第7話 肥料
「いや、これマジなんなんなの……馬鈴薯ってこんなに早く育つの?」
俺はクワを片手によく育った畑を見て思わず呟いた。いや、育ちすぎじゃない? 初めての農作業という事もあり色々と苦労もありつつ、異世界の知識を使って作物を育てたのだが、想像以上の成果に驚きを隠せない。
俺は異界の知識を使った馬鈴薯が生えている畑と、従来の方法で育てた隣にある何も生えていない畑を見比べてながら、肥料というものの効果の高さに驚愕していた。異世界では神に祈るのではなく、肥料とかいうものを使い育てるらしいので試してみたが効果は予想以上だったのだ。
これって農業の常識を変えちゃわない? 大丈夫? そんな事を思っていると、魔力を使いすぎたのだろう、少し疲労気味のヴィグナがやってきた。
「つっかれたー、グレイス壁造り終わったわよー」
「ああ、お疲れヴィグナ、よかったらちょっと魔法使ってくれない? これを蒸して食べたいんだよ、お前にもやるからさ」
「あんたね……私、魔法で土壁を造って疲れてるんだけど……てか、人が必死に覚えた魔法を何だと思ってんのよ……まあ、やるけど……」
「ちなみに手加減はしなくていいぞ、ボーマンが楽しそうに作ってたからな、さっき『世界図書館』で見てみたが火竜のブレスくらいなら耐えるぞ、その鍋」
「鍋に何を求めてんのよ……あのおっさん頭おかしいんじゃないの?」
やるんかい、と突っ込みながら彼女に鍋を渡すとぶつぶつと文句をとばかりに鍋に魔法で作り出した水を入れ、火の魔術を使って鍋を温め始めた。城にいた時はよく厨房から食料をパクって一緒に食べてたなぁと懐かしい気持ちになる。
そして、俺はさっそく収穫した馬鈴薯を鍋にいれる。ヴィグナの魔術で温められた水はすぐに沸騰し始める。
「それで土壁はどうだ? 魔物とかの侵入は防げそうか?」
「うーん、ないよりはましって感じかしら……私が作った魔術の壁なら獣タイプの魔物なら何とかなるけど、ゴブリンみたいな少し頭の回る亜人タイプ相手だと時間稼ぎにしかならないわね……」
そう言うと彼女は自分が作った俺と同じくらいの身長の高さのある土壁を指さした。確かに心もとないが、何もなかったときに比べればだいぶマシである。これ以上の対策は今後考えよう。
「本来だったら高台を作って見張りがいればいいんだがな……」
「人数が少なすぎるのよね……私やガラテアもずっとは監視できないし……それであんたが試してるってやつの首尾はどうなのよ、なんだっけ」
「ああ、肥料な、順調だぞ」
「そうそうそれそれ!! というかそもそも肥料ってなんなのよ?」
怪訝な顔をしているヴィグナに、俺は大げさなため息をついてから説明してやることにする。
「はっはっはー、仕方ないなぁ。愚かで脳筋なお前に説明してやろう」
「あ? 潰すわよ」
「調子にのってすいませんでしたヴィグナ様!! 肥料っていうのはですね、植物を生育させるための栄養分として人間が施すものなんです、人間にも栄養が必要なように植物にも栄養が必要なので、それを私たちが土にばらまいてサポートするんですよ」
「ふーん、そうなの。それで、効果はどうなのよ?」
こわ!! 主を見る目じゃねえよ、獲物を見るような目だったぞ、こいつ。思わず敬語になってしまった。俺一応王族なんだけど。ていうかなにを潰すんですかね……
てか、リアクション薄いな、絶対わかってないだろう、こいつ。俺はきょとんとした顔で頷いているヴィグナに内心つっこむ。
「効果か……百聞は一見に如かずだな、さっそく、これを食ってみるぞ」
俺は喋っている間に茹でられた馬鈴薯を鍋から取り出して、皮をむく。馬鈴薯からあふれ出る湯気がなんとも食欲をそそる。
「なにこれ、うま!!」
「ずるい!! 私ももらうわね。あ、本当だ。美味しい……しかも、疲れも回復するような……」
俺が思わず目を見開いて、感想を漏らすとヴィグナもつられたように手に取って同じような感想を漏らす。いや、マジでうまいんだって、ホクホクした食感と、かすかな甘みが口の中を支配する。
「いや、本当に美味しいわね。どうしたのよ、これ……まさか城を出るときに王族専用のを盗んだんじゃ……」
「いや、ちげえよ!! 確かにそんくらいうまいけど……肥料を使ったらここの畑で採れたんだよ、」
「は? 何言ってんのよ、まだ、二日しかたってないのよ、作物が育つはず……嘘でしょ」
俺の言葉でようやく畑で育っている馬鈴薯たちの存在に気づいたらしい。彼女は絶句していた。やっぱり普通はこんなペースで作物ってできないよな……
「これが肥料の力なの……? すごいじゃない!! 異世界ではこんな風に植物が育つのね。これなら飢餓の心配はなさそうね」
「いや……どうなんだろうな……」
多分異世界でもこうはならないんだよなぁ……『世界図書館』で調べた時も肥料をあたえると植物に栄養がいきわたり立派に育つとしか書いてなかったんだよな。こんなに早く育ち味が良くなるものなのだろうか? となると原因は肥料に使ったものの影響か……
「それで肥料って何をあげたの?」
「ガラテアが倒した古火竜の骨……」
「は? え、魔物の骨……? それって大丈夫なの……? 呪われない? 私、食べちゃったじゃないのよ……」
「大丈夫なはずだが……」
ヴィグナが驚くのも無理はないだろう。基本的に魔物の骨や鱗などは武器や鎧の素材に使われるくらいだからな。言い方はあれだが死体の一部だ。あまりいい印象はないだろう。
それにしても、実は魔物の糞とかも肥料になるんだぜって言ったらどう思うんだろう。「なんてもの食べさせるのよ」ってぶっ殺されそうである。
