12.アクシデント
「ふぁーあ、極楽っていうやつだな」
今日は一日書類の処理とパーティーの打ち合わせ、そして、招待客の選別など色々と気を遣う仕事が多かったこともあり、俺はお風呂に入って疲れを取っていた。
今度のパーティーはアスガルド領のお披露目会でもある。この付近を統治している貴族や、商人も集まるため迂闊な事はできない。そして、その中にはノアのお父さんもいるのである。
「でも、カシウス家はノアがうちに移民していることをどう思っているんだろうな。まあ、チャンスと言えばチャンスだよな。現物をみせてうちの商品を売り込むことに成功すれば、いまだ新しいものに抵抗のある貴族達も興味をもってくれるだろうし……」
悲しい事に俺のつぶやきに返事をする者はいない。お風呂は時間制で男女でわかれているのだが、ボーマンはマジで時々しか入らないし、他に屋敷に住んでいる男性はいない。正直これだけ広いお風呂に一人は寂しいんだよな……
「まあ、出た所勝負だよなぁ……エドワードさんに情報収集は頼んでいるし、そもそもの身分は俺の方が一応高いんだよな……」
一応王族だし……そして、本当に名目上だったのだが、カイルを倒したことによって、それも変わりつつあるのだ。そんな事を考えていると頭が疲れてくる。
とりあえず今はリラックスしようそう思って、持ってきたワインを飲みながら俺は無心でお風呂を楽しむことにするのだった。
だけど、疲れていたからだろうか、いつもより酔いが回ってきて……
バシャンという自分の顔がお湯を叩く音で俺は正気に戻った。どうやら俺はお風呂で眠っていたらしい。リラックスしすぎたぁ!!!
今何時だ……そう思っていると、脱衣所から何やら鼻歌が聞こえてくる。
うおおおおおおおおお、やべえよ。このままじゃノゾキ扱いされてしまう。とはいえ我が屋敷の女性は四人だ。
ガラテアだったら「うふん♡」とか言った後に冗談ぽく「お背中をながしてあげましょうか」とからかうように言いながら流してくれるだろう。
ノエルだったら「ご主人様……やっぱりそういうことだったんですね……」ってなんか変な決心をしてきそうで申し訳ない。
ノアは……やっべえ、冗談ぽく受け流すか、ガチで恥ずかしがるかわからねえ。とはいえ裸を見たら貴族間の問題になりそうで怖い。責任取れとかなったらまじでやべえよな。
ヴィグナだったら……「この変態……」といいつつもイチャイチャできそうである。疲れもたまっているし癒してもらえそうである。もちろん性的な意味で。
「世界図書館よ、答えろ。この鼻歌は誰の声だ」
『ヴィグナです』
『世界図書館』の返事に思わずガッツポーズをする。よっしゃ、勝ったぁぁ!! 四分の一を勝利したようだ。他の三人だったら「今入っているんだ、すまない」と大声で叫んで出るところだが、ヴィグナだったら大丈夫だろう。
ちなみに音声で判断って言うのは『世界図書館』でも結構難易度が高い。まあ、俺とヴィグナは幼馴染で恋人でもあるから理解度がちがうのだ。これも愛の力だな。
どんなポーズで彼女を迎えようか……そう思ってた時だった。もう一人の話し声が聞こえてきたのだ。
「ヴィグナさんからお風呂に誘っていただき嬉しいです」
「私も色々とゆっくりとお話を聞きたかったですし……こちらこそつきあってくれてありがとうございます。ノア様」
「だから、ノア様ではなくノアでお願いしますと言っているじゃないですか。ここにいる私はただのノアなんですから」
はぁぁぁぁぁぁぁ!? ノアもいるのかよぉぉぉぉぉ。
二人の会話に俺は顔の血の気が引いていくのを自覚した。まずい……これはまずい……二人っきりならデレデレのヴィグナだが、ノアの裸まで見てしまったとなると話は別である。
下手したら半殺しにされる……
俺は全裸のまま慌てて湯船から這い上がって、外の茂みに隠れる。するとそれと同時に見慣れた惚れ惚れようなすらっとしたスレンダー体つきの水色の髪の毛の美少女と、対照的に豊かすぎるものがバルンバルンと揺れている少女が入ってくるのが見えた。
湯気でシルエットしか見えないのが残念だが、逆を言えばあちらからもろくに見えないはずである。このまま脱走しろよって話だが、侵入者がこないように守護者の鎖があちらこちらに仕掛けてあるんだよなぁ……
このままやり過ごそう……そう思った時だった。
「そこに誰かいるのかしら? ノゾキだったら……どうなるかわかっているわよね」
すさまじい殺気の籠った視線で、ヴィグナがこちらを睨みつけてきた。さすが俺の騎士!! 優秀すぎるぅぅぅぅぅ!!
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