2.パーティーへの招待状

「これをこうするのはどうでしょうか?」

「おう、中々筋がいいのう、じゃが、儂だったらこうするぞい!!」

「お二人とも何やら楽しそうですね、二人から、ワクワクを感知致しました!!」



 俺とガラテアが村の方へ行くと、何やら騒がしい声が聞こえてきた。ボーマンとアグニだ。ちなみにここはアルミニウムのコップを見つけた場所である。領民が増えたという事で、住む場所を提供するために彼等には壊れている建物の補修をしてもらっているのだ。

 もちろん魔物が入ってこないように村全体は『守護者の鎖』で覆ってある。



「おーい、修理は順調か? ってお前ら何やってんの?」



 俺が声をかけると彼らは何やら騒ぎながら銅像のようなものを作っていた。え、マジで何やってんの?



「おお、坊主か!! 建物の修理はあらかた終わったんでな、どうしようかという話になったんじゃが、街のシンボルを作ろうという事になったんじゃよ」

「はい、それで……他の皆にも相談して、俺たちを受け入れてくれた感謝の気持ちを込めて銅像を作ろうという話になったんで、今がんばってつくっているんだ」

「え、もう終わってんの? 作業早くない?」



 怪訝な顔をして、村の建物を見てみると依頼をしていた分は綺麗に補修されている。ボーマンと二人がかりとはいえこんなに早く終わるとは思わなかったな、アグニも予想以上に経験豊富だったのだろうか?



「ボーマン殿には色々と教えていただいたので試したくてつい、気合をいれてしまったのだ。それに馬鈴薯を食べればいくらでも徹夜はできるからな、素晴らしい環境だよ、ここは!!」

「はっはっはー、それにアグニは中々見込みがあるぞい。一日中作業をしている儂についてこれるし、教えた技術をどんどん吸収するから楽しかったわい」

「いや、お前らあんまり徹夜をするなよ……無理して倒れても知らないぞ……」



 徹夜していたんかい!! てか、馬鈴薯ってマジで体力回復するんだな……魔物の肥料で育ててるから『モンスター』とでも名付けようか……

 それにしてもボーマンがここまで褒めるとはな、アグニは想像以上に優秀なようだ。それはともかく……



「それでお二人は何を作ってらっしゃるのでしょうか? 銅像と言ってましたが」

「そうそう、それを聞きたかったんだよ、村のシンボルって言っても、特産物とかこれといったものないだろ。馬鈴薯の銅像でも作るのか?」

「決まってるじゃないか、グレイス様だよ!! 領主様だし。我々の救世主だ、敬意をもって作らせていただくよ」

「それは素敵です。よかったですね、マスター!! ゆるキャラってやつですね」

「は? まじで言ってんの?」


 

 俺はアグニの言葉を信じられず思わず聞き返す。いや、だって俺の銅像とかの前にもっとやることあるだろ。ってか領民10人もいないんだが……なんか自意識過剰じゃない?

 俺がどうしようっていう顔をしているとボーマンが肩を叩いて面白そうに言った。



「ただの像じゃないぞい、鼻から矢を放って非常時は武器にもなるんじゃ」

「お前、絶対敬意とかないだろ、むしろ馬鹿にしてんだろ!! 俺がいつ鼻から矢を出したんよ、ぶっ壊せこんなもん」

「これを壊すなんてとんでもないぞ! グレイス様。俺達の感謝の証だ!! 領民みんなが賛成しているんだぜ」



 俺が抗議をするが、やたらと熱意のあるアグニに押し切られてしまった。まあ、敬意があるならいいのか……?



 釈然としないものを感じながらも、再び俺とガラテアが歩いていると、今度は情けない悲鳴が聞こえた。



「死んじゃう……ああ、でも……なんか気持ちよくなってきた……」

「心配しなくていいわよ、本当に死にそうな場合はそんな事を言ってられないわ」

「うわぁ……えぐいな……」

「ニールさんから恐怖の感情とわずかな快楽を感知致しました」



 まさか、魔物が……と悲鳴の先に行くと俺達は訓練用の木剣でぼこぼこにされている半泣きのニールと、それを冷たい目で見降ろしているヴィグナと遭遇してしまった。

 


