第9話 グレイスの宣言
「ちょっと、グレイス!?」
「マスターどうしました?」
「ああ、大丈夫だ。それよりも、これはソウズィの遺物じゃないか?」
一気に情報が入ってきた事によりふらついた俺をヴィグナが支えてくれた。俺は心配をしてくれている二人に問題ないと伝えながら、ガラテアに拾ったコップを渡す。
「これは……懐かしいですね、父が私の誕生日を記念して、村の人々に配ったものです……まだ残っていたんですね。改めてここを見て寂しい気持ちになりましたが、少し元気が出てきました。ありがとうございます。マスター」
そういうとガラテアは、まるで大切な思い出そのものであるかのようにそのコップを抱きしめる。ああ、よかった……彼女の思い出は全てが無くなったわけではなかったんだな……
それにしてもアルミニウムや合金とはなんなのだろう、俺がダメ元で『世界図書館』に聞いてみると意外な事に返事が返ってきた。
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アルミニウム 鉄よりも軽くて強くさびにくい金属。
合金 純金属に1種類以上の他元素を混ぜた金属材料の事をさす。
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くっそ、流石に作り方まではわからないか……まだ異界理解度が足りないようだ。だが、存在を知ることはできた。きっといつか作れるようになるだろう。
鉄よりも錆びにくいアルミニウムを量産できれば、俺達が寿命で死んだあとも、こんな風に思い出の品物とかを作って、それを見ればガラテアも少しは寂しくなくなるんじゃないかななんて思ったんだよな……
「よかったわね、そこに書いてあるのってガラテアとお父さんなのかしら」
「はい、その通りです。懐かしいですね……また見れるとは思いませんでした。ありがとうございます。思い出の品を見つけてくれてありがとうございました。マスター」
喜んでいるガラテアにヴィグナもつられて笑みをこぼしながら声をかけている。なんだかんだこいつは優しいんだよな。
金属系に関してはボーマンに相談すれば何かしら進むだろう。
それよりもだ。ガラテアの先ほどの寂しそうな顔がどうしても目に焼き付いていた。出会って間もないがガラテアにはお世話になっているし、ソウズィにも託されたのだ。何かできることはないだろうか。例えば、彼女にもう寂しい思いをさせはしないと安心させてあげたい。
そんな事を思っていると外から何かの鳴き声が聞こえてきた。俺達は会話を中断し外へと出る。
「グレイス気を付けて、あれはアーマドアルマジロよ!!」
魔物を見たヴィグナが俺に注意を促した。その魔物は俺の背丈の半分くらいの全身を鱗で覆ったアルマジロの様な魔物『アーマドアルマジロ』である。そういや、野盗の他に魔物の痕跡もあったな。
そこそこ厄介な魔物だが、一般の兵士ならばともかく、ガラテアやヴィグナの敵ではない。彼女たちならばすぐに対処できるだろう。ヴィグナは俺をかばいながら剣を構えている。
だけど、それじゃあ、だめなんだよな。
「二人とも手を出すな!! 俺がやる」
「は? あんたね、アーマドアルマジロは防御力が高くて鋭い爪をもっている厄介な魔物なのよ!?」
「そうです、マスター!! それにマスターからは恐怖と緊張を感じます!!」
俺の言葉に反発する二人、だが俺は二人の制止を止めてアーマードアルマジロの正面に立つ。
ガラテアは俺に対して「きっとみんなが笑顔なにぎやかな街を作ってくれると思っています」と言ったのだ。きっとここの村はみんなが笑顔でにぎやかな村だったんだろう。だったら、俺にはそれだけの事をできるとガラテアに証明して安心させてあげないとな。
「わかっている!! だが、これは俺の命令だ。いい事を教えてやるよ。ガラテア、俺は病弱な上に、剣もロクに使えないんだ、新兵にだってぼこられる」
「そんなこと知ってるわよ、あんたは剣の素振りしている最中に半泣きになるくらいのクソザコじゃないの!!」
俺の言葉になぜかヴィグナが答える。いや、本当のことなんだけどクソザコはいいすぎじゃない?
