47.新料理

 俺は帰ってきたガラテアに頼んで、蒸気自動車に運んであった巨大な鍋を持ってきてもらった。そして、「私の魔法は戦闘用なんだけど……」とぼやくヴィグナに頼んで、魔法で水を入れて、火をたく。中身はもちろん、馬鈴薯である。半分にカットされたものを蒸しているのだ。



「今日は宿をお借りするお礼として、我がアスガルドの特産品を振舞わせてもらうぞ!!」

「「わーーー!!」」」

「たくさんありますから、順番で並んでくださいね。マスター、大盛況ですよ!!」



 俺の言葉と共に歓声が響き渡る。戦力が足りないと泣きついてくるくらいだ。足りない戦力を補うために、農民たちを兵士などにすれば労働力が減り、作物の採取量も減っているだろうという予想をして用意してきて正解だった。

 そして、何人かが茹でたての馬鈴薯を手に取って困惑気味に眺めている。まあ、見慣れないとなんか不気味だよな。



「はい、できたわよ」

「ああ、ありがとう。これが我が領土で採れている馬鈴薯というものだ。見慣れないだろうが、味は確かなので君達も試してほしい」



 俺はヴィグナから受け取った湯気の出ている馬鈴薯を口にする。塩がかかったホクホクの馬鈴薯が口のの中に広がり、俺の空腹を満たしていき思わずつぶやく。



「ああ……うまい……」



 俺の表情につられたのか、村の連中も次々と口にしはじめて言った。



「本当だ、すごい美味い!!」

「しかも、腹持ちもよさそうだ。なんだこれは!!」

「ああー、幸せだなー。旦那にもたべさせてやりたいなー」


 

 嬉しそうな声が溢れるのを見て、俺は胸が熱くなるのを感じた。そりゃさ、打算だってあるけど、誰かが嬉しそうな顔をしているのを見るのは嫌な気はしないんだよ。



「みんな喜んでくれて、よかったわね。それにしてもあんたも幸せそうな顔をしているわね」

「ああ、初めてアスガルドで、馬鈴薯を作った時の事を思い出していたんだ。俺も最初はこんな感じだったなって」

「そう……あんたが彼らの笑顔を作り出したのよ。誇りなさいな」



 ヴィグナが俺の横で微笑む。そういえば最初に馬鈴薯を食べた時もこいつが一緒にいてくれたんだよなって思うと胸が熱くなる。



「ありがとう、ヴィグナ」

「何がよ? それより、ガラテアが面白いものを作っているわよ。何かノエルと一緒に考えていた料理らしいわ」

「え? 何それ聞いてないんだが!?」



 気になって彼女の元へ行くと油の敷かれた容器の中に網目状にした細切りにした馬鈴薯が大量に入っているのが見えた。そして、色がつきはじめたものを彼女がさっと引き上げると、香ばしい匂いがあたりに充満する。



「これは……?」

「あ、マスターにヴィグナ様、ちょうどいいところにいらっしゃいましたね。召し上がり下さい」



 そう言うと彼女は揚げたての馬鈴薯を細く切ったものにさっと塩をふりかけて、俺に渡してきた。どうやら油であげた馬鈴薯らしい。

 見慣れない料理だが、馬鈴薯だし、何よりもガラテアが俺に作ってくれたのだ。まずいという事はないだろうと口にすると、カリカリの食感と共に塩が良いアクセントになっている。



「なにこれ、うまいな。むっちゃ酒に合いそう」

「ありがとうございます。これはフライドポテトという料理で父もよくつまみに食べていたものを、ノエルと共に今風に改良いたしました。ドワーフはお酒が好きですので、こちらの方が喜ばれるかなと思いまして」



 これがソウズィの大好物か……手でつまめて食べやすく、作るのもそこまで難しくはなさそうだ。ガラテアが懐かしそうにしているのは、かつてのマスターとの食事を取ったときを思い出しているのかもしれない。

 異世界ではメジャーな料理なのだろうか? 俺は『世界図書館』を使用する。


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フライドポテト

ジャガイモを食べやすい大きさに切って、油で揚げた料理である。大型チェーン店などでも扱われており、メジャーな食べ物。

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 チェーン店というのはわからないが、異世界のソウズィの故郷の味なのだろう。色々な料理があるものだ。そして、ガラテアにとっては大事なものだと言うのもわかった。



「いいのか……? これはソウズィとの思い出の品なんだろ?」

「はい、マスターの狙いはわかっていますし、マスターにも是非ともこの味を知ってほしくて……そして、最初に食べてくださったのがマスターなら、私は満足です」



 にっこりと笑うガラテアの頭を撫でると彼女は嬉しそうにはにかんだ。彼女も俺の作戦のために色々と考えて役に立とうと頑張ってくれるんだなというのと、大切なソウズィとの思い出の品を作ってくれたのが嬉しくて、最初のフライドポテトをじっくりと味わってからみんなに向けて声を張り上げる。



「こっちのフライドポテトは酒に合うぞ!! たっぷりあるから遠慮く……うおおおおおおお!!?」



 酒という単語に反応したのか、単純に腹がへっているのかわからないが、凄まじい数のドワーフがこちらに押し寄せてくる。ヴィグナが避難させてくれなかったらもみくちゃになっていただろう。

 そうして、村は小規模ながら宴となった。人とドワーフが一緒になって騒いでいるのを見ているとボーマンを思い出してしまうな……



「グレイス様、飲んでらっしゃいますか?」

「アインか……ギムリは……相変わらず騒いでるみたいだな……」



 相当酔ったらしく、ニールと一緒に裸おどりをしているのが見え、俺は苦笑する。あ、ヴィグナがすごい目で睨んで……剣を持って逃げる二人をおっかけはじめた。俺の彼女怖すぎない?



「グレイス様はすごいですね……みんなの沈んだ表情を笑顔に変えてくれました。人とドワーフがあんな風に一緒に笑って……まるで、昔のドゥエルを見ているかのようです」

「そんなことないだろ。この村は元々一緒に仲良くしていたんだろ?」

「昔はそうでしたが、最近はそうでもないんですよ。城の人間とドワーフほどではありませんが、ここも大食いのドワーフは肩身がせまかったそうです」

「そうなのか……」



 だから、狩りに行ったのはミランダ以外はみんなドワーフだったのか……少しでも食料を増やそうと必死だったのだろう。

 だったら、俺の……アスガルドの力が役に立つはずだ。きっと人間もドワーフも本当は争いたくないに決まっているのだから。アインの眩しいものを……輝かしい過去を見るような目をみて思う。



「なあ、アイン、明日の朝、村長を呼んできてくれないか?」

「構いませんが……まさか、食料をわけるつもりですか? ありがたいですが、それは一時的なものでしか……」

「違うよ、俺はここと貿易をしようと思うんだ。アスガルドの作物はすごいんだぜ。それを見せようと思ってさ」



 俺がにやりと笑うとアインは怪訝な顔をしながらうなづいた。

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