4.お披露目パーティー
「ようこそいらっしゃいませ、グレイス様」
「本日はお招きいただいてありがとうございます。エドワードさん」
礼服を着た俺はこちらを見つけて笑みを浮かべて歓迎をしてくれているエドワードさんに、笑い返す。
やっべえ、緊張してきたんだが……
ここは彼の屋敷で、貴族の家にあるようなパーティーホールには着飾った男女が料理やお酒を肴に談笑している。
そう、俺はあの手紙で彼が開く社交パーティーに招待されたのだ。彼曰く信用できる商人仲間を紹介したいとの事であり、要するに俺という商売相手のお披露目パーティーである。ここで上手く立ち回れば、俺やアスガルド領の知名度が上がり、より多くの協力者を得たり、商品にも興味を持ってもらえるかもしれない。
そして、俺はエドワードさんに長身の男性と小太りの男性が歓談をしているところに案内をされる。
「グレイス様、こちらへどうぞ」
彼らがエドワードさんが信頼を置いている俺の協力者になり得そうな商人か……二人とも興味深そうに俺をみているが、内心はどうなのだろうな。
俺は自分に気合を入れ彼らの元へと進む。クリスさんに話を聞いたところ、ヴィグナは着替えに時間がかかっているとの事だ。彼女は少しニヤニヤしながら、頼んでいたネックレスが出来たと言いつつ、俺に渡し教えてくれた。
今は彼女が近くにいないのが少し心細い。まあ、そんなことは言ってられないんだけどな……
「皆さん、彼が今私が話していたグレイス=ヴァーミリオン様です。若いながらも、優秀なお方でしてね、私がこの間皆様に紹介したゴムやミスリル合金をなどはこの方が発明したのですよ」
「今、ご紹介にあずかりました、グレイス=ヴァーミリオンです。よろしくお願いします」
「おお、グレイス様は確か、第三王子でしたな」
練習通り挨拶を済ませた俺だったが、エドワードさんの友人の一人が発した第三王子という言葉に思わず体が固まってしまう。
実のところこういう場に来たのは初めてではない、王家の仕事だからと仕方なくつれていかれたことも何回かあるのだ。そして……第三王子だと分かったとたんに来た侮蔑の視線や、言葉を俺は思い出してしまう。
「おお、噂は聞いております、誰も開拓できなかったアスガルドの開拓を進めてらっしゃるのでしょう。しかも、ソウズィの遺物を継いだとか……それに、ミスリル合金、あれはすごいですね。ミスリルなのにあんな風に加工しやすくできるなんて……初めて聞いた時は耳を疑いましたよ」
「私も、あなたが作ったという馬鈴薯をいただきましたぞ、どうやってあれほどの物を……いや、これは秘密なんでしたな。ですが、あなたさえいればアズール商会にだけ大きい顔をさせらないですみそうです、感謝していますぞ」
「いや、俺はそんな……」
彼らは口々に俺を褒めたたえる。そんなことは初めてなわけで……俺は思わず混乱をしていると、エドワードさんが耳元で囁く。
「あなたは自覚はないかもしれませんが、我々中小の商会からすれば、アズール商会の独占状態という地獄のような状況に救いの一手を打ってくださったのです。私たちはあなた方に本当に感謝をしているのですよ。だから、彼らの賞賛を素直に受け取っていただきたい。礼を伝えるだけで我々も嬉しい気持ちになりますからね」
「ええ、わかりました。私も皆さんのお役に立てて光栄です。これからも我がアスガルド領に期待をしてくださると嬉しいです」
こうやって直に賞賛なり感謝の言葉を伝えられると、俺が今までやっていたことは無駄ではなかったんだと思うと不思議と元気がでた。そして、俺は二人と握手をする。
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商人
カルコ=ケンショー
年齢:40歳
得意分野:交渉術、値切、金属加工、鉱山運営
スキル:なし
情報:職人上がりの商人。鉱山を経営しており、資金はそこそこ。実はボーマンに憧れており、いつか会いたいと思っている。ミスリル合金を初めて見た時は興奮して眠れなかった。
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商人
セイレム=アンダーソン
年齢:43歳
得意分野:食レポ、交渉術、貿易
スキル:神の舌:食べたものの効果及び料理にどんなものが使用されているかを知ることが出来る。
情報:食品を扱う商会の三代目。元々はそこまでではないが、エドワードにもらった馬鈴薯を食べすぎたせいで太った。いつか、アスガルド領でパーティーを開いてくれないかと密かに期待している。
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長身の方がカルコさんで、小太りな方がセイレムさんだ。『世界図書館』で調べたが二人とも俺に本当に敵意はないようだ。いや、内容的にはちょいちょい突っ込みたいところがあるが、まあよしとしよう。いつかエドワードさんも含めてうちに招待したら喜びそうだな……
そうして、俺は彼らと色々な話をする。それは例えば、ミスリル合金の使い方のアイデアだったり、こういうものが作れないかというはなしだったり、そして、俺が手土産として持ってきた冷蔵庫に関してだったり、カルコさんが喰いついたので、エドワードさんを、交えて商談をまとめるのもいいのかもしれない。
そんなことを思っていると、何やらざわっと入り口の方が騒がしくなった。なんだろうと思うと水色の長い髪を編み込み、その美しい髪が映える赤色のドレスに着飾った美少女が、辺りを見回しながら少し、緊張した様子で入ってくるところだった。
