46.グレイスの提案

 俺とヴィグナが村長の家にはいると客間に通された。客間とはいえ質素な机といくつかの鉱石が飾られているだけの部屋である。 

 確かにあまり豊かそうには見えないな。椅子には村長と、アインが先に座っており、俺が入室するとアインが村長に紹介をしてくれる。



「村長、こちらがグレイス様です」

「これはこれは、遠路はるばるご苦労様です。まずは我が娘を助けてくださりありがとうございます。止めたのですが、村人のために食糧不足を解決すると狩りに行ってしまい……こんなことになってしまって……」

「いえいえ、たまたま通りかかっただけですので、お気になさらず、娘さんだけでもまにあってよかったです」


 

 村長は大きくため息をついた。あの馬車にいたのはミランダ以外は壮年や老人ばかりだった。ふつうだったら狩りをするはずの若い男がいないという事は……鉱山アリとの戦いに駆り出されているのだろう。そして、そんな彼女たちが狩りにいかねばならないほど切羽詰まっていたのだ。




「事情はアイン様から聞きました。幸い空き家はたくさんあるので、ゆっくりとお休みください。ただ、大変申し訳ないのですが……食料などの援助は難しいのです。そこはご容赦を……」

「ええ、もちろんです。我々はあなたがたを助けに来たのです。無茶な要求をして苦しめてしまったら本末転倒ですからね」



 俺の答えに露骨に安堵の吐息を漏らす村長。それにしてもここの村長は人間なんだなと思いつつ、話をどう進めようか悩む。 

 俺的にはせっかくドゥエルの遠征に来たのだ。ただ助けるだけ無くアスガルドの発展につながる何かを残したいんだよな。



「ご理解いただきありがとうございます。代わりと行っては何ですが、武具の整備や酒の提供などはお任せください。女や老人ばかりですが、ドワーフもいますので、必ずやお役に立てると思います」



 食料は無いのに酒はあるんかいと内心つっ込みつつ、やはり、彼らは鍛冶のスキルには自信があるのだなと再認識する。



「そうですか、ありがとうございます。少し村を見させていただきましたが、確かに若い男性が少ないですね。農作業などは大変でしょう?」

「はい、おっしゃる通りです……女性とはいえ、力自慢のドワーフがいるのですが、やはり空腹には勝てず本来の力も出せない状況でして……」

「ドワーフは力持ちですが、その分よく食べますからね……満足に食料が無い状態ではあまり力が入らないんでしょう。師匠も良く愚痴っていました」



 ため息をつく村長の言葉を補足するようにアインが口をはさむ。思った通りだ。ドワーフはよく飲んでよく食べるからな。それはボーマンだけではないようだ。でも、飯を食べないと力が出ないってのは初めて聞いたな。

 だが……それならば俺が持ってきたものもより役に立つ。



「なるほど……それは大変ですね。食料は生命線ですからね。それでは、俺が我がアスガルド領から持ってきたものをプレゼントいたしましょう」

「グレイス……あんた、まさか……」



 俺が隠し持っていた馬鈴薯を掲げると、ヴィグナが信じられないとばかりに呻くのを横目に俺は満面の笑みで答える。

 他国に援軍を求めているくらいだからな。戦力だけではなく、貧困状態にある可能性も考えていたのだ。そして、いきなり、援助ましょうか? と言っても警戒されてしまうだろう。だから、わざわざ相手が困っていると言質を取ってから提案したのだ。



「馬鈴薯にクワと肥料は持ってきた。今からデモンストレーションで料理をはじめるぞーー!!」

「蒸気自動車に何か積んでいると思ったら……遠征先で何を考えているのよ……」



 あきれる彼女をよそに俺は意気揚々と村長に外で宴をする事を願い出るのだった。もちろん、ただ騒ぎたいだけではない。これもまたアスガルドが発展する方法のひとつなのだ。

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