帰りました。襲撃者の正体がわかりました」

「ガラテアか……よく帰ってきてくれた。話をきかせてくれるか?」



 俺達が騒いでいると、少し汚れた格好のガラテアが帰還した。襲撃者の正体か……俺は彼女の話を聞くことにする。



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