幕間 ドゥエルの魔法使い
「炎神の息吹よ、矢となりて我が敵を射抜け!!」
詠唱と共に火の矢が目の前の鉱山アリを焼き尽くす。ミスリルの特質を持っているため、魔法に対する耐性はあるようだが、優れた魔法使いである彼の相手ではなかった。
追ってきた最後の鉱山アリを倒して金色の髪に仮面をつけた片腕のかけた青年は大きく息をついた。
「ふー、こんなものかな? 無事に彼ら炭鉱夫たちは避難はさせたかい? ルビー」
「おおー、カインの魔法はすごいな!! 私が見た人間の魔法で一番すごいぞ」
鉱山アリが息絶えるのを確認してから隠れていた130CMほどの小柄な少女がひょっこりと岩場から顔を出した。
低身長に不釣り合いなほど大きい胸に、なぜかメイド服を着た少女は目を輝かせながら、カインとよばれた青年に駆け寄った。その様子に苦笑しながら青年は魔法を放つ。
「別に魔法がすごくても、戦いが強い訳じゃないよ……現に僕は……いや、なんでもない。水の女神よ、その祝福にて、立ちふさがりし者への裁きを!!」
青年の手から水の塊が産まれて鉱山アリの死体を包み込んで冷やす。そして、その死体を少女が軽々と持ち上げた。その様子に彼は思わず感嘆の吐息を漏らす。
鉱山アリの身体は鉱物でできているため、大体80KGくらいはあるのだ。
「相変わらずすごい力だね、ドワーフっていうのは……僕が両手があった時も鉱山アリなんて持ち上げられないよ」
僕の言葉にルビーはふふんと得意げな顔をして、鉱山アリをボールの様に投げる。
「これが私達の特技だからな。でも、カインも十分すごいから自信持て!! ほら、お前はいつも元気がないから、お前が好きそうな服を着てきてやったんだぞ!!」
「いや、その服はご主人様に奉仕をするメイドって言う職業の服であって作業着じゃないんだけど……でも、ありがとう。気持ちは受け取っておくよ」
「ああ、お前は恩人だからな!! お前の魔法が無ければ、私たちの集落は危なかったんだ。私たちは感謝しているんだ。だから、お前も元気出せー♪」
ルビーは楽しそうに鉱山アリを担いで僕の横を歩く。こんな雰囲気だが、実際の状況はかなり絶望的である。彼が倒したのは本当に一部に過ぎない。奥には何百匹もの鉱山アリが生息しているのだ。そいつらが一気にせめてきたらとおもうとぞっとする。
「だけど……今までは良く持ちこたえてきたね……こいつらは強力な魔物だろう?」
「昔は定期的に討伐してたからそんなに数がいなかったからなーー。戦争でドワーフも人も人手がとられてなー。いつの間にか数が増えちゃったんだ」
「そうか……ごめん……」
ルビーの言葉に青年は唇を噛む。ドウェルの戦争相手と言えば察しがつく。そして、その後も王都にドワーフを呼んだり、彼らが本来使うであろうミスリルを奪ったのだ。それがこの結果というわけだ。
「なんでお前があやまるーー? あれか、帰ったら酒を飲むかー? ドワーフは元気なくなったら酒を飲んでたのしむんだ。いいやつをおごるぞ」
「君達の酒は僕にはちょっと強すぎるんだよ」
「それに隣の国からも援軍が来るぞー!! だから平気平気!! 景気づけに飲むぞー!!」
へこんだ青年を慰めるようにルビーが酒盛りに誘ってくれるのを嬉しく思いながら心の中は複雑だった。だってその青年が彼らを苦しめているようなものなのだから……
しかも、鉱山アリは思ったよりも強力な魔物だ……生半可な援軍では意味をなさないだろう。
「誰が援軍に来るかわからないけどさ……中途半端な数や人間じゃあ、何の足しにもならないぜ……」
一瞬ゲオルグと……そして、グレイスの顔を思い出すが、やはり心が沈む。浮足立っているルビーが余計へこむような結果にならなければいいんだけどね……
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