11.お風呂
「おお、グレイス様、これを見てくれよ。ようやく完成したんだ!!」
「いやいや、早いっての!! お前、ガラテアに余計な仕事を増やさせるんじゃねえよ。でも……すごいな……」
どや顔で自慢しているアグニに突込みをいれつつも、俺は感嘆の吐息を漏らす。そこには小さい小屋の横に結構広めのレンガの造りの浴槽が作られていた。これなら10人は入っても十分だろう。そして、誰のセンスかわからないが、ミスリル合金でできた俺の像まで置いてある。本当にこういうのはやめろよぉぉぉぉぉ。
短い間でこれだけのものを作るのは流石アグニである。とはいえこれだけのレンガを運んだりするのはかなりの重労働なため人間の手ではまず無理だろう。ガラテアは断らないからなぁ……などと思いあまり仕事を頼むなよと注意をしようとしていると、俺の思考を読んだかのような一言がかけられた。
「それが違うのよ。これを運んだのはノアのゴレちゃんなの」
「え? サラ……なんでいんの?」
俺とアグニが話していると、小屋の中からサラの声が聞こえた。一体何をしているのだろうか。俺が怪訝な顔をしているとアグニがにやっといやらしい顔をした。
「俺だってノエルがボーマン殿の手伝いをしてるのは知ってるから、ガラテアさんに余計な仕事を増やしたりはしねえよ。ノアのゴーレムはすごいぞ。ガラテアさんほどじゃないが重労働は色々とやってくれたんだ」
「へぇー、確かにそれはありがたいな。それで……なんでサラもいるんだよ?」
アグニに俺が聞くとこいつはにやりと笑って、俺の耳元で囁いた。
「せっかくだからな、サラに頼んでお風呂の具合を確かめてもらおうと思ってな。やはり、おっさんが入っているのを見るのより美女がお風呂に入っている方がグレイス様もテンションあがるだろ?」
「お前なぁ……まあ、あっちが納得しているならいいんだが……でも温度の調整は大丈夫なのか? この前みたいになったらやばいだろ」
「ふっふっふー、それがなぁ。ノアに頼んだら解決したんだよ。あの人はすごいぞ。希望通りの温度で魔法を込めてくれるんだ。おかげで温度調整もだいぶ楽になったぜ」
「へぇー、流石だな……」
もちろん、これはヴィグナが無能というわけではない。彼女の魔法は戦闘用に訓練をしたため基本の出力が高すぎるだけである。ノアは生活に使うように魔法を学んでいるので細やかな制御が上手なのである。
それにしても、ノアは本当に優秀である。ガラテア並みの重労働をできるゴーレムに、優秀な生活魔法の使い手はうちの領地に必要な存在だった。最初は警戒をしていたが、来てくれたことには感謝しかないな。
「だが、これはいいな……巨大な公衆浴場を作ってうちの領地の豊かさをアピールしてみるのか……お風呂場は紳士の社交場にもなっているからな。それに大浴場を持っていない貴族も多いし、貴族間での注目度も上がるか……アグニ、大浴場を作るのにどれくらいかかる」
「あー、ノアのゴーレムを貸してもらえるんならそんなにかからないぞ」
「わかった、ならノアには話を通しておく。後は実際このお風呂がどうかだな……うおおおおお」
「うわお」
「なーに変な声を上げてんのよ」
俺が声を上げたのには事情がある。サラが小屋から出てきたのだがその恰好のせいだ。なんでこいつタオル一枚巻いてるだけなんだよぉぉぉぉぉ。
いや、風呂入るんだから当たり前か……ってか、谷間がやべえ。ノアほどではないだろうが、多分ヴィグナより大きい。
「流石に裸で入れとは言わないでよね。あと、グレイス、あんたがちらちら谷間を見ているのはわかってるから何とかしなさい」
「うっせぇ、つい見ちまうんだよ。なあ、アグニ」
「俺はもう死んでもいい……」
からかうように言ったサラの言葉を受け流して、アグニにふったのだが彼は幸せそうな顔をしてサラの全身をじっくりと見ている。いや、気持ちはわかるが少しは隠せよ……
「じゃあ、入るわよ。へぇー、お湯加減はちょうどいいわね。ああ、床にもマジックストーンがあるから、お湯が冷たくならないように調整をされているのね。これってお湯の温度は調整できるの?」
「あ、ああ。もちろんだ。熱かったら氷がこめられたマジックストーンをお湯に入れて、温かったら、この穴に火の込められたマジックストーンをいれて火力を調整するんだ。慣れれば誰にでもできるようになるはずだぞ」
アグニがサラのタオル姿をチラッチラッ見ながら答える。難しい技術がいらないのはありがたいな……さすがに大浴場では温度の調整は別に考えなければいけないだろうが……
それはそれとして、この絵面はやばいよな……薄々気づいていたが、サラのスタイルむっちゃいい。長い脚にメリハリのついたからだ……思わず生唾を飲んでしまった。
お風呂に入るためにすらりとした綺麗な足を上げているサラを見ながらそんなことを思いつい、笑みがこぼれる。
「ずいぶん楽しそうね、私が見た事の無いくらい嬉しそうな顔をしているじゃない」
「別にそこまでは……うおおおおおおお!! なんで、ヴィグナが……」
「訓練が終わったから会いに来たんだけど……お邪魔だったみたいね」
背後からかけられたとき声に俺は思わず心臓が凍るかと思った。そこには無表情に俺を見つめているヴィグナがいたのだった。
こえええええ、カイルと戦ったときよりも死を身近に感じるぜ。
「お前いつの間に……」
「私は普通に歩いてきただけよ、どっかの変態がサラに夢中で気づかなかっただけじゃないの。せっかく、会えると思って急いできたのに……」
俺の言葉にヴィグナが冷たい表情のまま言った。後半はぼそぼそいっていたがもちろん聞こえている。クッソ可愛いな、おい。それと同時にすさまじい罪悪感が俺の胸を襲う。
「あの、これはわざとじゃなくてだな……」
「うおおおお、見えそうで見えない!! タオルが憎いぜ。だがそれがいいぃぃ!! グレイス様も一緒に楽しも……やっべぇ。サラー湯加減はどうだー!! 温度を調整するぞ」
こいつまじ空気読めよぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 相も変わらずいやらしい笑みを浮かべていたアグニだったが、俺とヴィグナを見るとさっと真面目な話に切り替えやがった。
「ふーん、楽しんでたのね」
「いや、これには深い事情がだな……」
アグニの言葉にヴィグナの目が更に鋭くなる。結局この後俺は拗ねているヴィグナにひたすら謝るのだった。
ちなみにだが、お風呂の出来は完璧だったようで、とりあえず、このお風呂は屋敷の者が使い、村に公衆浴場が作られることになったのだった。
そして、我が領土で初のパーティーの準備が始まるのだった。
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