12.グレイスの決意

「ヴィグナ……無事だったのか? ってかそれは……」



 俺は彼女に声をかけながらあたりを見回す。ワイバーンは小型とはいえドラゴンである。集団で襲ってきたら魔法が使えるとはいえ接近戦がメインのヴィグナだけでは荷が重かったはずだ。

 それに、彼女はいつも近衛騎士にのみ渡されるミスリルの剣を誇りにしていたのだ。そんな彼女が別の武器を使うなんて信じられなかった。



「大丈夫よ、襲ってきたワイバーンはみんな倒したわ。すぐに倒したから領民にも被害はでていないはずよ。それにしても、異世界の知識っていうのはすごいわね……これは魔法銃剣(ガンソード)というそうよ、ボーマンがあなたの銃を参考に作ったらしいわ」

「よかった……みんな無事なんだな……それにしてもボーマンが……か……」



 俺は彼女の言葉におうむ返しをしながら魔法銃剣とやらに触れる。とりあえず、被害が出ていないのは良かった。少し安心しながら、『世界図書館』を使用する。

----------------------------------------------------------------------------------------------

『魔法銃剣』 純度の高いミスリルと鉄の合金で作られた銃剣。銃の先にミスリル製の刃が取り付けられている。接近戦はもちろんの事、魔法の込められたミスリル製の弾丸を放つことにより、遠距離の敵にも、弾丸によるダメージと着弾した際に弾丸に込められた魔法のダメージを両方とも与えることができるボーマンが異世界の銃を参考にして作った武器。 

 弾丸を放つ際には、火の魔法を使用しているのと弾丸の中身に魔法を込めるため、魔法を使える人間にしか使いこなせない 

----------------------------------------------------------------------------------------------


 なんだこれぇぇぇぇぇ。ボーマンのやつ俺の銃を見て、こちらの技術を応用して、似て非なる武器を完成させたというのか……ミスリル合金の時といいすごすぎないか?



「彼が私のために作ってくれたのよ、最近護衛として役に立ってなかったから悔しかったんだけど、それを見透かされちゃっていたみたいね。全く余計な事ばっかりするんだから……」


 

 そう言いながら彼女は少し気恥しそうに言った。だけど、俺はずっと引っかかっていたことを問う。



「でも……ヴィグナは近衛騎士としてもらったミスリルの剣を持っている事に誇りを持っていたんじゃないのか? その……新しい武器を使うのに抵抗はなかったのか?」

「ええ、そうね。でも、サラに言われて気づいたのよ、私はここに来てもう、近衛騎士じゃなくなったの。ただのヴィグナであり、あなたの仲間になったのよ。それに……近衛騎士としての力じゃみんなを守れなかった。あなたが第三王子ではなく、ソウズィの後継者として、このアスガルドを開拓しているのに、私だけいつまでも、昔の事にこだわって足踏みなんかしてられないでしょう。だから、私も変わらなきゃなって思ったのよ。それに、そのおかげであなたに頼まれたようにこの村を守れたわ」

「ヴィグナ……」

「私はもう、あなただけじゃなくて、この村を守れるようになるわ。この子と一緒にね」



 そう言うと彼女は愛おしそうに、魔法銃剣に触れる。その表情は今朝別れた時とは違い、柔らかい表情だった。彼女は俺が思った以上に色々と悩んでいたのだ。当たり前だ。城から出て俺達の環境は変わった。

 俺がここを開拓するために色々考えていたように、彼女も色々と何ができるかを、どうすればいいのかを考えていたのだろう。

 だったら俺だって変わらなきゃいけない。この村を守るために……心の中でまだ抵抗があったがアレの作成に手を付ける必要があるのかもしれない。



「お話し中申し訳ありません、マスター。人の敵意を感知致しました。もしかしたら、今回のワイバーンの襲撃は人為的な出来事かもしれません。今なら間に合います。捕えて殺しますか?」

「いや、それはだめだよ、ガラテア」

「ですが……」



 俺は珍しく不満そうなガラテアに首を振る。いつか来るだろうと思っていたことがおきてしまったのだ。目立てば敵が増えるとは思っていた。いつかこういう風に何者かに襲われるだろうとは思っていた。


 まだ相手が誰なのかはわからない。もしかしたらアズール商会かもしれない、俺の手に入れた技術に目を付けた兄たちや父かもしれない。

 今回はヴィグナのおかげで大丈夫だった。だけど次はもっと強力な敵が来るかもしれない。だから、俺も覚悟を決める必要がある。



「相手にばれないように後をつけることはできるか? おそらく、そいつは使い捨ての駒だろう。だったら、泳がせて黒幕を見つけよう。話はそれからだ」

「はい、マスター!! 了解いたしました。ご安心を……この程度の敵になら後をつけてもばれません!!」



 そう言うとガラテアは即座に守護者の鎖を乗り越えてどこかへ走って行った。そして、その後ろ姿を見つめながら俺は考える。どこと戦いになるかわからないが、ガラテアやヴィグナのような強力な仲間はいるが、単純な戦力では俺達が劣っているだろう。

 こっちにあるアドバンテージは異世界の知識だ。俺は自分の懐にあるだれでも使える武器である銃と、ヴィグナが手にしている『魔法銃剣』を見る。



 結局のところこの世は食うか食われるかだ。知識があっても力がなければ強者に喰われる。だけど、知識で弱い力を強くすることはできるのだ。俺が銃という武器を手に入れ、魔物を倒したように……

 

 だったら俺がやる事は一つだろう。心の中で忌避していたアレの作成を……武器の作成をするのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る