48.グレイスの残すもの
翌朝、俺はヴィグナと共に村はずれの平地へとやってきた。ガラテアは色々とかたずけをしたり、村の女性に捕まって色々と料理に関して聞かれているようだ。流石はロボット、昨日は夜通し働いていたというのに元気である。
そして、アインとギムリは村の周囲の見回りをしている。かつては安全だったかもしれないが、森に鉱山にしかいない魔物がいたのだ。警戒しておくに越したことはないだろう。一緒に飲んでいたニールは二日酔いでぶっ倒れていると言うのに流石は酒に強いドワーフである。それに故郷に戻ってきたのだ。二人も色々と考えたいことがあるのだろう。
そして、俺達はというとクワと肥料、馬鈴薯を持って畑づくりの準備である。
「まさか、こんなところまできて農業をするなんてね……」
「懐かしいだろ? 俺達のアスガルドは馬鈴薯から始まったからな」
「そうね……じゃあ……」
彼女はにやりと笑ってから、楽しそうな目をして、馬鈴薯を指さして俺に問う。
「この馬鈴薯っていう植物は何なのかしら」
「はっはっはー、仕方ないなぁ。愚かで脳筋なお前に説明してやろう」
「あ? 潰すわよ。なーんちゃって」
昔と同じやり取りをして俺達は笑っていると、アインから伝言をきいた村長がやってきた。一緒に娘のミランダもいる。なぜか緊張をしているのようだが、どうしたのだろうか?
「村長の娘のミランダと申します。アイン様と父からお話は聞きました。助けてくださった上に食料までわけてくださりありがとうございます」
「ああ、無事でよかったです、もう歩いても大丈夫なのですか?」
「はい、おかげさまで、元気になりました。昨日いただいた馬鈴薯はすごいですね……なぜか体力も回復しました」
「あれは特別な馬鈴薯ですからね。普通はそうはいかないんですよ」
まるで神の奇跡でも見つめるような熱意で俺を見つめるミランダに苦笑する。本当に肥料と馬鈴薯はやばいな……
ちなみに今回のは体力自慢のオークを肥料にしたため、回復力が通常のものよりも多いのである。ひそかに様々な肥料で作物を作っているのがさっそく役にたったようだ。
コホンと咳ばらいをして、緊張した顔つきの村長が口を開く。
「グレイス様の援助で、村にも久々に活気が戻り皆に笑顔が戻りました。それで……用と言うのはなんでしょうか?」
「ああ。村長さんに見て欲しいものがありまして……昨日の馬鈴薯でしたがいかがでしたか? 見慣れない物だとは思いますが、味は悪くなかったでしょう?」
「はい、お腹も膨れて味も良く村人たちも大変満足しておりました。馬鈴薯というものは素晴らしいですね。お話というのは馬鈴薯に関してでしょうか?」
「はい……もしよかったらですが、馬鈴薯をこちらでも植えさせてもらえないかなと思いまして……見た所、この村には食料が足りていない様子ですので、その援助を出来たらと思っているのです」
「お言葉は嬉しいのですが……その……我が村では人手が足りていないのと……次の季節を越せるかもわからない状況でして……」
村長が言いづらそうに言葉を濁す。要するに新しい事を試している余裕すらないという事なのだろう。だか、俺だってそんな事は知っている。
「それならご安心を。この馬鈴薯に、我が領土で作成した肥料を使えば、明日にでも収穫できますよ。ほら、この通り!!」
「「は……?」」
村長とミランダの驚愕の声が響く。俺が昨日の夜にヴィグナと一緒に植えた馬鈴薯を見せるとすでに芽が生えていた。久々の農業は楽しかったぜ。やはり俺特製のクワは優秀である。無茶着茶耕やしやすかった!!
