4.元婚約者

すいません、前回の話はもっと先の話でした……投稿する話を間違えてましたね……


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俺ことグレイス=ヴァーミリオンは第三王子である。そして、スキルに目覚める前は兄達と同様にちゃんとした王族の一員として扱われていたのだ。そして、そんな王族には当然のように幼いころから婚約者がいるものだ。いや、正式には婚約者というよりも婚約者候補といったところだったが……

 それがカシウス家の次女、ノア=カシウスである。といっても、彼女と会ったのは二、三回である。彼女は俺と同い年でありながら魔法の才能に恵まれており、魔法で作った鳥の形をしたゴーレムを肩にのせていたのが印象深い。頭の回転が早く、ゴーレム作成に興味をもっている彼女との会話は楽しく、けっこう楽しく話せていたと思う。

 とはいえ、俺のスキルが非戦闘用だという事が判明して、それを恥じた父が婚約の話は白紙にしたのだけれど……

 まあ、そんなことはどうでもいい。俺は手紙を持ってこちらを見つめているヴィグナに何と言おうか悩む。



「いや、これはだな……」



 もちろん、俺がノアの事を好きだったとか、そんな事はない。彼女も知識欲が強い少女だったので気があうなぁとは思っていたがそれくらいである。そして、それはノアも同様だと思う。

 だけどさぁ、彼女であり、第一夫人候補のヴィグナが見たらどう思うよ。何か変な勘違いをされない? するよな。それにいい気持ちはしないだろう。



「もう一度ノアに会ってくれってさ。今更だよな……もちろん、俺は断るつもりだから安心してくれ」

「断らなくていいんじゃないかしら? だって、あの子は侯爵家の令嬢でしょう? このアスガルドの後ろ盾としては最適な人材じゃないかしら?」

「え……」



 俺はヴィグナの予想外の反応になんと返せばいいかわからなくなる。あれ、ここって、「この浮気者ー!!」って怒るところじゃないのか?

 いや、彼女はとっくに覚悟をしていたのだ。俺が他の女性を第一夫人にすることを……最初に告白してプロポーズをして断られた時のことを思い出す。



『ありがとうグレイス……私もあなたの事がずっと好きよ。でも、結婚はしないわ、あなたは第三王子であり、このアスガルド領の領主なのよ。第一夫人はもっと身元のしっかりした人にしなさい』



 彼女は確かにそう言っていた。確かに効率を考えるならばそうするのがいいのだろう。侯爵家であるカシウス家の後ろ盾があれば、今回の様な襲撃もなかったかもしれない。ソウズィの遺物だって手に入りやすくなるだろう。

 政略結婚なんて貴族ではよくあることだ。だけど、ヴィグナの気持ちは……



「だって、私はあなたが私を本当に愛してるってわかってるもの……だけど、時々嫉妬はすると思うから、その時はたっぷり構いなさい」



 心配している俺に彼女は堂々とした顔で俺に微笑んで言った。ああ、くそ、かっこいいなぁ……こいつ。俺が領民を失って苦しんでいるのを見たからとか、アスガルドのためっていうのもあるのだろう。

 だけどこれ以上に俺の事を彼女は信じてくれている事だろう。第一夫人にしなくても、変わらず俺が彼女を愛すると……



「ありがとう、だけど……俺は色々考えてみようと思う。カシウス家は確かに強大だ……だけど、強大すぎるから、まずはどういう意図があるかを明確にしてからじゃないと危ないからな。俺の異世界の技術を利用するだけ利用しようとしているのかもしれない。それに……」

「それに? どうしたの?」

「今は平和だし……もうちょっと、ヴィグナと二人っきりでいたいんだよ」

「もう……馬鹿じゃないの」



 そう言う風に冷たくあしらうヴィグナだが、その表情はまんざらでもないらしく、顔を赤くしながら俺の元に体を寄せてくる。俺は彼女の柔らかい感触を堪能しながら抱きしめて……

 その時だった、ノックと共にようやくボーマンに解放されたらしき、少し疲れた顔のノエルがやってきて……



「グレイス様、夕ご飯の準備が……失礼しました」

「ちょっとまったぁぁぁぁ!!」

「あんたが発情するからぁぁぁ」

「発情って……お前もまんざらじゃなかったくせに……」



 そのまま顔を真っ赤にして、再びノエルが出て行ってしまった。俺達はあわてて離れて引き留めるがもう遅かった。そして、俺達は笑顔のガラテアにやんわりと注意をされるのだった。









「ご主人様……移民希望者が来ました」

「うん……? このタイミングにか?」



 翌日俺が書類を処理していると、少し慌てた様子のノエルがやたらと念入りにノックをして入ってきた。昨日はすいませんでしたぁぁぁぁ。

 だが、移民という言葉に俺は違和感を覚える。確かに移民希望者も増えたが、今はエドワードさんがまとめてつれてきてくれているのだが……

 単独で来たのか? わざわざ、馬車じゃないとしんどい距離を?



「ええ……その……自分の所有する馬車でいらっしゃったようで……通しても良いでしょうか?」

「ああ、別に構わないが……自分用の馬車を持っているレベルの人間が移民だって……」



 俺の言葉にうなづくノエル。色々と気になることはあるが、まあ会ってみて損はないだろう。そして、しばらくたつとノックの音と共に少女の声が響く。



「ごきげんよう、いや、久しぶりというべきでしょうか? グレイス様の所では魔法を使え、書類の処理をできる人間を探していると聞いたのですが……私なんてどうでしょうか?」

「お前……ノア……ノア=カシウスか?」



 俺は肩にゴーレムの鳥を乗せて入ってきた少女の顔を見て驚愕の声をもらすのだった。


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