45.
「それにしても遠征続きでちょっと疲れるわね……ようやく村に着いた……」
「ああ、まさか魔物の群れから助けた少女がここの村長の娘とはな……」
村に着いた俺達は話をつけてくるといって、少女を連れて行ったアイン達からの連絡を待って、ヴィグナと待機していた。ちなみにガラテアは周囲に魔物がいないか探索をしてもらっている。
蒸気自動車の窓から覗くと、広がっているのは巨大な鉱山の麓にある集落である。その規模は街というよりも村に近い。少し前のアスガルドを思い出して、何とも懐かしい気持ちになる。
管理されていないのだろう、雑草だらけの畑を前にヴィグナがそんなことを眉を顰める。
「それにしても……思った以上に状況は大変そうね……」
「ああ、そうだな……畑一部が荒れ地になっているぜ……人が足りないのかもな。だからこそチャンスなんだよな……それにしても、よくわかったな」
管理されていないのだろう、雑草だらけの畑を前にヴィグナがそんなことをいった。近衛騎士だった彼女が詳しくなったもんだ。俺が意外そうな声を上げると、彼女はなぜか顔を赤らめた。
「そりゃあ、誰かさんが最初は馬鈴薯馬鈴薯ってうるさかったから嫌でも覚えたのよ」
「ふーん、そんなときから俺の事が気になっていたのかよ」
「当たり前でしょ、そうでもなきゃ辺境にまでついて行かないわよ」
「え? ああ、ありがとう……」
予想外の反撃に俺の方まで赤面してしまう。こいつ二人っきりだと本当にデレるな!! 可愛い!! そんなことを考えていると、アインがこちらへとやってくる。
「グレイス様、今夜はこの村で休んでくれとの事でした。また、村長があなたにお礼をしたいとのことですが、いかがしますか?」
「ああ、そうか、ありがとう。すぐに向かう。ヴィグナ、念のために護衛を頼む」
「ええ、任せなさい」
野宿は避けたいので、元々宿泊場所を借りるつもりだったのだが、ある程度話をまとめてくれたのだろう。もしかしたら、元々俺達が援軍としてくる話も行き渡っていたのかもしれない。
俺達は村の迷惑にならないところに馬車と蒸気自動車を止め、皆に休憩を命じた。
村に入ると、本当に人とドワーフが一緒に暮らしているようだ。彼らは俺達を物珍しそうに見つめている。特にドワーフは蒸気自動車に興味津々のようだ。遠巻きに見つめている。
そして何より……ドワーフの女性って……
「どうせ、おっぱいでかいなとか思っているんでしょう? いやらしい」
「いや、仕方ないだろ!! じゃなかった。そんな風な事を思っていないって!!」
俺はヴィグナの言葉に冷や汗を垂らしながら反論をする。いやでもさあ、仕方なくない? 俺は低身長のわりに不釣り合いなくらい大きな胸のドワーフ女子達を見て思わずぼやく。
「おい、お前ら!! 酒場へ行くぞ。ここならドワーフ仕込みの火酒を飲めるぞい」
「本当ですか!! 是非とも行きたいです!!」
活き活きとしたギムリの声と共にニール達、遠征兵がついていく。まあ、彼らも遠征続きでだいぶ気をはっていただろうからな。
てか、火酒って火をつけると燃えるほど強い酒の事なんだがこいつら大丈夫だろうか? てか、なんて酒で火がつくんだよ。頭おかしいだろ……ボーマンいわくこの強さがたまらないとかいっていたな……
「お前ら、あんまり無理をするなよー、二日酔いにはならないようにな」
「もちろんです。良かったら後でグレイス様も来てください。なんかドワーフの女の子がお酌をしてくれるお店も……やっべ……」
凄まじい殺気と共にニールを睨みつけているヴィグナに気づいたらしくさっさと逃げだしていった。おい、お前この空気どうするんだよ……
「いくわよ、グレイス。アインが待っているでしょう?」
「ああ、そうだな……」
「私だって別に小さくないんだけど……」
「ん? 何か言った?」
「なんでもないわ」
ちょっと不機嫌そうなヴィグナに護衛されながら村長の家を目指す。歩いてみると何というか村の雰囲気は重い気がする。すれ違う人々に生気がないというか……
そんな風に思っていると、血色の悪い10歳くらいのドワーフの少女に話しかけられた。
「なあ……お兄さん、兵士さんかー? よかったら、何か恵んで欲しいぞー?」
「ああ、お腹が空いているのか? これを食べるといい」
俺は止めようとしたヴィグナを制止して、ノエルとノアが作ってくれたクッキーを渡す。子供は甘いものが好きだからな。
そして、すごい勢いで口をつける少女が食べ終わるのを待ってから話しかける。
「この村は食べるものに困っているのかな?」
「昔はそうでもなかったんだけどなー、今は男手が鉱山に取られて色々と大変なんだよなー」
「そうか……大変だったな。だけど、すぐに良くなると思うよ」
俺は少女を励まして村長の家へと向かう。ドゥエルを助けるって言うのは別に、戦いだけとか限らないんだよな。アレもたくさん持ってきた甲斐があるというものだ。
俺は周りにばれないようににやりと笑うのだった。
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