第8話 かつて村だったもの

「なんかピクニックみたいでたのしいですね、マスター」

「ああ、お弁当代わりに茹でた馬鈴薯も持ってきたからな。お腹が空いたら食べよう」

「あんたらね……一応魔物も出るんだから油断するんじゃないわよ……」



 翌日、俺はヴィグナ、メイド服のガラテアと一緒に屋敷周辺を探索しに来ていた。ボーマンも誘ったのだが、炉に夢中らしく、話かけても無視をされたので置いてきた。別に俺がハーレムパーティーを組んだわけではない。いやまじで!!


 ガラテアが道をある程度切り開いてくれたので、獣道を進まなくてよくなったこともあり、道のりは快適である。かつては、屋敷から他の街への道があった所らしく一から開拓するよりは楽らしいが、大きな石や育った木をひっくり返したり、どかしたりするのは彼女にしかできない芸当である。



「では……お忍びの領主と献身的なロボメイド、ツンデレ剣士での冒険というのはどうでしょうか?」

「あー、なんか物語の始まりみたいでいいな。まあ、俺はこのまま異世界の知識を使って成り上がるからな。間違ってはいない。いつか歴史に残すであろうグレイス=ヴァーミリオンの栄光のはじまりだな」

「はいはい、調子に乗らないの。でもまあ、そういうのも悪くないわね。ところでツンデレ……ってなんなのよ」

「え……あー、その……」



 ヴィグナが怪訝な顔をして俺の耳元でささやく。多分凶暴って意味だと思うんだが、そんなこと言ったらぶちぎれそうである。



「強くて綺麗って意味らしいぞ」

「え……ふーん、じゃあ、あんたも私がツンデレだと思うの?」

「ああ、ヴィグナはツンデレだよ、俺も間違いなくそう思う」

「そう……なんか恥ずかしいわね、でも、ありがとう」



 そう言うと彼女は本当に嬉しそうに笑う。ふははは、本当は凶暴だという意味とも知らずに愚かな女だ。

 素直に笑顔を浮かべるヴィグナを見ながら思う。こいつ本当に顔は良いんだよなぁ……いつもこんな感じだったら……でも、そんなんヴィグナじゃねえな。てか、なんで俺の胸はこんなに鼓動が激しくなってんだよ……



「マスターからドキドキを感知しました。青春ですね」

「別にドキドキなんてしてないっての!! それより、これは何の木だろ?」



 俺は誤魔化すようにしてガラテアが道を作るときに引っこ抜いた、木々に触れて『世界図書館』を発動する。



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ゴムの木 環境の変化に強い木。切ると樹液を採取することができる。固まった樹液はボールなどになり子供が遊ぶ。

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「ゴムの木かぁ……微妙だなぁ。もっと珍しい木なら家具の材料とかにも使えるんだが……」

「まあ、適当に切って薪にすればいいんじゃないかしら。あとは松明かしらね」

「まあ、木材ならあって困るもんでもないしな。ってここは……」



 高級家具に使用されているような材木ならば家具の材料として高額で売れるのだが、そうはうまくいかないらしい。

 俺達が喋りながら歩いていると、いくつかの廃屋が密集している場所へとたどり着いた。そこにある建物はソウズィの屋敷より、ボロボロで大半は屋根や壁なども何者かに破壊されており、廃墟というのにふさわしい。

 だけどさ、これってさ。昔ここに住んでいた人たちの家だよな……ガラテアの方を見ると、彼女は無表情にその家々を見ている。



「ガラテア辛いんだったらここは探索しないでも……」

「いえ、マスター……私はここを歩きたいです。私の記憶とは違いますが、見ておきたいのです。さあ、案内を致しますね」



 そう言って先を歩くガラテアに俺達はついていく。ヴィグナは何とも言えない顔をしていたが、きっと俺も同じような顔をしていたのだろう。




 俺達はガラテアの後をついていく。やはりというか……いくつかの廃屋を巡ったがひどいものだった。魔物の他に、野盗か何かが入ったのだろう、タンスやツボなどほとんど漁られたり壊されたりしており、めぼしいものはほとんどなかった。

 そして、俺達は比較的まともな状態の廃屋の中で座っていた。

 


「なんでここまで荒らされているのよ……」

「ああ、ソウズィが召喚したものは使えなくても『ソウズィの遺物』と言われ、コレクター達によって、高値で取引をされているからな……それ目当てかもな」


 

 憤然とした顔で怒っているヴィグナに俺は答える。今ならわかるが彼が召喚したものは異世界の品物だ。この世界では絶対手に入らないレアアイテムである。例え使う事は出来ずともコレクターからすれば喉から手が出るほど欲しいだろう。

 そして、需要があれば供給が発生する。金になるならば、廃墟を漁ることくらいするやつようなやつは腐るほどいるだろう。

 ソウズィの屋敷が比較的無事だったのはゴーレムの噂とガラテアが倒した古火竜が近くにいたおかげもあるかもしれない。



「ひどいものですね……それにしても、人が住まなくなった街というのは寂しいです……昔は父と私が顔出すと、みんな作業をやめて話しかけたりしてくれたんですよ」

「ガラテア……」



 そう言って、街を眺めるガラテアはどう思っているんだろうか? 目が覚めたら自分の暮らしていた街が廃墟となっており、荒らされていたのだ。彼女の気持ちがわかるなんて口が裂けても言えない。



 俺はいてもたってもいられずに、何か彼女の思い出にあるものでもないかと廃屋を探す。食器棚だったのだろう、砕けたコップの残骸などの中になぜか錆びていないコップがあるのに気づいて、俺はそれを掴む。

 それは不思議な光沢の金属でできていた。鉄とも違う気がする。そのコップには壮年の男と、ガラテアによく似た少女が彫られている。



「なあ、ガラテアこれって……」



 俺が声を上げた瞬間だった。



『異世界の知識に触れました。知識の一部を解禁致します』



 脳内に『世界図書館』の声が響くと同時に俺の中で新しい本棚が開かれる感覚がした。ああ、この金属も異世界の知識だったのか……

 

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アルミニウム合金のコップ


アルミニウムを主成分とする合金であり、柔らかいという弱点を様々な物と合金にすることによって強度を増したコップ

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 アルミニウム? 合金? なんだそれは……俺がわからない単語が並ぶ。ボーマンならわかるのだろうか?



『おめでとうございます。異世界の知識に触れたため異界理解度があがりました。』



 そんな困惑をしている俺をよそに『世界図書館』が俺のレベルが上がったことを報告してくる。これで……ガラテアの気持ちはわからなくとも、少し異世界の事がわかるようになるのだろうか?


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領地情報

 領民:3名(ガラテア追加)

 

異界理解度 レベル3

(触れたものがどのようなものか、またどのように扱うか、及び、原材料に触れた際に低レベルならばどのように使用できるかを理解できる)

 


技術:異世界の鋳鉄技術

  :銃の存在認知→銃の基礎的な構造理解

  :ロボットの存在認知

  :肥料に関しての知識

NEW :合金の存在認知

NEW :アルミニウムに関しての知識


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