手にある馬鈴薯を涙目で見ているヴィグナに申し訳なくなり、俺は手にある馬鈴薯に『世界図書館』を使用する。
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馬鈴薯 古火竜の魔力が籠っているため、通常の物よりも育ちが良く、味もよく、魔力の回復効果もある。
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え、なにこれ……魔力も回復すんの? なにそれこわ!! 馬鈴薯の苗自体は市場で買ったものだ。やはり肥料の効果だろう。他の魔物だったら効果も変わるのだろうか? 試す価値はあるな。
「あー、なんか魔力が回復するってさ。毒はないから安心してくれ」
「は? 魔力の回復? 普通だったら、あのくっそまずいマジックポーションを使わないと回復なんかできないのよ!?」
「ああ、でも『世界図書館』で調べたから間違いないと思うんだが……」
俺の言葉に彼女は信じられないという顔をして、こちらを凝視する。そして、目をつぶり何やらぶつぶつとつぶやくと、彼女は理解できないとばかりに頭を抱える。
「本当だ……回復しているわ……なんかもう驚きつかれたわ……まあ、グレイスが大丈夫っていうなら大丈夫なんでしょうね……」
そう言うと考えるのが馬鹿らしくなったのか、馬鈴薯を食べ始めたので俺も手を付ける。いや、本当に美味いな……これは予想外の副産物だ。
世界図書館によると異世界には魔法や魔物がいないようだ。正直どうやって暮らしているか想像もつかないが、その分、色々な面で異世界の方が発展していると考えていいだろう。
この世界と異世界の技術を組み合わせれば今回の肥料のように予想外な相乗効果も起きるかもしれない。
「マスター、道の開拓が終わりました!! これで荷物を運ぶのが楽になりますよ」
「おお、よくやった、ガラテア」
ちょうどいいタイミングでやってきた土で汚れたメイド服のガラテアに俺は笑顔で答える。彼女にはかつて道があった所にある障害物の撤去を頼んでいたのだ。これで獣道よりはマシになったはずだ。
「マスターから喜びを感知しました。私も嬉しいです。それで……もしよかったらご褒美を頂けますか? その……少し汚れているのでもし、お嫌でしたら後でも構いませんが……」
「ああ、もちろん!! ガラテアの髪って綺麗だよな、触っていて気持ちいいし、むしろこっちがご褒美だよ」
「うふふ、マスターはお口がお上手ですね。プレイボーイってやつですね」
俺は嬉しそうに微笑んでいるガラテアの頭を撫でる。また、よくわからん単語が出てきた。まあ、会話の脈絡からして褒め言葉なのだろう。などと思っていると、また視線を感じた。
「どうしたんだ?」
「ねえ……私もその……壁を作るの頑張ったんだけど……」
そう言うとヴィグナはなぜか少しそっぽ向いて言った。ああ、ガラテアだけご褒美をもらっているのが羨ましいのか……でも、今はあげれるものないんだよな……俺は自分の手を眺めて察する。
「ああ、馬鈴薯だったらもう一個食べていいぞ、まだまだあるしな」
「……」
俺の一言が気に入らなかったのか、なぜか唇を尖らせて睨んできた。こわ!! 昔襲ってきた暗殺者より殺気を感じるんだが!? さっき美味そうに食ってたじゃん。馬鈴薯好きだろ?
「ふん!! もらうわね」
「なんだあいつ……」
そう言うとヴィグナは乱暴に馬鈴薯を奪ってどこかへ行ってしまった。俺はなんか変な事をいってしまったのだろうか?
「ヴィグナ様からツンデレを感知致しました。可愛らしいですね。それにしてもマスターはラブコメ鈍感主人公ですね」
「ラブコメ……?」
ガラテアがそんな俺達を見てなにやらクスクスと笑いながら言った。ラブコメっていうのはよくわからないが、主人公なのだ。領主である俺にふさわしい言葉なのだろう。
この馬鈴薯を食べながら思う。このまま、異界理解度を上げていけば、もっとすごい事ができるのではないだろうか? それには異世界の品物が必要だ。
「そういやさ、ソウズィの残したものって屋敷にはもうないのかな、ちょっと見てみたいなぁって思って……」
「申し訳ありません、父が病に伏せた時にそれらの物は破棄及び、領民たちにあげてしまったため、私と地下室にあったものしか残されていないのです……」
「そうか……まあ、しかたないよな」
「あ、ですが、領民たちが住んでいた村にはまだ何かあるかもしれません、よかったら案内をしましょうか?」
「本当か助かる!! ガラテアありがとう」
「マスターからワクワクを感知致しました。私も嬉しいです。昔は本当に素敵な村だったんですよ」
そう言うと彼女は俺に満面の笑みを浮かべる。まあ、ソウズィの遺物が見つかるかは置いておくとして、現状を把握しておきたいし、ここらへんを探索してみよう。将来領民が増えたらそこを使う事になるだろうしな。
というわけで明日はここら辺の探索を行うことになったのだった。
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領地情報
領民:3名(ガラテア追加)
異界理解度 レベル2
(触れたものがどのようなものか、またどのように扱うか、及び、原材料に触れた際に低レベルならばどのように使用できるかを理解できる)
技術:異世界の鋳鉄技術
:銃の存在認知
:ロボットの存在認知
NEW :肥料に関しての知識
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