「そんなクソザコだけどさ、ソウズィが残した遺品、ボーマンの技術力、ヴィグナや、ガラテア達のサポート、そして俺の天才的頭脳と『世界図書館』があればなんだってできるんだ。例えば……クソザコの俺が矢も通じない、一般兵士が泣いて逃げ出すような目の前の強敵を倒すことだってな」
そう言いながら俺は懐から銃を取り出し、そのままアーマドアルマジロの頭部を狙い撃つ。轟音と共に俺の撃った弾丸はアーマードアルマジロの硬い鱗を貫いてそのまま脳漿をぶちまけた。うわ、グロいな……。
「だから、ガラテアよ、楽しみにしているがいい!! 俺はこの廃墟を再びみんなが笑顔なにぎやかな村にしてみせると!! そう、俺の……グレイス=ヴァーミリオンの栄光はもう始まっているのだ!!」
「マスター……」
「グレイス……あんたってばすぐにかっこつけるんだから……でも、そういうところは嫌いじゃないわ」
俺への言葉に二人から敬意を感じる気がする。決まって良かったぁぁぁぁ、これで外したり、弾が弾かれたりしてたら、羞恥で死ぬところだったぜ。実は初めての魔物との戦いでびびりまくっていたことは内緒である。
そうして、魔物の遺体を片した俺達は探索を終えて、一旦館へと戻る事にした。その帰り道にガラテアが耳元でヴィグナにばれないようにこっそり囁く。
「魔物と戦った時にマスターから、強い緊張と恐怖を感知してました。今後は無理をしないでくださいね。めっですよ!!」
「あ、はい……心配させてすいません」
ガラテアには普通にばれてますね……まあ、感情を見抜けるもんな……俺が気まずそう視線を逸らすとと、彼女は俺が逸らした先にひょっこりと顔を出して満面の笑みを浮かべて言った。
「でも……すごいかっこよかったです。私はマスターが作る街が今から楽しみです」
「え……ああ、そうか……フハハハハ、このグレイス=ヴァーミリオンに任せるがいい!!」
「うるさい!! 大声あげたら魔物がくるでしょ。ばかなの?」
大声で笑ったらむっちゃ怒られた。言い方ぁ!! 俺仮にも王子なんですけど? ここで一番偉いんですけど……でも、まあ、こんな風な関係の方が城よりも気楽でいいなと思う。
そして、帰宅した俺が合金に関してボーマンに話すと彼はまた、目を輝かして地下室にこもってしまった。余談だが、実験の鬼と化したボーマンがコップを解体しようとして、無表情になったガラテアに延々と説教をされているのは怖かった……
「坊主できたぞーー」
「なにがだよ……俺は昨日探索をしたから眠いんだが……」
くっそ疲れているのに起こされて、一番に目に入るのが髭面のドワーフってなんだよ、ここはメイド服を着た美少女が起こしてくれるとこじゃない?
ボーマンは寝不足なのか目の下にクマを作りながら、金属の針金を見せてきた。顔色は悪いが不気味なくらい目が爛々としてる。あ、これって実験に集中モードじゃん。絶対寝てないよな。
「ボーマンもいい年なんだからあんまり無理するなよ。あんたが死んだら……その悲しむ奴だっているんだからさ。それで何ができたんだ?」
「これじゃよ。とりあえず扱いなれているミスリルと鉄を混ぜてみたんじゃ。これが合金というやつじゃろ? 面白いのう、これは可能性の獣じゃな。いずれアルミニウムとやらも作ってやるから楽しみにしてるんじゃぞ」
「は? はあぁぁぁぁぁーー? ちょっと待てって!! 合金は世界図書館でも作り方は教えてくれなかったんだぞ!!」
予想外過ぎる一言に一気に俺の目が覚める。俺はひったくるようにボーマンから金属の針金を奪い取り『世界図書館』を発動する。
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『ミスリル合金のハリガネ 鉄とミスリルを混ぜ合わせた合金。魔力伝導率が高いが高価なミスリルを鉄を混ぜ合わせることによって、加工しやすく、安価に作成できるようになった。ボーマンが発明した。
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待て待て待て、世界図書館にボーマンの名前が載ったんだが!? え、発明? 何言ってんの?
というか、世界図書館でも、まだ作成の仕方はわからなかったのに、この人は自力で合金の作り方に到達したのかよ!? マジで化け物すぎないか?
「ほっほっほ、何を驚いておるんじゃ、合金の現物が目の前にあるんじゃ、どうやればいいかは大体予想付くわい」
「まさか溶かしたりは……」
「せんよ、ガラテアの嬢ちゃんに比喩でなく叩き殺されそうじゃしな」
「全く、ボーマンはすごいな……」
豪快に笑った後にボーマンは少し照れ臭そうに言った。
「ヴィグナから聞いたぞ、お前さんはガラテアの嬢ちゃんを元気づけるためにかっこつけたそうじゃな。そして、儂の技術力を信じているといったらしいのう。儂に実験の環境を与えると約束し、それを果たしてくれた。だったら、儂も期待に応えるべきじゃろ。お前さんが作る街を楽しみにしているのはガラテアだけじゃないんじゃよ。儂は儂にできる事をする。だからおぬしも全力をつくすんじゃぞ」
「ボーマン……ああ、まかせてくれ」
俺はボーマンの言葉に素直にうなづく。ガラテアだけじゃなくて、ボーマンにも約束をしてしまった。これはもう……逃げ出せないな……まあ、はなから逃げるつもりはないけどな。
そうして俺は合金の技術を手に入れたのだった。
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領地情報
領民:3名
異界理解度 レベル3
(触れたものがどのようなものか、またどのように扱うか、及び、原材料に触れた際に低レベルならばどのように使用できるかを理解できる)
技術:異世界の鋳鉄技術
:銃の存在認知→銃の基礎的な構造理解
:ロボットの存在認知
:肥料に関しての知識
:アルミニウムに関しての知識
NEW :合金の作り方
NEW :ミスリル合金
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