11.新しい決意

「私だってわかってるのよ……ガラテアが今回の護衛にはふさわしいって言うことくらい……なのにあんなこと言ってグレイス達を困らせて……自分が嫌になるわね……」

「まあ、でも、これまではずっとあなたがグレイスの護衛をしていたんでしょう? だったらモヤモヤするのもわかるわよ。それに……それくらいじゃ彼はあなたの事を嫌いにはならないと思うわよ」

「それはわかっているのだけど……でも、そんな自分が許せないのよ……」



 私が今朝の自分のやりとりで自己嫌悪に陥って村を見回りしていた所、サラさんにそんな顔してるくらいならうちでご飯でも食べてきなさいと言われて、彼女の食堂で遅いランチを取っていた。

 実は彼女には私のグレイスへの気持ちがばれてしまっているようなので、時々こういう悩みを聞いてもらっているのだ。



「まあ……自分が好きな男がゴーレムのガラテアちゃんとはいえ他の女を頼りにするのはちょっとモヤモヤするわよね……」

「別に好きってだけじゃないの……何て言うのかしら、守りたいというか、一緒にいたいというか、色々な感情がごっちゃになってるのよ。後、ガラテアはゴーレムじゃなくて、ロボットよ」

「それを好きって言うのよ。ロボットってよくわからないけど、あんたはガラテアちゃんより深い関係になっているんでしょ。見てたわよ、初めてグレイスと会った時に酔っぱらった彼と一緒に店から帰っていたでしょう? その後は何をしてたのかしら?」

「え……あ……それは……」



 サラがにやにやと意地の悪い笑みを浮かべて聞いてくる。おそらくエドワードさんのパーティーの後の話だろう。私はてっきり彼が襲われるのかもと思って店までおっかけていって、結局勘違いだったと気づき、どうしようかと外で困惑していたときの話だ。その時も彼女に見られていたと思うと恥ずかしい……



「手を繋いで、その後は彼の部屋でちょっと喋って帰ったんだけど、なんかいつもと雰囲気が違ってすごいドキドキしたわ」

「え……それだけなの? キスとかは……?」

「何を言っているの? そういうのは恋人とやるものでしょう。私とあいつは、そんな関係じゃないもの」

「あの男は……あれだけ煽ったのに予想以上のヘタレね……でもこっちも問題か……」

「それに……あいつはなんだかんだ王族だし、私はただの近衛騎士ですもの。はなから結ばれるなんて思っていないわ、私は彼を守れればいいの」



 わたしは彼女の言葉に答えながら自分に言い聞かせるように愛用の剣を握る。これはボーマンに打ち直してもらった、私の誇りである近衛騎士のみに許されたミスリルの剣だ。

 そう、私はあくまで近衛騎士で彼はみそっかすとはいえ王族なのだ。だから、このままでいいのだ。近衛騎士として彼を守れれば……ああ、でも、その役目もガラテアが優先されているのよね……そう思うとまたネガティブになってしまいそうになる。



「ふぅん……なるほどね」



 なぜだろう、私の言葉でそれまで頭を抱えていたサラさんが大きくため息をついた。



「あなたは近衛騎士っていう立場にこだわりすぎじゃないの? だって、グレイスを追いかけてきた時点であなたはもう、近衛騎士じゃないし、彼からすればあなたは部下と言うよりも仲間って感じがするわよ。あなたは気づいていないでしょうけど、グレイスがあなたやボーマンを特別に信用しているのは、はたから見ればバカでもわかるわよ。そして、それはここで仲間になったガラテアちゃんにも入れないほど深い絆があるように見えるわ。そして、彼にもっとも近い異性はあなたよ。もっと自信をもっても良いと思うのだけれど……」

「でも私は……」



 私は元々はただの孤児である。子供の頃はわからなかったが、近衛騎士だったからこそ彼の近くにいれたのだ。その役目を失った私に彼の傍にいる資格はあるだろうか……? 大体、私を近衛騎士にしてくれたのは彼の助力で……私は彼の力になるために近衛騎士になったというのに……



