42.いざドウェルへ

 遠征の準備を終えて、俺達はドウェルへとむけて蒸気自動車と馬車を走らせていた。先頭はアイン達に道案内役として馬車で先導してもらっている。

 蒸気自動車はまだまだ量産ができていないからな。それに、なんだかんだこういうものを操縦もセンスがいるので、運転できるものは限られている。今のところは俺の乗っているのを運転しているヴィグナと、小型タイプの運転をできるようになったニールくらいか……

 今度イースさんに頼んでマニュアルでもつくってもらうのもいいかもしれない。そんなことを思っているとガラテアが俺の乗っている蒸気自動車の方へとやってきた。



「マスター、補給部隊が合流したようです。彼等も、すぐに出発できるとの事でした」

「ああ、そうか……ありがとう。レメク様には感謝だな。それで……あいつの動向はどうだ?」



 俺はカシウス家からの援助の品を運んできた衛兵たちが、盗賊や魔物に襲われずに、無事に合流できたことを聞いてほっと一息つく。これで俺達を含めた衛兵たち30人前後での遠征の旅の準備が完全に整った。


 今回の遠征に当たって、ノア経由でレメクさんに力を借りたのだ。馬鈴薯や武器などはアスガルドでいくらでもつくれるが馬や、干し肉、酒や水などは二階連続の遠征でちょっと危なかったのと……あいつに、新兵器の情報が流れるのを避けたかったのだ。

 俺は何食わぬ顔でスパイをしている衛兵の顔を思い出す。



「何かを不振がっている様子はありませんね。合流してから新しい武器の事を知っても、手を打つことは難しいでしょうし、問題はないと思います」

「ああ……レメクさんが手を貸してくれて本当に助かった。手紙の通り、一週間時間を稼いでくれたからな……」

「そうですね、彼はもちろんのこと、他の人間もレメク様の所で丁重に迎えられて、満足そうですよ。名門貴族のふるまうごちそう……ちょっと羨ましいですね、マスター」

「スパイ何てさっさと捕まえちゃえばいいのに……」

「そう言うなよ、泳がせておけば利用できる時もあるんだよ。それはそれとして、この戦いが終わったらノアと一緒に挨拶にでも行くか?」

「ふふ、それは死亡フラグって言うんですよ。マスター」



 ヴィグナが文句を、ガラテアが軽口を叩く。スパイが情報を得る時間を稼ぐと同時に、他の衛兵は名門貴族から丁重な扱いをされたことによって、俺への忠誠度もあがって一石二鳥というわけだ。


 

「大丈夫だ……俺達は負けないさ。そのために色々準備だってしてきたんだからな。それに……ただ、救うだけじゃない。今回の遠征がアスガルドにとって有益なものにして見せるさ」」



 俺は共にドウェルへと馬を走らせている衛兵たちを見ながら、新たな決意をする。俺達が送れる援軍の数は少ないと思うけど、アスガルドの守りも考えるとギリギリなんだよな……それに……援軍というのは兵士の数だけじゃない。今回のために役に立ちそうなものも持ってきたのだ。



「さーて、あとは、彼らに状況を聞くとするか、ガラテア頼むぞ」

「はい、マスター、任せてください」

「気を付けて行ってらっしゃい」



 そうして、俺は蒸気自動車からガラテアに飛び乗った。彼女は優しく俺を抱えてくれる。男女逆では? と思わなくもないが仕方ない所だろう。





「どうだ、異常はないか?」



 俺がガラテアに背負われながら先頭で馬を走らせているアインとギムリに話しかけると、二人ともすごい顔をして、声を上げた。



「はい、特に問題は……って、ええ!?」

「おお、すごいのう。これがソウズィの遺物のゴーレムの力か」

「いえ、私はゴーレムではなく、ロボットです」



 ギムリの言葉にガラテアが、楽しそうにいつもの返しをする。同じアスガルド領で一月ほど暮らしていた彼らだが、ガラテアとはあまり接点はなかった。ギムリの方はちょいちょいボーマンと酒を飲んでいたようだが、工房にこもってたしな。

 アインもギムリも鉱山内での戦い方を中心としたをヴィグナと話し合ったり、魔道具を使っての作業ばかりをしていたためあまり、屋敷には来なかったからだ。

 まあ、俺もノアへの引継ぎや新兵器の事で手いっぱいだったためあまりコミュニケーションはとれなかったので他人の事は言えないんだが……

 これも人口が増えた弊害だな……領民たちとの距離が空くのはちょっと寂しい。



「今のところは特に異常はありません。ここらへんは魔物も弱いのしか出てきませんから、御安心を」

「ああ、それはよかった。このままならば、目的の村には今日のうちにはつけそうだな」

「そうですね……この森を抜ければ、すぐです。グレイス様は、ドウェルは初めてでしたね? おそらく驚かれると思いますよ」



 アインが真面目そうな彼女にしては珍しく、悪戯っぽくそんなことを言う。その表情にはどこか誇らしげなものが混じっている。

 そんなことを話しながら森に入った時だった。ガラテアとギムリが、険しい顔をする。



「マスター!!」

「嫌な気配じゃのう」



 森の奥を睨みつける二人を見て、ハンドサインで後続の連中に止まれと指示をする。行った傍からか……こういうのを異世界ではフラグって言うんだっけな……



「ガラテアはともかく、よく、ギムリは気づいたな?」

「儂は土魔法を使えるからのう。常に足跡を拾ったりできるんじゃよ。それよりもこの重さ……人間やゴブリンではないのう……もっと重い何かじゃな」

「そんな……ここはゴブリンくらいしか住んでいなかったはずなのに……」



 その一言で俺達の間に緊張感が走る。まさか、鉱物アリだろうか? 



「お前らは周囲を警戒していてくれ。すまない、ギムリとアイン、先導してくれるか?」

「もちろんです」



 彼らは、馬から降りて、俺達の先を進む。そして、ガラテアとついていく。もちろん、懐に銃があるのを確認するのは忘れない。

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