5.元婚約者2

ノエルの案内で来た少女は俺と同じくらいの年齢の少女である。手入れがされているであろう稲穂のような美しい金色の髪に、海の様に澄んだ蒼い目をした美少女だ。

 女性にしては長身だが、すらりとした体型と、それに反比例するように存在感を主張する胸を持つ彼女は、昔のように意地の悪い笑みではなく、こちらを癒すような、人を和ませる何とも優しい笑みを浮かべている。



「久しぶりだな、ノア……しかし、聞き間違いか? 移民って言ってたよな? 俺との婚約ではなく……」

「ええ、そうですよ。だって、私の手紙に返事を下さらないではないですか。だからつい会いにきてしまったんです。もちろん、婚約者としてではなく、移民としてです。それなら受け入れてくださるかなと思いまして」



 そう言って少し拗ねたように唇を尖らす姿は何とも美しい。そして……だからこそ、俺は警戒心を上げる。昔の記憶と照らし合わせても彼女が俺に惚れていたという可能性はかなり少ない。

 それに何というか、昔はもっとこんな可愛らしい感じではなく自分の好きなものに一直線だった気がするんだが……     

てか、そもそも手紙が来たのは先日だし、気が早すぎないか。こいつ。



「あー、その……悪いんだが、婚約の件は今色々と立て込んでいてだな……」

「ですから、私は婚約者としてではなく、移民としてきたと言っているじゃないですか。この屋敷につくまでに見させていただいたた所、領民の方々はみんな幸せそうに暮らしているようですし、ご飯も美味しいと聞きます。実は私も貴族同士のやり取りには色々と気疲れをしておりまして……ここにはただのノアとして移民したいのです。ダメでしょうか?」



 そう言って彼女は俺の手を取ってうるうると涙をにじませる。こんな美少女にお願いさせたらつい、頷いてしまいそうだ……だけど、俺はそんなに甘くはない。せっかく触れたのだ。チャンスとばかりに『世界図書館』を使用する。


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貴族


ノア=カシウス

年齢:17歳

得意分野:魔法、ゴーレム作成

スキル:ゴーレムクリエイター

情報:カシウス家の次女であり、頭がよい才女。興味があるところには一直線で、周りが見えなくなるところもある。肩の鳥は彼女が最初に作ったゴーレムをバージョンアップさせていったものである。

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 彼女の事をあまり知らないからだろう。得られる知識は表面的な物ばかりだ……だけど、悪意は無さそうなんだよなぁ……ただ、世界図書館の情報と、今の典型的な貴族令嬢のような言動とはかみ合わないのが気になる。

 だけど……ここら辺で力を持つカシウス家の令嬢だ。移民としてきたからには雑に扱えないだろう。



「この件はカシウス家も知っているんだよな? 家出して来たとかじゃないんだよな」

「もちろんです。そんな事をしたらグレイス様に迷惑がかかってしまうじゃないですか。ご心配なら父に手紙を送ってくれても大丈夫ですよ」



 俺の言葉に彼女は当然とばかりにほほ笑む。正直魔法が使える事や一般教養として、書類の処理を学んでいるであろう人間が来るのはありがたいんだが……どこまで信用していいものか……

 そう考えていると、ノックの音がしてガラテアが紅茶を持って入ってきた。ノエルは相手が貴族という事もあり、緊張してしまうので彼女が対応したのだろう。



「マスター、ノア様、良かったらこちらを……」

「ふひっ」



 なんだ今のキモイ声は? もちろん、俺ではないし、怪訝な顔をしているガラテアでもないだろう。そうなると彼女しかありえないのだが……慌てて見ると先ほどと変わらず穏やかな笑みを浮かべている。

 いや、よく見るとチラチラとガラテアを見ているな。少し様子を見てみるとしようか。そうして、俺は彼女と世間話をして、そのまま客室の一つを使ってもらう事にした。本人は気にしないと言っているが、さすがに貴族の令嬢を適当な家にほっぽり出すわけにはいかないしな……



「で、ガラテア……ノアはどうだ? 何か怪しいところはあったか?」



 そして、俺は彼女を客室まで案内したガラテアが帰ってきたので様子を聞いてみる。



「うーん、特に怪しいところはなかったのですが、あの人からは強い興奮と探求心を感じました。不思議な方ですね。ただやましい感情や害をなそうという感情はありませんでした」

「そうか……とりあえず、様子を見てみるか……」



 彼女が何のつもりでここに来たかはまだわからない。とりあえず、カシウス家に娘さんを預かっている旨の手紙を書いて様子をみることにするのだった。

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