17.レイモンドとグレイス
「それで……お話というのは何でしょうか?」
私は内心冷や汗を垂らしながら、グレイス=ヴァーミリオンとの会話を始める。王族特有の傲慢な笑みを浮かべた彼の横には噂のヴィグナとかいう女がいる。ここで、荒事で解決しようとすれば私を殺すという警告なのだろうか? 現に彼女の手には剣が握られており、殺気を放っている。隣のフードを被り大きな袋を持ったガラテアとかいう人物も不気味だ。顔も見れないため年齢すらわからないが、何らかのスキル持ちなのだろうか?
「なに、何度も手紙をもらったというのに、無下にして悪いと思っていたんだよ。たまたま近くに来たんでな、せっかくだから商談をしようと思ってな。手土産を持ってきたんだ。よかったらそちらで買い取ってくれないだろうか?」
「商談ですか。それはありがとうございます。一体何を持ってきてくださったのですか?」
予想外の言葉に私は営業スマイルをできただろうか? このタイミングで商談? てっきり、こちらが村を襲ったのがばれたのかと思ったが、今日の訪問は本当に偶然だったのだろうか?
私の警戒心が少し緩んだその時だった。
「ああ、そこの冒険者の人も是非とも見て欲しい。仕事柄魔物素材には見慣れているだろう? 質を見て欲しいんだ。ガラテア頼む」
「はい、マスター。お任せください」
その言葉と共にガラテアと呼ばれた少女? が抱えていた袋の中身が机に広げられ、それを見た私は絶句し、冒険者の表情が憤怒に染まる。
「グレイス様、これは……」
「ああ、うちの村を襲ったにもかかわらず何の成果もあげられなかった愚かなワイバーン達だよ。アズール商会は以前俺が訪れた時に、魔物の素材の相場を教えてくれたからな。こういう物の扱いは得意なんだろ? せっかくだからこれを買い取ってほしいんだ」
彼の言葉、そして、彼が並べた商品とやらを見て、私は目の前の男の恐ろしさを再認識する。そこにあるのはおそらく冒険者が使役して村を襲わせたであろうワイバーン達の皮だった。そして、彼は忘れていないぞとばかりに以前、火竜の鱗の素材を安く見積もったことまで言及してくる。
ああ、もう間違いないグレイス王子はこちらを完全に敵とみなしているという事だろう。
「は、はい、もちろん、言い値で引き取らせていただきます」
私が内心焦りながらもかろうじで返事をすると、彼は皮肉気な笑みを浮かべながら答える。
「いやいや、お宅の相場で構わないさ。それと冒険者の中には魔物を使役することのできるスキルを持っているやつもいるらしいな。なあ、赤髪のあんた、もしも、そいつを知っていたら、今度、魔物達をけしかけてきたら容赦なく殺すって伝えておいてくれないか?」
「貴様……わかった」
グレイスの言葉に赤髪の冒険者が席を立ち上がろうとすると同時に、ヴィグナの不思議な形をした剣が彼の喉元に突きつけられる。冒険者は悔しそうに顔を歪めながらグレイスに答える。
そんな風に慌てふためいている様子を見て、グレイス王子は楽しそうに嗤っていた。何がバカ王子だ。何とも性格が悪く厄介な男ではないか。
「要件は以上だ。もしも、また魔物が襲ってくるようだったら、そちらに相談するよ、まあ、魔物が襲ってこなければ、こちらとしては何もすることはないから安心しろ。意味はわかるよな」
そう言い残すと彼らは去っていった。完全にしてやられた……こちらが体勢を整える前に言いたいことを言って帰っていきやがった……
要するに、今度邪魔をすれば容赦はしないが、邪魔をしなければあちらからはなにもするつもりはないという事だろう。だが、今回の件で完全に彼らとまともな商談をできる可能性はなくなってしまった。かといってこのまま放置をすれば、我が商社の利益は減る一方だ。どのみち破滅である。
「レイモンド様」
「なんだ、私は今忙しいのだぞ!!」
「その……カイル王子から手紙が来たのですが……」
その一言に私は、海で遭難中に船を見つけた気分になる。ああ、そうだ、私にはカイル王子がいる、彼を頼ればきっとなんとかしてくれるはずだ……
「うおおおおお。緊張したぁぁぁぁぁ、なあ、俺変じゃなかった? きょどってなかった? ちゃんと傲慢そうにできてた?」
「ええ、大丈夫よ、いつも通り性根の腐ったクソ王子って感じで相手をイライラさせていたと思うわ」
「いつもってなんだ、俺は誰にでも優しい領主様だろうが!! お前こそいきなり剣を抜くんじゃねーよ。こっちが驚いたわ、思わず、むっちゃひきつった笑いをしちゃったじゃねえかよぉぉぉぉ!!」
アズール商会へ商談をしに行ったあとの馬車で緊張の糸が切れた俺が弱音を吐くと、ヴィグナがいつもの様に毒を吐く。
くっそ、このやりとりで落ち着いてしまう俺は調教されている気がするぞー。
「ですが……アズール商会の商人から恐怖と焦りを感じました。マスターの作戦は成功かと思われます」
「だよなー、ガラテアは本当に優秀だなぁ。敵の本拠地を突き止めてくれてありがとうな」
「えへへ、嬉しいです。マスター」
俺が彼女の頭を撫でると幸せそうな笑顔を浮かべる。やはり癒されるな!!
「でも、いいのかしら? あんな風に挑発しちゃって……あいつら全力で私たちの村を滅ぼしに来ないかしら?」
「今回の警告をしなければ、定期的にちょっかいを出してきそうだったからな……このまま相手がこっちをスルーしてくれるならよし、もしも、攻めてくるなら今度は徹底的に戦うしかないだろうな。ただ、あっちとしても戦力を集めるのには時間がかかるはずだ。エドワードさんにはアズール商会の動向をチェックしてもらうように頼んだし……こっちは鉱山の開発を進めるだけさ」
「まあ、それならいんだけど……でも、鉱山の開発って素人ができるものでもないでしょう? 確かに職人はいるけど、そんなにスムーズにいくものなのかしら?」
「手は打ってあるんだなー、これが。というわけでエドワードさんに相談しに行くぞ」
そうして、俺達はハリソン商会へと馬車を走らせるのだった。
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