1.新しい日常
「うーん、後五分……」
「ご主人様ー起きてくださいよー!!」
ベッドで寝ていると揺さぶられる。昨日はボーマンと色々と実験をしていたから寝不足なんだよな……寝ぼけまなこでいると、困った顔をしているノエルの顔が見える。
これがヴィグナだったらベッドからひっくり返されているところである。優しいなぁ……
「ご主人様、起きてください。せっかく作った朝ご飯が冷めてしまいます。その……一生懸命作ったので、美味しく食べていただきたいのですが……」
「ん? もしかして今日はノエルが作ったのか?」
「はい、ガラテア様から許可が出まして……一緒に作ったんです。食べていただけますか?」
俺が尋ねると彼女は恥ずかしそうに顔を赤くしながらうなずく。可愛いなぁ、おい!! 何か新しい性癖に目覚めてしまいそうである。俺はロリコンではないはずだ。
「もちろんだとも、可愛いメイドが初めて作った朝ご飯だからな。すぐにいくから食堂で待っていてくれ」
「わかりました、お待ちしてます、ご主人様」
領民たちを受け入れてから一週間の時がたっていた。ノエルの様にみんなそれぞれの仕事を全うしてくれているようだ。
「おはよう」
「「おはようございます」」
部屋について、待機していたガラテアとノエルに挨拶をすると、二人は声をあわせて、お辞儀をする。なんかムチャクチャ偉い人になったような気分なってしまうな……
そして、席に座り、馬鈴薯入りのオムレツにさっそく手を付ける。なんかノエルが恐る恐るといった様子で俺を見つめているので何とも食べにくいんだが……
とはいえ、冷めてしまうと申し訳ないので口に運ぶことにする。おお、すごい。ナイフをいれると、半熟の卵がとろっとあふれ出てきてなんとも食欲をそそる。
「おお、すごい美味しいぞ、上達したな」
オムレツを口にした俺が彼女の頭を撫でるとくすぐったそうにしている。やべえ、ガラテアの時みたいについくせでやってしまったけど大丈夫かな?
「えへへ、ありがとうございます、ご主人様、私、これからも頑張りますから!!」
満面の笑みで返事が返ってきた。よかった、嫌われてはいないようだ。俺がほっと溜息をつくと背中をツンツンとつつかれる。
そこにはなぜか、頬をふくらましているガラテアがいた。
「マスター、彼女に料理を教えたのは私です。私にもご褒美を所望します」
「え? ああ構わないが……」
俺は続いてガラテアの頭も撫でる。ノエルとは違う感触でこちらも気持ちいい。というか何なの、この状況?
まあ、慕われてるぽいしいいかー。そうして俺は俺はノエルお手製の料理を食べた後ガラテアと一緒に村の周囲を回る事にした。
「ノエルは順調そうだな」
「はい、元々以前の村でも家事をやっていたらしく、基礎はできてましたし、何より一生懸命ですからね。そして、頭もよいのか教えたことはすぐ覚えますし、計算なども得意な様です。将来的にはマスターのサポートも任せられるようになるかもしれませんね」
「へぇー、ガラテアがそこまで言うなら将来は楽しみだな」
そんな風に褒めるガラテアだったが、普段の彼女とは違い、何かを教えるときは無茶苦茶厳しいのだ。そんな彼女がここまで言うという事は本当にノエルはしっかりした子なのだろう。
そして、将来が楽しみだといったのはそれだけではない、なぜなら彼女はスキル持ちなのだから……
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村人
ノエル
年齢:14歳
得意分野:家事、特に料理。頭の回転が早い。
スキル:料理系スキル(未覚醒)
情報:開拓村では家事手伝いをやっていた。特に料理が得意で、彼女もその道に進みたいと思っている。引っ込み思案だが、真面目で心優しい。
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スキルの覚醒には関連した作業、今回で言えば料理をたくさん行う事によって目覚める。だから、貴族は教会に高い金を払ってスキルの鑑定を行い、それに準じた行動を行うようになるのだ。俺がひたすら本を読んで『世界図書館』に覚醒したように……
だったら全員に鑑定を受けさせればいいじゃないかと思ったが、俺が家庭教師に教わった時は、一般にスキルは貴族の物であり、平民がスキルを持っているのはごくまれであると教わっていたのだが、それは間違いだったのかもしれない。
しかし、これは大きな発見だ。今後、領民が増えた場合は潜在的なスキル持ちが紛れているかもしれないな。強力なスキルがあればそれだけ開拓も進むからな。
「おー、二人ともどうだ順調か?」
「ああ、領主様、順調ですよ、領主様がくださったこのクワは素晴らしいですね、作業の効率が半端ないっすわ」
「あと、この肥料ってやつもすごいですよ、あっという間に作物が育ちますわ、ありえないです!! しかもこの作物やたら美味いし」
畑にいたジョニーとアルフレッドに声をかけると彼らは手をとめて、興奮気味に俺に言った。フハハハハ、ようやく俺のクワの良さをわかる人が現れたようだ。
「それにしても魔物の死体がこんなに役に立つなんてびっくりしましたよ」
「ああ、これが広まれば世界は変わるかもな、だが、まだ秘密にしておいてくれよ、調査の段階だからな。なにかあるかもしれないし」
「もちろんです、あとこのクワも本当に使わせてもらっていいんですか? 金属製のクワなんて下手したら武器になってしまいますよ」
「別にいいんじゃないか? いざという時は、それで自分の身を守ってくれ」
俺がそう返すと、アルフレッドは一瞬きょとんとした顔をしたがすぐに笑顔になった。ああ、もしかして、自分たちが叛逆したときの武器になるって言いたかったのか。
まあ、その時はその時だし、わざわざそんなことを聞くなら彼らにその気はないのだろう。
「それよりも、今度俺に耕し方のコツを教えてくれ、やはり、本職は違うな。俺と同じ事をしているはずなのに全然効率がちがう」
「だったら俺らが、領主様の畑を耕しましょうか? お世話になってますし、クワや肥料のおかげで、効率もいいんで時間に余裕があるんですよ」
「ありがとう、だけど、こういう事は余裕があるうちは自分でもやってみたいんだ、そうすれば、どれだけ大変かわかるからな」
「領主様は変わってますねぇ……でも、そういう所俺は好きですよ。あ、広場の方でアグニとボーマンさんが何か作ってるらしいんでみてやってください」
「わかった、がんばってくれよ」
そうして俺達は広間へとむかうとなにやら騒がしい声が聞こえてきた。
「これをこうするのはどうでしょうか?」
「おう、中々筋がいいのう、じゃが、儂だったらこうするぞい!!」
やたら盛り上がっているんだがどうしたんだろう?
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