「だいたい、こんなとこにきちゃったら王族だかなんだか関係ないでしょ。だって、私達領民はみんながグレイスの事を王族ではなくて、このアスガルド領の領主として見ているわよ。だったらあなただって、近衛騎士じゃなくて、彼の仲間のヴィグナでいいじゃないの。それに、領主なんだから奥さんの二人や三人くらいいてもおかしくないんだから、あなたも自分の気持ちに素直になればいいんじゃないの?」

「それは……」



 さすがに飛躍しすぎだと思う。何だかんだ彼が王族だという事は良くも悪くも一生彼につきまとうと思うし……だけど、確かに私は近衛騎士という立場を気にしすぎていたのかもしれない……思い返してみれば、彼は私を近衛騎士というよりも、仲間だと思って接してくれているというのに……

 

 だったら、彼の護衛の座は譲っても、彼が最も信頼をしてくれる仲間と言う座を譲る必要はないのだ。そう思うと不思議と気が楽になった。



「ヴィグナさん、大変です。魔物です。ワイバーンの大群がやってきます!! 守護者の鎖を乗り越えてやってきそうです」



 そんな事を考えていると、慌てた様子のニールが乱暴に扉をあけてやってきた。確かに空を飛べるワイバーンに守護者の鎖は効果はないだろう。

 そして、ゴブリンならともかく、小型とはいえドラゴンであるワイバーンの相手は最近訓練をはじめたばかりの彼等には荷が重い。


 だったら私が行くしかない。だってグレイスはこの私にこの村を頼むと言って鉱山へと行ったのだから。



「ニール……この剣を貸してあげるわ。これなら当てればワイバーンの鱗だって切れるはずよ。みんなを避難させて!! ワイバーンは私がやるわ」

「え、でもヴィグナさん、これは近衛騎士の証だって……誇りなんじゃ……」

「もういいのよ、ニール。あと、サラ、ありがとう、おかげで吹っ切れたわ」

「別にいいけど、絶対帰ってきなさいよ」



 彼女の言葉に私は笑顔でうなづく。そして、ボーマンからもらった新しい武器を手にする。本当は使おうか迷っていたんだけどね……

 だけどサラのおかげで覚悟は決まった。それによく考えればこの武器は彼が手に入れたソウズィの遺物からヒントを得たものだ。だったらミスリルの剣よりも、今の私にはふさわしいかもしれない。だって、今の私は、近衛騎士ではなく、アスガルド領のヴィグナなのだから……










「うおおおおおおおお、速すぎるぅぅぅぅぅ!! 落ちるぅぅぅぅ!!」

「マスタースピードを落としますか?」

「いや、限界までとばしてくれ!!」

「了解です、マスター!!」 



 ガラテアに答えながらら必死に彼女に捕まる。みんな無事でいてくれ……何者がおそってきたのだろう? 最近は目立ちすぎたから、確かに襲撃される可能性はあった。正直警戒心が甘かったと自己嫌悪に陥りそうになる。



「マスター上を!!」

「え?」



 ガラテアの声に反応をして、上を向くとフラフラになったワイバーンが村の外へと向かっていき、なにかが当たったかと思うと、体内から爆発して落下した。



「ちょっと待って、なにあれ……こわ!!」

「とりあえず乗り越えますね、マスター」



 そうして村へ入ると、建物が所々焼け焦げているが、それ以上にワイバーンの死骸が目立つ。ワイバーンはそこそこ強い魔物で五匹もいれば小さい村だったら壊滅するレベルである。

 そして、空をとべる上に鱗が硬いため近衛騎士でも苦戦するのだが……何がおきているんだ?



「ずいぶん早かったわね。心配しないで、村も領民も何とか無事よ」

「ヴィグナ……無事だったのか? ってそれは……」



 戦いのあとだろうか、少し薄汚れてはいるがほぼ無傷のヴィグナがそこにいた。そして、その手にあるのはいつものミスリル剣ではなく、銃と剣が一体化したそんな不思議な武器を手にしていた。

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