3.お風呂
「これは……なんで風呂を?」
「ああ、これは俺が頼んだんすよ、鉱山で働いているとやはり体が汚れるんで……何か良いものを作ってくれないかと相談しまして……」
「あーなるほど、確かにこれから寒くなるし、水じゃあきついよな……でも、風呂って設置とか排水が結構大変だよな? 水場の近くでならともかく、鉱山では使うのは難しくないか?」
「ふふん、それなら問題ないぜ」
俺の言葉にアグニは待ってましたとばかりにどや顔をして、試作型のお風呂を指さした。どうやら彼には考えがあるようだ。
「それに関して色々工夫したんだよ!! これを見てくれ。まずは石の浴槽の下にミスリル合金の板を敷いて、火の魔法を込めてもらったマジックストーンを使用することにより長時間お湯が冷めないようにできるんだ。そして、このゴムで作った栓を抜くことによって、一気に汚れたお湯を流すこともできるんだ!! そうすることによって、衛生面の問題も解決し、水に関しても水魔法のマジックストーンで、自由に出せるしな。とりあえずはこの小型サイズしか作れないが、お風呂で疲れも取れるし、体も綺麗になる。鉱山でも一回設置すればあとは楽に使えるだろう」
「ああ、だからたくさんのマジックストーンに水と火の魔法を詰めてくれって言ったのね……」
そう言って彼はゴムで作った水栓をどや顔で見せてくる。その横でヴィグナが合点がいったとばかりに手を叩く。やっぱり魔法はヴィグナなんだよなぁ……
でも、お風呂か……そろそろ寒くなってくるし、公衆浴場とかを作るのもありかもしれないな。大きな街には公衆浴場というものがあり、領民たちの憩いの場にもなっているのだ。それに、それだけの贅をこらせるという余裕があるよっていうアピールにもなる。これがあれば領民も少しは集まりやすくなるだろうか。
幸い金銭的にも余裕があるし、土地はまだ腐るほどある。アグニの作成方法なら、構造自体はシンプルだ。試作を重ねれば作れるようになるだろう。
ただ問題もまだある。まだ労働力も足りないし、魔法がヴィグナしか使えない状況なので彼女の負担が大きくなるだろう。これくらいのサイズならいいが、公衆浴場となるとちょっと負担がでかすぎるだろ。
まあ、とりあえずは保留だな。そう思いながら俺は久々に会うドノバンに声をかける。
「そういえばドノバン、他に何か鉱山で問題はおきていないか? 最近はそっちの様子を見に行けてなかったからな。何かあったら教えてくれ」
「ああ、そうだなぁ……さっきいったお風呂の件と、あとは……地下水だな、鉱山を掘り進めていくと出てくる地下水が邪魔をするんで、何かいい方法がないか探している最中ですわ」
「なるほど……地下水か……」
確かに地下水を汲むのはガラテアの力でも一気にはできないし、ヴィグナの魔法でも対処ができないんだよなぁ……地道に水を汲むのもしんどいし、効率が悪い。異世界ではどうしているんだろうか?