彼女は俺と目が合うと、きっと少し怒ったような顔をしながらこちらにやってくる。下品になりすぎないくらいに露出されている谷間や、彫刻のような美しい顔立ちを見るとまるで芸術品の様だ。
「おお、何とも美しい……」
「私と踊ってくれたりしないかな……」
様々な人と接する商人だからか、それともそんなことはささいなことだと言う事なのか、彼女を忌子だと指摘するような声はなく、そんな声があたりに響くが、少女は興味が無いとばかりに、まっすぐと俺の元へとやってきて、相変わらず怒ったような表情で俺に一言言った。
「ごめんなさい……クリスったら色々うるさくて……時間がかかっちゃったわ」
「あ、ああ……気にするなって」
俺はヴィグナの美しさに目を取られて、思わず声が震えてしまう。そんな俺の視界の後ろでクリスさんがにやにやと笑いながら自分の首を指さす。怪訝な顔をした俺だったがヴィグナの美しい首には何のアクセサリーも無いことに気づく。
クリスさんめ……そういうことかよ……
「ヴィグナ……その……いつも俺の護衛とか頑張ってくれてるからさ、プレゼントをしようと思ってたんだ。よかったら受け取ってくれないか?」
「これって……ありがとう……その悪いんだけど、グレイスがつけてくれないかしら? このドレス動きにくいのよ……」
そう言うと彼女はくるりと俺に背をむけて、首を晒す。俺は少し緊張しながら彼女の蒼い髪と同様に美しい水色の宝石が埋め込まれたネックレスを彼女の首元につける。
見慣れた彼女の顔が真っ赤だったのは気のせいではないだろう……そして、俺の顏も同様に真っ赤なのだろうな……
「お二人ともせっかくですから踊られてはいかがですかな? 今夜の主役であるグレイス様とその護衛であるヴィグナ様のダンスを私も見てみたいのですが……」
エドワードさんが笑みを浮かべながら、ダンスを勧める。ああ、確かにヴィグナのおかげで、これだけ注目の集まった今ならば俺を紹介にするのに適しているだろう。
だけど、ヴィグナはそういうふうにみられるのは嫌なんじゃないかなと思った瞬間だった、彼女は俺から目を逸らしながらも手を差し出す。まるでダンスに誘ってくれとばかりに……
「ヴィグナ……俺と踊ってくれないか?」
「仕方ないわね……最近踊っていないから失敗しても笑わないでね……」
そう言うと彼女は珍しく柔らかい笑みを浮かべてそう言った。俺が彼女の手を握ると同時に、音楽が演奏される。ああ、
この曲は知っている……懐かしいな……
そうして俺と彼女は一緒に踊り始める。彼女はあんな事を言ったけれど、彼女のステップは俺との息がぴったりで、彼女の美しさのためあたりから歓声が漏れる。
そりゃあ、そうだよ、俺の社交界デビューのダンスの練習の相手はずっとこいつだったんだから……結局俺のスキルが外れスキルだと発覚して、こんな風に大々的に踊ることはなかったけれど……みんなが離れて行っても、ずっとこいつは一緒にいてくれたんだよな。なぜだろう、そう思うと胸がドキドキとし始める。
落ち着けよ、相手はヴィグナだぞ!!
そんな風に自分に言い聞かせて、彼女の顏を見ると先ほどまでの怒ったような顔はどこにいったやら、頬を赤く染めながらも嬉しそうに踊っている。そんな顔を見て俺はさらに胸がドキドキとしていくことを自覚する。
そして、俺達のダンスが終わると周りの商人たちの大きな拍手が部屋を満たした。
その後も俺は何人かの女性に誘われダンスを踊ったり、エドワードに色々な人に紹介をしてもらった。先ほどのダンスのおかげか、皆が俺の事をおぼえてくれているようだ。
その間もヴィグナは護衛のつもりか、常に俺の後ろにくっついている。何度もダンスに誘われていたが、そのたびに「私はグレイス様の護衛ですので」と断っていた。ダンスくらいしても怒らないんだけどな……
これが俺のお披露目パーティーだというならば大成功だと言えよう。それに楽しいパーティーだった。俺にとってパーティーとはこれまでは味噌っかす扱いばかりだったのであまりいい印象はなかったのだが、本当に楽しいパーティーだったのだ。
「そろそろ着替えてくるわね」
「ああ、お疲れ様」
俺はパーティーを終えて個室で水を飲んでいるとヴィグナに声をかけられた。ドレス姿の彼女を見られなくなるのは残念だが、そんなことを言ったら怒られそうだしな。
「……どうした?」
「その……ネックレスありがとう……嬉しかった」
中々動かない彼女に怪訝な顔をすると、目を逸らしながらそんなことを言われる。そんな彼女を見て俺は今まで言えなかった言葉が自然とポロリと出る。
「いつものお礼だよ、今日のドレス、すっごい似合ってたぞ。多分今日のパーティーの参加者で一番きれいだった」
「え……な……あ……」
そう言うと彼女の顔が一瞬にしてりんごのように赤くなる。やっべえ、からかったと思われただろうか。いつもだったら拳が飛んでくれるんだよな。
いや、でもこいつは本当に顔はいいんだよ。暴力的だけどさ……
「あんたも……その……かっこよかったわよ……」
俺が身構えると同時に彼女は乱暴に扉をしめて出て行ってしまった。ドレスは動きにくいんじゃなかったのかよ。ずいぶん機敏だな。俺はそんなことを思いながら今日の事を思い出して胸が熱くなるのだった。
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