「おそらく明日には収穫できるでしょう。そして、この馬鈴薯を食べると不思議と一時的にですが力が上がります」
「はぁぁぁぁぁーー!!??」
「まあそうなるわよね……」
村長が信じられないとばかりに大声を上げる。その反応を見て予想していたかのようにヴィグナと、アイン苦笑する。
ミランダはというと、畑をじっくりと見つめ……
「本当だ。お父さん見てよ、もう芽が出てるよ!! これでもう、無茶な狩りに行かなくてもすみます!! ありがとうございます!!」
声を震わせながら感動の声を上げた。
彼女は実際馬鈴薯の効果を実感しているからか順応が早いのだろう。そして、オークの肥料はドワーフたちと相性がいいはずだ。失われた体力が戻ればドワーフたちはその力をちゃんと発揮して農作業や様々な作業がスムーズに行くはずである。
「調理方法なども今頃ガラテアが村の方々に教えているでしょう。それを参考にしてください」
「何から何までありがとうございます。アスガルドの発明品の噂は聞いていましたが、まさかこれほどとは……馬鈴薯というのはすごいのですね!!」
「まあ、馬鈴薯というよりも肥料の方がすごいんですが……」
興奮した様子の村長に突込みをいれる。ミランダと一緒に地面に生えている芽を見て、テンションの上がっていた村長だったが、俺の顔を見ると申し訳なさそうにして口を開いた。
「ここまでしていただいて言いにくいのですが……我が村にはこの恩にお返しをできるだけのものが無いのです」
「ああ、この馬鈴薯と、肥料は兵士たちに酒を振舞ってくださったお礼です。今後も欲しい場合はお金を頂くかもしれませんが、それも村がもっと豊かになってからで構いません。ああ、でもそうですね……可能ならば移住を希望するドワーフがいたら女性でも構いませんのでアスガルドを紹介していただけると嬉しいです」
「ちなみに、勘違いさせそうだから言っておくけど、こいつが目的としているのはドワーフの加工技術が目的だから安心しなさい」
俺の言葉をすかさずヴィグナが補足する。ああ、そうかノエルの時と同じだ……勘違いさせてしまうな……ドワーフの女性はその体系から子供っぽい女性がタイプの人間に受けがいいからな……
そういう考えがないからつい思考からのがしてしまうのだ。
「そんなものでいいのですか……あなたは本当に救世主の様だ」
「ドウェルと我が国は同盟国ですからね、気にしないでください」
村長の安堵の吐息に俺はにこりと笑いながら言った。ああ、そうか……さっき緊張していたのはここで俺が馬鈴薯の費用などを要求することを警戒していたのか……
ちなみに、村長たちには悪いが俺だって100%の善意で動いているわけではない。貧困状況にある今だからこそドウェルは馬鈴薯を広げるチャンスだと思ったのだ。この村から馬鈴薯と肥料の評判が広まれば、ドウェルの他の街でもアスガルドと商売をしたがる連中が増えるだろう。
そして……それをきっかけにドワーフたちにもアスガルドの興味を持ってもらい移住してもらえれば、加工技術は上がり、銃や蒸気自動車……そして、まだ見ぬ新発明の作成も格段に進むだろう。
「あんた悪い顔をしているわよ……」
「おっと、失礼」
ヴィグナの言葉で正気に戻る。つい考え事に没頭してしまったようだ。
「帰りもまたよりますので何か問題があったら教えてください、それでは肥料の使い方を説明いたしますね……」
「はい、ありがとうございます。その時はまた宴の準備をしておきます!!」
「グレイス様、本当にありがとうございます。私の命ばかりでなく村の危機まで救っていただいて……」
そうして、俺達は村長とミランダに感謝の言葉を受け取りながら、馬鈴薯と肥料の扱い方を教える。久々の農業はやはり楽しかった。
「ありがとうございましたーー」
午後になり俺達が出発をすると村人総出で送ってくれた。それだけ馬鈴薯が役に立ったという事だろう。感謝させるのは嬉しいなと思っていると、蒸気自動車の窓をノックされる。
外にはアインと珍しく真面目な顔をしたギムリがいた。
「どうしたんだ、二人とも」
「グレイス様にお話があってきました。今は大丈夫でしょうか?」
「できればあまり大人数には聞かれたくないんじゃが……」
「ああ、構わないぞ。ヴィグナも聞いているがかまわないか?」
「はい、もちろんです」
「失礼するぞい」
わざわざ蒸気自動車にやってくるという事は他に聞かれたくはないはなしなのだろうか? 扉を開けて二人を招き入れる。
「グレイス様……私のお願いを聞いてはいただけないでしょうか?」
「もちろん、領民の話なら聞くぞ。さすがになんでもというのは無理だが……」
「いえ……あなたの国の臨時の領民ではなく、ドウェルの元貴族としてとしてお話があるのです」
どこか思い詰めた表情のアインの言葉にギムリもうなづく。一体なんなのだろうか?
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