『異世界ではポンプなどを使用して、吸い出しています。蒸気ポンプなどが使われますね』
俺の質問に『世界図書館』答えてくれる。この前の戦いでソウズィの遺物を手に入れて、異界理解度が上がったからか返答が返ってくることが増えてきている。
ポンプと言えば、アズール商会からもらったものがポンプのかけらだったな。ボーマンたちに預けているが、ちょうど武器に関してひと段落ついたようだし、ノエルと蒸気について話すと言っていたので、研究を進めてもらおう。もしかしたら、異世界と同様のものが作れるかもしれない。
街を歩いていると、色々とみんなも頑張ってくれているのもわかったし、いい気分転換になった。やることもや課題もちょっとずつだが見えてきた気がする。
「アグニはその小型のお風呂を鉱山に設置できるようにしておいてくれ。そのうち、お風呂の件で相談をするかもしれないから気に留めておいてくれ。ドノバン、地下水の件は俺の方でも考えておくよ。ちょっと当てがあるんだ。いつも鉱山でありがとう。せっかく村まで来たんだ、今日はゆっくりと体を休めてくれ」
「おう、がんばるぜ、期待しといてくれよ!!」
「はいよ、色々頑張らせてもらうぞ!!」
そうして俺は二人に別れを告げて屋敷へと戻ることにする。二人で歩いていると何やら嬉しそうにヴィグナが話しかけてくる。
「いい気分転換になったようね、その……最近根を詰めすぎていたようだから心配してたのよ」
「ああ、やはり定期的に見回るのは大事だな。課題も見えたしな。とりあえずは魔法が使える人間と書類作業ができる人間が欲しいな」
「魔法を使える人間は難しいでしょうね……大抵は貴族の元で働いているでしょうし……冒険者は私と同じで、戦闘メインだもの……」
「まあ、そうなんだよなぁ……あとさ、今日は付き合ってくれてありがとう」
「いいのよ、私も楽しかったし……久々に一緒にいれたしね」
そういうと彼女は俺ににっこりとほほ笑んだ。うわぉ、クッソ可愛いんだけど……抱き締めてぇぇぇぇ!! てか、お風呂作ればさ……うちの館にちょっと大きなお風呂を作ったりして、ヴィグナと一緒に入ったりとかもできるんだよな……
そう思ってつい、先ほどのアグニが作っていたお風呂のある方を見つめてにやけてしまう。
「何を厭らしい顔をしているのよ、その……あんたがどうしてもっていうなら一緒に入ってあげてもいいけど……」
「え、俺は何にもいってないんだけどなぁ。ヴィグナさんは何に一緒にはいってくれるんです」
「う……わかってくるくせに、わかってるくせにぃぃぃ」
「いってぇ、お前本気で俺の体を揺さぶるんじゃねえよ、俺はか弱いんだぞ……」
羞恥に顔を真っ赤にしたヴィグナが俺の身体を揺さぶりやがる。うおおおおお、こいつの力マジでやべえんだよ。からかいすぎたぁぁぁ!! などと後悔しながら俺は屋敷へと帰るのだった。
そして、屋敷に着くと俺の部屋の扉の前に人影が立っていた。
「おかえりなさい、マスター。ずいぶん長く楽しんでらしたようですね」
その一言をつげたガラテアから凄まじいプレッシャーを感じた。やっべえ、そういえば気分転換にちょっと散歩をするつもりが思った以上の長旅になってしまった。もしかして怒っている?
「外出をするなら言ってくださると嬉しいです。せっかく出来立てを食べていただこうと思っていたのに……」
「ああ、悪かった……すぐ帰ってくるつもりだったんだよ……」
どうやら、彼女は俺のために食事を準備してくれていたらしい。珍しく拗ねているガラテアを見て申し訳ないという気持ちが強くなる。
「ですが、いい気分転換になったようですね、やはり愛する人と一緒にいると違うのでしょうか?」
「いや、別にそういうわけでは……」
「ふーん、私の事好きじゃないのね」
俺の言葉にヴィグナが意地の悪い笑みを浮かべながら反論をする。くっそ、さっきのお返しかよぉぉぉ。俺がヴィグナを睨みつけるとガラテアが楽しそうに笑っている。
「ふふ、仲の良いのは何よりですね、部屋にサンドイッチを置いておいたので小腹がすいたらつまんでください。その……書類が更に溜まっているので……」
「げぇ……」
ガラテアの言葉に思わず俺がうめき声をあげると、隣にいるヴィグナがやれやれとばかりに溜息をついた。
「しかたないわね、私が手伝ってあげるわ」
「え、ヴィグナって書類作業できるのか?」
「あんたね……近衛騎士やってたんだからそういう作業だって多少はできるのよ……まあ、苦手だったけど」
そんな風に軽口を叩きながら俺の部屋に入って書類の束を見て少しげんなりしているところだった。ヴィグナの目に何か止まったのか、彼女が机の上にある封筒を手にとった。あ、やっべ……
「カシウス家ってあんたの元婚約者の所よね。今更どんな手紙が来たの?」
案の定の指摘に俺は胸がキュッとしめられるきもちになった。
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