16.アズール商会
「失敗しただと……どういうことだ? 貴様は何十匹ものワイバーンを従えていったのだろう? 手を抜いたんじゃあるまいな!!」
「ふざけるな!! 手を抜くはずがないだろうが!! なんだあの女は!! 変な音と共に、俺のワイバーンが死んでいったんだぞ!! そんな強力なスキル持ちがいるならば事前に言え!!」
「いや、そんなものがいるはずは……」
冒険者の予想外の言葉に、私は何も言えなくなる。失敗したときの言い訳かと思いきや、彼の表情は必死で……なによりも慌てて逃げてきたのだろう。薄汚れた格好が彼がいかに危険な目にあったのかを表している。とてもではないが演技ではないのだろう。
だが、ヴィグナという女は確かに近衛騎士最強とは聞いていた。だが、遠距離攻撃も得意とするワイバーン相手にそんなに圧倒できるものなのだろうか? アスガルド領に行った難民たちにもそんな戦闘能力をもった人間はいなかったはずだ。となると……
「まさか、相手は未知の武器を持っているという事か……」
「なんだ、それを知っていたならばなぜ教えなかった!! おかげで俺のしもべたちは……」
「待て!! 私も知らなかったのだ。それよりもワイバーンがどう倒されたかを……」
「レイモンド様、大変です!! 来客です!!」
冒険者から少しでも情報を得ようとした時だった。乱暴に扉が開かれる。入ってきたのはうちの従業員である。今は会議の最中だから絶対邪魔をするなと言ってあるというのに……この男はクビだな。
「何をしている。今私は忙しいから誰も通すなといってあるだろう。来客なんぞ後回しに……」
「で、ですが……」
「おいおい、それはひどいんじゃないか? 俺と話したいってあんなに手紙をくれたじゃないか。だからせっかく時間を作ったというのに……それとせっかくだからお土産をもって挨拶をしに来たぞ」
従業員を押しのけてやってきたのは、その来訪者は考えうる限り最悪の男だった。なぜこのタイミングで……? まさかこいつがつけられたのか? だが、赤髪の男は小さく首を横に振る。それはそうだ。
だって、彼は自分との関係がばれないように遠回りをした上に何か所も潜伏をして、ここに帰ってきたのだから……彼を追跡できるとしら、この街中にネットワークを持っているか、凄まじい潜伏スキルをもっているか、探知能力をもっているかだ。だが、そんなのは人間技ではない。
レイモンドが必死に思考をめぐらしているうちに訪問者は、傲慢な笑みを浮かべながらその名を名乗る。
「以前そちらにお邪魔したときには会えなかったな。改めて名前を名乗ろう、俺の名前はグレイス=ヴァーミリオンだ。そして、隣にいるフードの大きな袋を持ったのがガラテア、彼女は恥ずかしがりやでね。こんな場だが暑苦しい格好をしているが許して欲しい。もう一人の女がヴィグナだ。俺の護衛をやってもらっている。忙しいとは言ったが、まさか第三王子である俺との話よりも、重要な会議なわけではあるまい?」
目の前の男グレイス=ヴァーミリオンはこちらが何かを言う前に正面の席にどすっと行儀悪く座る。そして、その隣にいるヴィグナという女はこちらが何か失礼な事をしたら斬るぞとばかりに不思議な形をした剣に手をかけている。
そして、私は絶望的な状況で彼と話すことになってしまったのだった。
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