「いやいやいや、手加減してやれよ、泣いてんじゃん」

「泣いてませんよ!? だから、ノエルにだけは言わないでください。俺はみんなを守れるだけの力が欲しいんです」



 俺が慌てて声をかけると、ニールは剣を杖のようにして震えながら立ち上がった。その瞳には力が籠っているが実力差は覆せないようだ。



「なあ、ヴィグナ、やりすぎじゃ……」

「心配はいらないわ、この子結構根性があるのよね。それに、もう、グレイスよりは強いわよ」

「そりゃあな、俺の雑魚っぷりをなめるなよ。俺より強くても何の自慢にもならんぞ」

「少しは恥じなさいよ……それに……誰かを守るための力が欲しいって言う気持ちは私もわかるもの。ほら、これを食べなさい。元気が出るわよ」



 そう言って彼女が渡したのは馬鈴薯を薄く切ってあげたものだ。異世界の食べ物でポテトチップスと言うらしい。ニールがかろうじてかみ砕くとどんどんと傷が癒えていく。

 ねえ、やっぱりこの馬鈴薯おかしくない? なんでこんな効果があるんだよ……俺の疑問に例によって『世界図書館』が答える。



『答えましょう、ガラテアが倒したあの火竜は生命の火を司る火竜なのです、それゆえにこのような効果が発揮されたのでしょう。魔物を肥料にした場合は栄養素として、その魔物の力が作物に宿るようです』

「やはりそうなんだな、アーマードアルマジロを肥料にした場合は一時的に守備力が上がったしな、ゴブリンは……まじで作物が早く育つだけだったな……」 



 俺は『世界図書館』に返事をする。世界図書館が俺の質問に答えたのは俺が様々な魔物を肥料にして作物を作って、理解度が上がったからだろう。

 余裕が出来たら他の魔物を肥料にして効果がどうなるか試すのも面白そうである。

 


「まあ、回復するとはいえあんまり無理をするなよ、ヴィグナも少しは加減してやれよ」

「わかってるわ、殺しはしないから安心しなさい。でも……一生懸命頑張っている相手に手加減は失礼でしょう」

「大丈夫です、俺はまだやれますよ、それに……美人に殴られるのも悪くない」



 一瞬ニールが気持ち悪い笑みを浮かべたが見なかったことにしよう。




 一通り村を見回った俺は再び自分の屋敷へと戻ってきた。領民たちもみんな順応しているようでなによりだ。



「ここもにぎやかになってきましたね」

「ああ、みんながんばってくれているし、これから、どんどんここも大きくなるんじゃないかな。ガラテアもこれからもよろしくな」

「はい、楽しみにしてますね、マスターのつくる街がこれからどうなるかすごい楽しみです」



 俺とガラテアは屋敷の窓から外を眺める。これでちょっとは俺も領主っぽくなってきたかな? これから移民がどんどん増えたり、色々と問題もおきるだろう。だけど、それもまあ、悪くはないと思えてきた。

 そして、これから発展していくためには俺やソウズィの遺物の力だけではなく、商人や領民の力なども必要になっていくだろう。



「グレイス様手紙が届きましたよー、エドワード様からです!!」

「おお、ありがとう、疲れただろ、クッキーがあるからよかったら持って行っていいぞ」

「ありがとうございます!! これで夜のお仕事も頑張れます!!」

「もう……マスターはノエルに甘いんですから……」



 そんな風に黄昏ていると、ノエルが駆け足でやってきた。俺は彼女にお礼を言いながら手紙を受け取る。なんというか妹ができたみたいでつい可愛がってしまうんだよな……俺は呆れた様子のガラテアに笑ってごまかす。

 そして、手紙に目を通してつい笑みをこぼしてしまう。



「どうしましたか? まさかエッチな絵でも入ってましたか?」

「そんなわけないだろ!! パーティーの招待状だよ。今度エドワードさんが開くパーティーに来ないかってさ」



 以前話していたようにこのパーティーで俺に他の商人を紹介してくれるという事なのだろう。ここでうまくやれば、商売の販路も増えるし、協力者も増えるかもしれない。グッドタイミングである。



「そうと決まれば手土産でも作るか!! これから忙しくなるぞーー」



 そうして俺はソウズィの工房へと向かうのだった。


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