13.守るための力
ガラテアを見送った後、俺はヴィグナと共に村を様子を見ながら歩いていると、巡回をしているニールに出会った。
「よかった……本当に被害はあまりなかったんだな」
「はい、ヴィグナさんがすごかったんですよ、ワイバーンを斬っては魔法で倒し、斬っては魔法で倒しての繰り返しで、けん制もしてくれたのでみんなが避難する時間もできましたし、俺達も軽い怪我ですんだんです」
俺が少し焼け焦げただけの建物を見て安堵の吐息を漏らすと、ニールが興奮した様子で言った。よほどすごかったのか身振り手振りでヴィグナの活躍を俺に報告してくる。
そんな彼を見ながらヴィグナはすました顔で一言。
「私は自分が全てすべきことやっただけよ、それにニールもみんなの避難先への誘導をちゃんとやってくれたらしいじゃないの。助かったわ」
「ひぇぇぇぇ、ヴィグナさんが褒めた? もしや、偽物じゃ……」
「どういう意味かしら……」
ヴィグナがにらみつけると、ニールは慌てて逃げ出した。だけど、その顔は少し嬉しそうだったのはなぜだろう。
二人のやりとりに俺が思わず笑みをこぼすと、彼女にすごい目で睨まれた。こわいんだけど、この女!! それよりもだ……やらなければならないことがある。俺は自分の胸元にある銃を握りしめる。
「ヴィグナ……俺はこれから父や兄達のように力に頼ることになることになるかもしれない……武器を……銃を、作ろうと思うんだ。その結果、もしも俺が力に溺れて暴走したらその時は止めてくれるか?」
「何を言っているのよ、何かを守るために武器を取るのと何かを奪うために武器を振るうのじゃ意味が違うでしょ。ボーマンだって、納得してくれると思うわ。でも、そうね、あなたがもしも間違った道へ進みそうになったら私が……ううん、私たちが止めてあげるから、安心しなさい」
「ありがとう、ヴィグナ……」
俺が彼女にお礼を伝えると、顔を真っ赤にしながらなぜか頭をこちらに差し出してくる。え、これはどういう意味だ? 頭をはたいたら多分ぶっ殺されるという事はわかる……
「その……私も頑張って村を守ったから、ガラテアやノエルみたいに頭を撫でてくれないかしら?」
「え……その……」
「言ったでしょう、私は変わるって……だから素直になろうと思って……」
俺は、少し震えながら彼女の頭を撫でる。ワイバーンと戦ったせいだろうか、少し土埃で汚れているけれど、この村のために戦ってくれた彼女の髪はそんな事が気にならないくらい、とても美しくて、触り心地が良かった。
「おーい、話は聞いたぞい。皆無事みたいじゃな……ん? どうしたんじゃ、変な恰好をして」
「いやなんでもないぞ、なあ、ヴィグナ」
「ええ、そうね。大体グレイスが変なのはいつもの事でしょう」
ヴィグナはボーマンの気配に気づいたのか、一瞬で俺から離れたせいでばれなかったようだ。だけどさ、いきなりだから俺が何もないとこを撫でているようで、すごい怪訝な顔をされているじゃん。
それはともかくだ……ボーマンが帰ってきたのはちょうどよかった。俺は意を決して、彼にお願いをしなければいけない。かつて武器を作るのが嫌だと言っていた彼に……
「なあ、ボーマン、お願いがあるんだ」
「なんじゃ、改まって? 鉱山の件か。アルミニウムなら何回か実験をすれば作れると思うぞい」
「いや、そうじゃないんだ……俺達の領地が何者かに襲われた。そして、それは多分偶然じゃない。誰かの悪意で襲われたんだ……だから俺達には力が必要になる。それで……」
「武器を作れというんじゃな……じゃが、わかっているのか? 異世界の知識は強力じゃが危険じゃ。お前さんの命令で作った武器で大量の死人がでるかもしれない。それをわかったうえで言っているんじゃな?」
「ちょっと!! そこまで言わなくても……」
「いいんだ。ヴィグナ」
ボーマンの言う事はもっともだ。俺の頭をよぎったけれどあえて口にしなかったことを、彼は厳しい顔をしてガンガン突っ込んでくる。
わかっているよ、そんなことは……だけど、ボーマンのいう通りになるかもしれないけれど、俺は……
「そんなことはわかっているさ、だけど……俺はそれでもこの村を……自分の領民をまもりたいんだ」
「ならいいぞい。ほら時間はないんじゃろ、さっさと工房にいくぞ。ヴィグナよ、多分徹夜になるから、ノエルに夜食を作っておくように言ってくれるかのう。あと、いちゃつくなら、みんながこないところでやったほうがいいぞい」
「なっ、あんたまさか覗いて……」
ボーマンの言葉にヴィグナがさっと顔を赤くする。そして、俺をみつめると優しい目で見つめた後にはさっさと工房の方へと行ってしまう。俺は慌てて彼を追いかける。
「そんなにあっさり決めていいのかよ、大体、武器を作るのはいやなんじゃ……」
「別にそんなことはいっておらんわ。武器だけをつくるのが嫌なんじゃよ。それに……誰かを守るために武器を作ることは大事じゃろが」
俺の言葉に何を言っているやらと苦笑しながらボーマンは答える。そんな彼を見て、彼が本当に嫌がっていないのだと安心をする。
そして、俺達は武器を作り始めるのだった。
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