3.手土産
「グレイス様そろそろ準備をしないと馬車に間に合いませんよー、遅刻をしたら先方に失礼になってしまいます!!」
「ああ、もうそんな時間か……」
「ちなみに実は既に迎えのクリスさんがいらしてて『ちょっと早く来すぎちゃいましたー』て言って馬鈴薯を美味しそうに食べています。」
パーティーの当日最終実験とばかりに俺がヴィグナと一緒に新発明を試していると、ノエルが駆け足でやってきた。
彼女はスキルこそ目覚めてはいないが、元々頭の出来が良かったこともあり、文字や計算などを教えた結果、今では簡単な商談ならばクリスさんとやり取りをできるくらいになっていることもあり、彼女とは結構仲良くやっているようだ。
マジで俺だけができる事なくなってきたんだけどやべえな……別に焦っているから新商品になるようなものを作っているわけではないからな、いやマジで!!
「それは何なのですか?」
「ああ、今は貴族向けに冷蔵庫っていうものの試作を手土産代わりにもっていこうと思ってな。最終調整をしているんだ。暑いだろ、ノエル。この中にキンキンに冷えた果実水が入っているんだが。良かったら飲んでみるか?」
「いいんですか、いただきます!! でも、こんな日に金属の箱に入ってると温くなってしまうと思うんですが……」
「だから、私の魔法はこんなことに使うためにあるんじゃないんだけど……」
よほど急いで来てくれたのか、頬から垂れる汗がきらめいているノエルに、冷蔵庫から取り出した果実水の入ったコップを彼女に差し出す。ヴィグナも文句を言っているが、もうあきらめているのか、適当な反応である。
今は夏季ということもあり、気温が上昇し始めている。この冷蔵庫はコストは少しかかるが貴族に受けるかもしれない。
「すごい、キンキンです!! すごいです。グレイス様!! これはどういう仕組みなんですか?」
「はっはっはー、仕方ないなぁ。愚かで脳筋なお前に説明してやろう」
「はい、愚かな私に、グレイス様のお知恵をわけてください!!」
やっべえ、ついいつものヴィグナに説明するときのノリで言ってしまった……と後悔しても遅い。てかノエルは愚かと言われたのに俺を尊敬のまなざしで見てくる。純粋な視線が罪悪感を感じさせる。これはこれでやりずれええええ!!
ヴィグナは困っている俺を鼻で笑いやがった。本当に可愛くねえな、このクソアマ!!
「あ、ああ……これは純度の高いミスリル合金で作った箱に氷の魔法を放って箱の内部を冷やしているんだ。これならば内部がずっと冷えたままだからな。結構ミスリルを使っているからコストはかかるが三日は持つ。平民にはきついが貴族や商人ならお抱えの魔法使いもいるから興味を持ってくれると思ってな」
「なるほど……ですが、それだと箱全体を冷やす分魔法のロスが多くはないでしょうか? 例えば中心分に氷の魔術を込めたミスリル合金の棒などを入れて、内部から全体を冷やす方が魔法を使うミスリルの使用量も減って効果的だと思うのですがどうでしょうか?」
「え……ああ、確かに……」
得意げに語る俺だったが思わぬ意見にたじろぐ。確かにそっちの方が魔力の消費は低く済むし、ミスリルの使用率も下がって、コストも下がるな……てかこれだとさ……
「ついに、発明力でも負けたわね……」
「うっせー、今自分でも自覚しちゃったんだから放っておいてくれる!? あと、ノエル、給料増やすから、今度俺とボーマンの研究所に来てくれ!!」
「はい、グレイス様のお力になれるなら、私頑張ります!! 果実水美味しかったです。ありがとうございました、あと、お二人の服を準備してあるのでお着替えをお願いします」
そう元気のいい返事を返すとノエルはお辞儀をして仕事に戻っていった。マジで優秀だなぁと思いながら俺はその背中を見送る。ノエルの改良案は後で検討をするとして、とりあえずの手土産もできたし、行くとするか。
メンバーは俺とヴィグナである。こいつのドレス姿とか絶対似合うとおもうんだよな。実は少し楽しみにしているのだ。
「なによ、イヤらしい笑みをうかべちゃって……セクハラで訴えるわよ」
「俺まだ何も言ってなくない? 理不尽にも程があるぞ!!」
「知ってる? セクハラって相手が不快に思ったらそれでアウトなのよ。で、何を考えたのかしら? どうせ、可愛い子のドレス姿でも想像したんでしょう?」
「いや、ヴィグナも今日ドレスなんだなってちょっと楽しみにしてただけなんだけど……」
「え……」
俺の言葉に固まるヴィグナ。一瞬の間をおいて彼女の顔が真っ赤になった。多分俺もそんな感じなんだろうなぁ……くっそ、恥ずかしいからいいたくなかったんだよ……これでいつものように睨まれるんだろうなぁって思っているとなぜか、視線を逸らしながらぼそりといった。
「その……お世辞でも嬉しい……あまり期待しないでね……」
「あっ、ああ……」
いつもと違う反応に俺は驚く。どうしたのこいつ? 腐った馬鈴薯でも食べたのか? そんなことを思いながらパーティー会場へと行く準備をするのだった。
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